科学者を目指す若者のみなさんへ、いま読んでほしい一冊を海と地球の営みを探究するJAMSTECの研究者たちに聞きました。
46億年の地球の歴史をたどる物語や不確実な自然のしくみを紐解くドラマ。科学者、技術者を目指したエピソードなど海と地球を探る人々の思いを紹介します。
オススメする人
豊福:みなさん、こんにちは。今回は、「海の日」の特別編ということで『海洋白書2021』をご紹介します。ご紹介いただくのはJAMSTEC超先鋭研究開発部門の高井さんです。(新型コロナウイルス感染拡大防止のためオンラインでの対談です)
高井:こんにちは。よろしくお願いいたします。
高井:『海洋白書』というのは、国内外の海洋・沿岸域に関するさまざまな出来事をまとめた一冊で私も編集委員を務めました。
できるだけ一般の方々にも手に取ってもらえるような企画を考えたくて、世界で初めて5つの海溝の最も深い場所まで潜るという冒険を支えた有人潜水艇を作った米国トライトン・サブマリン社のパトリック・ラーヒィ社長に、不可能と思われていたことをやる秘訣を尋ねようとインタビューしました。
豊福:なるほど。この巻頭特集のタイトルに全部のメッセージが詰まっていますね。「新しい海洋科学の10年」で「民間による深海探査への挑戦」。
高井:今年から始まった「国連海洋科学の10年」の7つの観点のうちの「夢のある魅力的な海 」をイチ押ししたインタビューです。
豊福:ラーヒィさんとのインタビューを読んだのですが、とても面白かったです。
高井:インタビューしていた自分もめちゃくちゃ面白かったですよ。
豊福:海の魅力を知らせるのに、僕らは困っているじゃないですか。ラーヒィさんは、海をみんなに見せたらいいんだ、と雄弁におっしゃっていますね。
高井:そうそう。
豊福:海中へ連れていきたい、ということを一生懸命に言っていますね。
高井:そうですね。みんなに海を見せたいと、このインタビューでも自分の言葉として血が通っていました。
豊福:うんうん。
高井:言いよどむことなく、2時間あったインタビュー時間の内の1時間50分くらい語ってくれました(笑)
豊福:深海に連れていきたい、と。
高井:めちゃくちゃ情熱的なんですよ。
高井:海が好きな人は多いと思うんだけど、有人潜水船を作って深海を見せたいという夢を描いたとしても、それを商売にして、しかも会社として続けることは、なかなかできないことだと思いますよ。
豊福:情熱をもって取り組んでいるからこその、資金提供のチャンスをものにしていますね。
高井:そうなんだけど、2007年に会社を立ち上げて、最初は苦労されたんだと思いますよ。
豊福:インタビューでも書いてありましたね。今日までのストーリーも、これまた良い話でね。
高井:本当に。レジャー用にフルビジョン透明球の潜水艇なんて、誰もそんなの買わないでしょうと思うけど、最終的には5つの深い海を最初に潜らせたんですよ。すごいっすよ。
豊福:すごいですね。ラーヒィさん本人も、自分は科学者ではないんだと。海が好きなんだと熱心におっしゃっていますね。
高井:ラーヒィさんは作業用ダイバーとしての経歴のある人で。
豊福:そういう方が、きれいな海に、情熱をもって、これだけすごい潜水艇を作って。さらに技術者が付いてきているというのは、情熱にほだされているのでしょうね。
高井:本当にそうなんでしょうね。
豊福:高井さんご自身も、最近は、海をもっと見せたい(魅せたい)、と若手人材育成の航海を実施していますね。高井さんもお兄さんからおっさんになってきているなと。
高井:おっさんどころか、若者を見守るおじいさんの気持ちですよ。
「夢のある魅力的な海」このスローガンのおかげで、僕たち科学者は生きる気力がわいてきた。
豊福:「国連海洋科学の10年」の7つの観点に科学と並んで、「夢のある魅力的な海」という観点が挙げられているのは、どういう意味なんですか。
高井:そもそも、役に立つことって、そんなにすぐには出てこないし、役に立つまでに、「死の谷」といわれる、ものすごい長い期間を耐えないといけないんですね。
耐えるモチベーションには、世代を超えて受け継がれるような想いが必要だと思います。なので、あえて「魅惑的な海」というスローガンを盛り込んだのだと思います。
豊福:これは本当に素晴らしいですよね。
高井:このスローガンのおかげで、僕たち科学者は生きる気力がわいてきた。
豊福:みんなで、もっと面白がろうよ、というのがこのメッセージに含まれていますね。これは、共感、ですね。
高井:まさに、そうです。共感を失ったら、あっという間に廃れていく。
豊福:この対談は、本を紹介しているのですが、実は本を紹介するJAMSTECの人物を紹介することが多くて。
高井:なるほどね。
豊福:最近メディアに出ている「高井研」とか、学会で研究発表をしている「高井研」とは違う、高井さんのもう一つの、なんていうのかな、まじめな部分、幅が広い部分が、この「海洋白書2021」のインタビュー記事には出ているなと思いました。
今日はありがとうございました。
高井:ありがとうございました。
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