科学者を目指す若者のみなさんへ、いま読んでほしい一冊を海と地球の営みを探究すJAMSTECの研究者たちに聞きました。46億年の地球の歴史をたどる物語や不確実な自然のしくみを紐解くドラマ。科学者、技術者を目指したエピソードなど海と地球を探る人々の思いを紹介します。
オススメする人
豊福:みなさん、こんにちは。 今回は研究プラットフォーム運用開発部門の福場さんにおすすめの本を紹介していただきます。 福場さん、こんにちは。
福場:こんにちは。よろしくお願いいたします。
豊福:福場さんはどんな研究をしているのですか?
福場:海中ロボットにつけるセンサーを開発しています。 学生の時は微生物を研究してきましたが、 その微生物を調べるセンサーの開発に今は取り組んでいます。 なので、生物学と工学の両方が専門ですね。
豊福:そんな福場さんが紹介してくれる本が今日は2冊あると伺いました。
福場:はい、1冊目は、こちら。 『星の墓標』という、谷甲州さんが書いたSFの本になります。
豊福:ほう。SFの一冊ですね。
福場:はい。ハードなSFって感じですね。 宇宙空間で人類が戦争するという、 あまり明るい話じゃないんですけど。
豊福:たしかに。
エンジニアリングが 「かっこいいな」と 思い始めたんです
福場:このSF作品では、機動戦士ガンダムのような派手なロボットとか、 宇宙戦艦ヤマトが波動砲を打つ、みたいに だいぶ先の未来にあるような技術は出てこなくて、 あくまで我々の手が届くような技術を使って宇宙に人類が出ていくと どういうことになるだろうか、という物語がえがかれています。
豊福:この作品は福場さんの研究人生の礎になったりしているのですか。
福場:ええ、そうなんです。 大学生の時にこの本に出会いました。 表紙にシャチのイラストが描かれていますよね。 (※当時の表紙イラスト) その当時、僕は海の中の微生物を研究していたので、 表紙を見て、海のことが書かれているSFなんだなって気になって 軽く手に取ってみて読み始めたんです。 すると、読んでいくにしたがって、 扱っているテーマが深い、といいますか。
豊福:ハマってしまった。
福場:ええ。 フィクションなのですが、 海と、宇宙と、エンジニアリングの関係について 非常に面白く語られているので、そこで興味を持って。
豊福:なるほど。
福場:エンジニアリングが非常に「かっこいいな」と思い始めたんです。 僕自身、微生物の研究をしながらも、 微生物を調べるためのメカを これからの自分の研究としてやっていきたいなと思いました。 あの時に感じたことが、今の研究につながっていると思います。
サイエンスとエンジニアリングって両輪なんです
豊福:サイエンスとエンジニアリングの関係って 福場さんの中ではどういう関係ですか。
福場:両輪ですね。 新しいナニカを発見しようとしたときに 新しいツールを持っているかって、大事。
豊福:新しい発見につながりやすい?
福場:そうですね。 JAMSTECでは海中ロボットを作っていますが、 ロボットだけが海の中にいても、なかなか新しい発見はできない。 世界で誰も見たことがない微生物の量や種類というものが 現場で、しかもリアルタイムに検出できるセンサー。 そういうものがあれば、 新しいことが見えてくるのではないかと研究しています。
豊福:福場さんが作っているセンサーって、めっちゃ小っちゃいですよね?
福場:ちょうど、いまここに。 (と、研究室の後ろからゴソゴソと何か取り出してくる)
福場:今、作っているのがコレです。 3Dプリンターで作ったセンサーを入れる耐圧容器。
豊福:ガチャガチャじゃないですよね?
福場:ガチャガチャじゃないです(笑) これでも計算上は水深1000メートルまで耐えらえる。 この中に、基盤も電源も含めて入ってしまうようなセンサーを作っているところです。
豊福:へえ。 制御部も入ってその大きさなんですね。 それは相当ちっさいですね!
