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研究者オススメの一冊

【第5回】かたち・流れ・枝分かれ

記事

科学者を目指す若者のみなさんへ、いま読んでほしい一冊を海と地球の営みを探究するJAMSTECの研究者たちに聞きました。46億年の地球の歴史をたどる物語や不確実な自然のしくみを紐解くドラマ。科学者、技術者を目指したエピソードなど、海と地球を探る人々の思いを紹介します。

オススメする人

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オススメする人:小國 健二 上席研究員
(付加価値情報創生部門 数理科学・先端技術研究開発センター センター長)
 
California Institute of Technology, Ph.D 取得。東京大学地震研究所、慶應義塾大学を経て、現職。専門分野は応用力学、計算科学。主な研究テーマは「散逸を伴う不連続場での非平衡マルチフィジックスのための計算科学」。平たく言うと、モノが壊れるときに現れる「カタチ」に興味をもって研究しています。
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聞き手:豊福 高志 主任研究員
(海洋科学技術戦略部 部長)
 
静岡大学大学院博士(理学)取得。主な研究テーマは海洋に住む有孔虫という小さな生物が炭酸カルシウムの殻を構築する過程の解明。2019年度から研究開発の社会連携や広報活動などを担っている。

豊福:みなさん、こんにちは。 JAMSTECの豊福です。 今回は、数理科学・先端技術研究開発センターの 小國健二さんにお話を伺います。小國さん、よろしくお願いいたします。

小國:よろしくお願いいたします。

豊福:いきなりですが、小國さんの研究のご専門は何ですか?

小國:私の専門は応用力学とか、計算科学、と呼ばれる分野です。例えば、建物。構造物が地震でどうやって壊れてしまうのか。 また、地震が起きるときに地下でどんなことが起こっているのか。 そういうことを、計算して予測する研究をしています。

お醤油をポツンと一滴たらしただけで「おおっ!」って思うような毎日が始まります

豊福:今回ご紹介いただく本が後ろに並んでいますね。

小國:はい。 今回紹介するのは、 フィリップ・ボールという人が書いた『Shapes』、 『Flow』、 『Branches』、 という三部作です。

写真紹介する書籍を背景にお勧めの理由を語る小國

豊福:英語の本ですね

小國:はい。日本語版もあります。『Shapes』が『かたち』、 『Flow』が『流れ』、 『Branches』が『枝分かれ』、となっています。

豊福:どんな本なんですか。 タイトルが分かりやすいんで、そのままですけど(笑)

小國:そうですね(笑)自然の中で目に入ってくる「かたち」について書かれています。 特にお薦めしたい理由があるんです。

豊福:といいますと?

小國:私は、この本を、高校生に読んでほしいなあと思っています。

豊福:若い方たちにオススメしたい。

小國:はい。 これ、一回読むと、 世界の見方が、これまでと、全く違ったものになるんです。

豊福:それはすごい経験ですね!

小國:そうですね!これまで何かを見るときに、 ただ、それが目に入ってきただけで、実は見てなかった。 この本を読んじゃうと、 本当の意味で、ものが見えてくる。 そんな体験ができる一冊だと、私は思っています。

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今回紹介する書籍の書影。左から、「かたち」、「流れ」、「枝分かれ」。

豊福:なるほど。僕も大学での講義の最初に 「君たち、これから海の見方が変わるよ」と言うんですよ。そういうことを読者がこの本で体験できるんですね。

小國:そうですね。例えば、おうちのキッチンで料理をしている時に、 火にかけられて、温められているみそ汁の流れ、とか。 または、ボールの中に小麦粉をパラパラ~と入れた時の形とか。あと、なんだろう。 だし汁の中に、お醤油をポツン、と一滴たらしただけで その形を見て、なんか、「おおっ!」って思うような 毎日が始まりますね。

豊福:世界を支配する何かが分かるんですね!

