南海トラフや日本海溝など海域巨大地震発生帯において、大規模な調査観測によりプレート境界など地震断層面の3次元形状やその周辺の岩石物性などの詳細把握を進めています。また、海底下に残された過去数千年以上にわたる地震や津波の痕跡から巨大地震の発生履歴を解き明かす取り組みも進めています。これらの成果を基に、地震・津波発生予測の高度化に貢献していきます。
地震発生帯研究センター
センター長 藤江 剛
南海トラフや日本海溝、千島海溝などのプレート沈み込み帯では、強い揺れや津波を引き起こす通常の地震が繰り返し発生しているほか、ゆっくりとプレートが動きほとんど揺れを引き起こさない「ゆっくり地震」と呼ばれる現象も発生しています。ゆっくり地震の発生条件はまだよく分かっていませんが、その解明は巨大地震発生の仕組みの理解にも直結するものと期待されています。
地震発生帯研究センターでは、海底下に潜む地震断層など地震発生場の可視化を目指し、海底広域研究船「かいめい」の地震探査システムや海底地震計などを活用した海域地下構造イメージング研究を実施しています。最近は特に南海トラフ・プレート境界断層の詳細把握研究に注力しており、多数の小規模海山が沈み込んでいる場所でゆっくり地震が発生していることや、巨大地震とゆっくり地震の発生域の境目は地下構造の異常帯が存在していることなどが新たに分かってきました。地震発生の仕組みの理解を目指し、構造異常帯の物性などに関しても、さらなる研究を進めていきます。
西部南海トラフの地震発生帯モデル
プレート間の固着が強い場所と弱い場所の間に、上盤プレート内の低速度域があることが示唆される。
中西部南海トラフ沈み込み帯の断面図
土佐ばえトラフ下の上盤側プレート内に低速度域が存在することを示唆している。
海域で長期間地震観測するには、陸上から海底ケーブルで電源供給する必要があるなど大規模で高価な専用観測システムが必要になるため容易ではありません。しかし、最近、電話やインターネット通信などにも用いられている一般的な海底ケーブルをそのまま地面の揺れを感知するセンサーとして活用する新しい観測技術の開発が進んできたことで、状況が大きく改善される可能性が出てきました。
海域地震火山部門の地震津波予測研究開発センターでもこの観測技術の開発を進めており、実際に室戸岬沖の数十kmの海底ケーブルに沿って、数mおきに多数の特殊な地震計を置いて観測したのと等価なデータの取得に成功しました。地震発生帯研究センターでこのデータを詳しく解析したところ、海中の環境ノイズの中から地中を伝わるさまざまな地展波を抽出できることが分かりました。さらに、抽出した地震波を用いて海底ケーブル下の地下構造を可視化する解析技術の開発にも成功しました。
環境ノイズと既存の海底ケーブルだけで地下構造を可視化できるこれらの新しい観測・解析技術は、海底ケーブル下の地下構造の変化を常時モニタリングできる可能性を秘めています。地震発生帯の地下構造変化の把握に向けて、今後も観測・解析手法の高度化を進めていきます。
東北地方太平洋沖地震が起きた日本海溝の海域調査では、地震による地形変化や深海底の土砂堆積物の発見がありました。また、時代をさかのぼっていくと、過去にも同じような場所で同じような規模の地震や津波が起きていたことが、歴史記録からも明らかになっています。将来発生する巨大地震に備えるためにも、地震履歴を把握することは重要です。
地震で海底が大きくゆれると、巻き上げられた土砂が雪崩のように斜面を下り、深海底に到達し堆積します。こうして形成される地層を「タービダイト」といいます。地震の記録として海底下に残るため、海底から採取したコア試料を調べると、タービダイトから繰り返し起きる地震の間隔が分かり、またその分布から海底の大きくゆれた範囲を推定できます。さらに、海底地形変化が明らかになると、地震時の海底の上下変動が分かり、津波の研究にも役立ちます。
日本海溝の地層を採取したコア試料からは、歴史記録に対応するタービダイトが確認でき、地震による地形変化の範囲を把握できました。現在調査進行中の南海トラフ域については、採取されたコアで繰り返し出現しているタービダイトが地震性なのかどうか判別したうえで、ここに発生した地震・津波との対応を明らかにし、地震・津波発生履歴の把握を目指しています。
今後も、JAMSTECの研究船を用いて、南海トラフ、日本海溝、千島海溝の海域を中心に、広域な海底地形調査や過去数万年までの地震発生記録の復元を行っていきます。
センター長 藤江剛
専門:海域地震学
東北地方太平洋沖地震のように、巨大地震の多くは海底下で発生しています。現場観測なくしてその実態を語ることはできません。我々は海域実観測に基づき地震発生帯の過去、現在、そして未来の解明に挑みます。