がっつり深める
研究者コラム
2016年11月22日の福島県沖地震はなぜ発生したか -東北地方太平洋沖地震後、ゆっくりと続く地殻変動との関係-
地震津波海域観測研究開発センター
地震津波予測研究グループ
飯沼 卓史 研究員
東日本大震災をもたらした2011年東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)は、日本列島とその周辺の地殻を大きく変形させました。福島県の浜通り地方は東向きに1.5〜2 m程度動き、その沖合の海底観測点は5 mほど東に移動したことが明らかになっています。2016年11月22日に発生した福島県沖の地震は、この海底観測点よりも陸に近いところの海底下のプレート境界より上の陸側プレート内部で起きました。水平方向に引っ張りの力がかかるときに発生する正断層型と呼ばれる地震でした。このタイプの地震は、東北地方太平洋沖地震後に陸側プレート内部で数多く発生しています(図1)。
東北地方太平洋沖地震による地殻の変形は、地震時だけでなく、その後もずっと続いています。その空間パターンが一様ではないことが、海底・陸上双方での観測によって明らかになってきました。大地震後の変形の原因は大きく分けて二つあります。一つは粘性緩和と呼ばれる現象で、地震時の大変動が引き起こす地下数十kmより深いマントルの流動1によるものです。東北地方太平洋沖地震の際に、プレート境界が大きくすべった領域では、沈み込んでいる太平洋プレート側のマントルにおける粘性緩和の影響が強く働き、海底が西向きに動いて地殻が東西に短縮しています。ところが、今回の福島県沖の地震が起こったところは、付近の海底観測点が、陸上の浜通り地方の観測点よりも大きく東向きに動き続けており、東北地方太平洋沖地震の時と同じように、引き続き地殻が東西にゆっくりと引き延ばされていると考えられます(図2)。これは、大地震後の変形のもう一つの原因である、プレート境界での余効すべり2が福島県から茨城県にかけてのはるか沖、日本海溝に近いところで起こっているためです(図3)。11月22日の福島県沖の地震の震源周辺では、余効すべりによって東北地方太平洋沖地震後も地殻に水平方向に引っ張りの力がかかり続けたため、今回のような正断層型の地震が発生したものと考えられます。
このように、今回の福島県沖の地震の発生には、東北地方太平洋沖地震の余効すべりが影響していますが、図3を見ると、最も大きな余効すべりが生じているのは青森県から宮城県にかけての太平洋岸の下、プレート境界の深いところになっています。その北東側に位置する三陸沖北部は、1968年の十勝沖地震のようなマグニチュード8弱の地震が約100年間隔で繰り返し発生する領域です。しかし、この領域には、東北地方太平洋沖地震の破壊も余効すべりも及んでおらず、依然として強く固着し、次の地震への準備が着実に進んでいると考えられます。三陸沖北部の周囲のすべりが東北地方太平洋沖地震以前よりも速くなっていることから、次の三陸沖北部の地震は平均よりも短い発生間隔で起こることが予想されます。
参考 【プレスリリース】海底地殻変動データを用いて東北地方太平洋沖地震に引き続くゆっくりすべりを高分解能で検出
―巨大地震の発生過程の理解に重要な知見―
1マントルの流動:地球内部は中心に近づくほど高温になっており、地下深くのマントルを構成する岩石も柔らかくなっているために、流体としての性質も示すようになる。
2余効すべり:地震が発生した後に、地震時にすべりを起こした断層が、人間が感じるような地震波を放出せずに、さらにゆっくりとずれ動き続ける現象。