福場:そうです。 海中ロボットが小さくなっていくのに合わせて 搭載するセンサーも小さくするというのは 研究のひとつの大きな柱ですね。 このくらい小さければ、海の多くの場所で一気に計測ができる。
豊福:このSFの中にも、こういう装置が出てきてるんですか。
福場:『星の墓標』の中でも、人間が宇宙に出かけていくと、 人を生かすためにサポートするシステムを載せなくてはいけないし 人がつぶれないように加速度を抑えなければいけないとか、 人間が邪魔になってくるんですね。 そうすると、自動制御をしようという話になってくる。
豊福:ええ。
福場:この本は、いまから30年以上も前に書かれたSFなんですが、 この物語では、生物の脳を組み込んで自動制御させようとするんです
豊福:サイエンスフィクションならでは展開ですね。
福場:宇宙空間で適応して戦うのにちょうどいい生物というと、海の生き物。 というのも、同じ三次元空間である海で生活していて、 そこそこ知能があって群れで活動しているシャチが選ばれて 宇宙戦艦を自動制御させるという 実は悲しい物語なんです。
豊福:生物研究の倫理とは別世界の フィクション作品ならではの自由な発想ですね。
福場:ただ、これって、我々のやろうとしていることとかなり近いんです。 もちろん、生物の脳を組み込もうとしているわけではなくて。 コンピューターを組み込んで、 海の中で自分で考えて動くロボットをまさに作ろうとしています。 エンジニアリングは進歩していきますから 必ず省エネ化、無人化という方向にはいくと思います。 そういう点で、いまから30年前のSF作品が、 すでに同じような発想になっているということが 今考えても非常に面白いな、という一冊です。
研究を動かす情熱とか熱意ってすごいなって。
豊福:まだまだSFの話題で盛り上がりそうですが、 次のおすすめの本は何でしょうか。
福場:次は、少し趣が代わりまして、 『うなぎ 一億年の謎を追う』です。 日本のうなぎ研究で大変有名な塚本先生が小学生向けに書かれた本です。
福場:塚本先生は40年間くらい、ずっとうなぎを追いかけていて、 特に、どこで産卵しているのかを研究されているんですね。 2015年くらいだったかな。 「海の中でうなぎの産卵シーンを撮影するためのカメラを作ってくれないか」 と塚本先生が僕のところに相談に来られたんです。
豊福:たしか面白い名前のカメラでしたよね?
福場:ええ、うなぎを撮るカメラなので、「ウナカム」と言います(笑)
豊福:ウナカム!
福場:それから3~4年間くらいですかね。 毎年、塚本先生と一緒に航海に出て、 太平洋のマリアナ沖に「ウナカム」を海に沈めて 撮影に挑むということをやってきています。
福場:塚本先生と一緒に研究をする中で、いろいろとお話を伺いました。 40年間ずっとうなぎを追いかけられてきた そのストーリーがとにかく面白い。 海の上でどういう風に研究をしているのか 良くわかると思います。
豊福:うなぎを研究する面白さと、海洋観測の面白さの両方があって、 さらに塚本先生の研究人生まで書かれている。
福場:文章もとても分かりやすい一冊です。
豊福:塚本先生は、とにかく、本当にうなぎに情熱を傾けた方ですよね。
福場:僕はカメラシステムの専門家ではなかったので、 実は、はじめは断ろうと思ったんです。 けれども、塚本先生の勢いに押されてしまった(笑)
豊福:やっぱり、研究を動かす情熱とか熱意って定量化できないですよね。
福場:そうですね。 しかも、熱い人の周りには熱い仲間が集まっているんですよね。
豊福:うんうん。
福場:そういうのに触れると、僕も、まあ、かなり影響されてしまって。
豊福:そういう発火はありますよね。
豊福:若い人たちがこの本を読んで、 研究ってこんな感じなんだな、と知ってもらえるとうれしいですね。
福場:そうですね。 海の上の研究は、大変だけど面白そうだな、ロマンがあるな、って。 十分に感じられるんじゃないかなって思います。
豊福:いやあ、海のロマンが詰まったお話ですね。 今日は楽しいお話をありがとうございました。
福場:はい、ありがとうございました。
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