小國:何かが見えてくるような気がする、と思います。

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対談する二人(左:小國、右:豊福)

ありとあらゆるものの中に 数学の方程式が存在しているんです。

小國:キッチンだけに限らずに、外を歩いているときに、 これまでは空をぼんやりと見ていたんだけど それが、「んんっ!なんだこれはっ!」という毎日になる。川を見ても、海を見ても。 砂丘を見ても、「おおっ!」となる。 まあ、あまり家の近くに砂丘はないと思うんですけど(笑)もし通学路が田んぼを通るとしたら、 乾燥した田んぼのひび割れを見ても 「何だ、これはっ!」と思ってしまう。

豊福:身の回りにある模様が気になり始める感じですね。

小國:気になり始めますね! ものすごく、気になり始めますね!道端の草木も、気味が悪いと思っていた虫の模様さえも気になる。 そんな経験ができる本です。

豊福:それは確かに、若い時に早ければ早いほど経験するといいですね。

小國:はい、そうなんですよ。 早ければ早いほど良くて。

豊福:大人でもよさそうですけどね。

小國:そうですね(笑)大人でも、「俺はこれまでぼんやりと生きてきたのか!」と。 退屈な日常から離れることができるというか(笑)

豊福:新鮮な感覚ですね。

小國:奇勝と言われるような風景じゃなくても 毎日が驚きの連続になる、 そんなヒントを与えてくれる本です、はい。

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それぞれ(かたち、流れ、枝分かれ)の現象の後ろには、 数学の方程式が存在しています。(小國)

豊福:本の表紙もきれいですね。 これも、数学とか物理に支配されている、 ということだと思うのですが。

小國:はいはい。

豊福:僕の目には、「きれいだな、美しいな」、とは思うんですけど それは、なんでしょうね?

小國:(表紙の写真のような)ありとあらゆるものの中に、 特徴的で、ものすごく複雑な形が表れています。なんで、こんなかたちや流れや枝分かれが起こるんだろうと とても不思議ですよね?

豊福:本当に不思議ですよねえ。

小國:こんな複雑なものを作ろうとしたら とっても複雑な設計図がいる、 と、普通は思うんです。

豊福:ええ、思います。

小國:ところが、実は複雑な設計図が一つずつあるわけじゃないんです。ものすごく単純な物理や数学が組み合わさった境界のところ、 ちょっと違った物理が出会った境界のところで、 不思議で複雑な形が作られている。しかも、勝手に。自発的に。 設計図無しで作られているんです。それぞれ(かたち、流れ、枝分かれ)の現象の後ろには、 数学の方程式が存在しています。 異なる方程式が組み合わさった現象が こんな不思議なものを作り出しているんです。

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異なる方程式が組み合わさった現象が こんな不思議なものを作り出しているんです。(小國)

この本を読んだその日から、
あなたは、考え続ける人生が始まる!

豊福:なるほど。すごく興味がわいてきました。

小國:特に、この本を高校生諸君が読んでくれると これまで、ただぼんやりと、「きれいだなあ」、と それくらいのイメージで眺めていた世界を 「見て」、「考える」。 そんなきっかけになると思うんですね。だから、この本を読んだその日から、 あなたは、考え続ける人生が始まる!

豊福:なるほど。

小國:そんな転機になる本だと思います。あと、和訳版を読んだ後でいいので 元の英語でも、ぜひ読んでほしいなと思います。 科学的な事柄について論理的に書かれている。 でも、無味乾燥な英文じゃない。

豊福:うん。

小國:「おもしろい英語の文章って、こうなんだ!」、と とってもよくわかるんですね。

豊福:うんうん。

小國:あと、些末なことになるかもしれませんけれど・・・この手の英語の文章をちゃんと読んでおくと 大学入試で非常に役に立つじゃないかなあ。

豊福:それは高校生にお役立ち情報ですね!

小國:そうですね(笑)大学入試の英語って、特に理工系の大学では、 論理的な英語の文章を読ませることが非常に多いので こういった文章に慣れていると、 ちょっと、楽になるかなあと。 そんな気がします。

豊福:なるほど。今日は、考え続ける人生の転機となるお話から、 受験生へのヒントまで、ご紹介いただきました。どうもありがとうございました。

小國:どうもありがとうございました!

いま読んで欲しい3冊!

小國 健二 上席研究員のオススメ

3つの書影写真
かたち―自然が創り出す美しいパターン
フィリップ・ボール/著、林 大/訳(早川書房)
 
流れ―自然が創り出す美しいパターン2
フィリップ・ボール/著、塩原 通緒/訳(早川書房)
 
枝分かれ―自然が創り出す美しいパターン3
フィリップ・ボール/著、桃井 緑美子/訳(早川書房)
 
※原書はオックスフォード大学出版局より出版

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