がっつり深める

研究者コラム

福徳岡ノ場の軽石を見る、あちこちで見る、じっくり見る、軽石以外も見る

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今や日本全国へと広がった「例の軽石」

先日(9/17-19)新潟大学で開催された鉱物科学会の年会に参加してきました。新潟大学は、歩いて20分ほどのところに五十嵐浜という海岸があるのですが、海岸へ行ってみるとプラごみや木と一緒に福徳岡ノ場のものと思われる軽石が流れ着いていました(図1(1)。20228月中旬ごろから北陸以北の日本海側でもチラホラと軽石の報告がされていたのは知っていたのですが、実際に新潟でも、沖縄などで見られたものと同じ軽石が見られるというのは、ちょっとした感慨を覚えました。

小笠原の海底火山「福徳岡ノ場」が噴火したのは昨年の8月、沖縄などで大量漂着が話題に上がり始めたのは昨年の10月のことで、約1年の月日が流れました。一部の地域では船の航行に支障を来すなどの実害も出て、また見慣れた海岸の光景が様変わりしたことに対してショックを受けた方も多かったかと思います。インパクトの強さや、「チョコチップクッキー」とも称されるような特徴的な見た目もあってか、軽石の漂着地域では連日SNS上でも話題が投稿されて、軽石の漂流が広がっていく様子はTwitter上で比較的精度良く追いかけることが出来ました(図12))[1]

軽石の漂流は202110月の奄美・沖縄周辺を皮切りに、黒潮に乗って11月下旬には関東地方周辺へ、一方西方向も同時期に台湾やフィリピンへと流れ着き、現地のニュースで話題になりました。西へ流れた軽石はルソン海峡から南シナ海へと入り、2月にはタイまで辿り着きました[2]。こうした軽石の漂流現象が丁寧に記録されている例として、1924年の西表島北北東海底火山の噴火がある、ということは以前にJAMSTECのコラムでも紹介されましたが[3]、実際の福徳岡ノ場軽石はどうだったでしょうか?図1(2)のように2022年の64日に長崎県の壱岐島で確認されたのを皮切りに、8月下旬には日本海側の各地で見られ、9月頭には北海道でも確認されています。太平洋側では、5月末に三陸沖を航行していたウェーブグライダーという無人観測機が漂流する軽石を捕獲しており、こちらでも北上が進んでいたことがわかります。これらの漂着時期は1924年噴火の後に見られた軽石北上タイミングとそれなりに一致しており、日本海側を北上した季節感は100年前とほぼ同じだったことになります。

歴史記録とはほぼ同じ動きをした軽石ですが、現代のシミュレーションはその動きをどう予測していたでしょうか。JAMSTECが毎週更新している軽石漂流シミュレーション動画を見てみると、45日更新の動画で、41020日頃に軽石が壱岐島周辺を抜けて日本海へと侵入していくと予測されていました[4]。実際に壱岐島で軽石が見つかった日付とはズレがありますが、軽石が浜で見つかるタイミングは沖合に軽石がやってくるより後であることや、シミュレーションで考慮した風の影響などの不確かさもありますので、多少は仕方のないことなのかなと思います。

図1(1)新潟市の海岸で見られた福徳岡ノ場の軽石。木切れやプラスチックごみのような軽いものと一緒に浜辺で帯を作っている。(2)主にSNS上での情報に基づく軽石漂着地図(吉田ほか、2022[1]を改変)

この夏、福徳岡ノ場の現状を調査してきました

そんな「浮く軽石」の話題が国内を騒がせたここ1年ですが、火山から放出される岩石は全てが浮いて漂流するというわけではありません。火山の近くでは軽石以外の物質が沈んでいる可能性もあり、そういった岩石からは軽石が記録しているのとは異なる切り口から噴火の実態を探れる可能性があります。

そんな岩石を求めて、JAMSTECではこの8月に調査船「よこすか」を使って福徳岡ノ場周辺の調査航海(YK22-15)を実施しました。主な目的は、巨大な網籠を使って海底の岩石を底引き採取する「ドレッジ調査」と、ドローンを使った火山の現状調査です(図2)。今福徳岡ノ場がどういう状況にあるのかも観察してきました(図22))。

図2(1)福徳岡ノ場の海底地質調査を行うための「さつき」型ドレッジャ。この巨大な鉄の網籠で底引きして海底の岩石を採取する。(2)2022年8月20日の福徳岡ノ場ドローン空撮。穏やかな様子だが、火口から出てきただろう泡が列を成して海面を流れていた。

火山の近くでこそ見えてきた浮かばない軽石と、そもそも軽くない石

実際に海底の岩石を採取してみると、私たちがこれまでに見てきた漂流軽石とは様相の異なるものも数多く放出されていたことがわかってきました。

例えば、図31)の軽石は海底に沈んでいたものです。よく発泡していてきちんと軽石と呼べるようなスカスカ具合なのですが、大量のストローを束ねたような構造をしていて、これでは水に浮かぶためのガスを中に溜め込むことは難しいでしょう。このような軽石は「材木状軽石(woody pumice)」とも呼ばれ、これまでも沖縄トラフでの「しんかい2000」での調査や5]、伊豆小笠原弧の須美寿島の近傍の海底調査6]でも見つかっていて、海底噴火の際に出来るものだと言われています。

また、図32)のような巨大な溶岩も採取でき、現在、噴火の実態をより詳しく調べていく鍵になるのではないかと期待しつつ分析を進めている所です。

図3(1)火山近海で採取された「材木状軽石」は、沢山の管を束ねたような組織をしており、中身はスカスカなのにガスを貯めることが出来ず、沈む。(2)火山の近くでは軽石とは様相が異なる溶岩も採取された。

軽石を観察してみよう

先日の台風11号が沖縄地方を通過した後、沖縄では浜に溜まっていた軽石が減ったり、あるいは、軽石が河川に大量に流れ込んだりする現象が見られました。1991年に神奈川県の平塚で、台風の通過後に福徳岡ノ場の軽石が漂着しているのが見られましたが、これは、1986年の福徳岡ノ場の噴火で噴出した軽石がどこかの陸地に溜まっていたものが、台風によって移動させられたものと考えられています7]。今回漂流した軽石は量が非常に多かったので、台風等による再流出などを経てしばらくは移動したりすることもあるのでしょう。しかし、いずれ各地の海岸と同化したり海底に沈んでいき、噴火の記録として歴史の一部となっていくと考えられます。

そんな軽石が実際浜辺でどう観察されるのかを簡単に紹介します。全国各地へと広がった軽石は、図41)のようにプラゴミや木切れと一緒に浜辺に打ち上げられることが多いです。身近な海岸のゴミを丁寧に見たら、図42)のように軽石を見つけることが出来るかもしれません。「黒っぽい粒が含まれている灰色の軽石」であれば、それは福徳岡ノ場から流れてきたものである可能性が高いでしょう。また、軽石には、運が良ければ図43)のような海生生物がついていることもあります。長い間海を漂う軽石は、生物が移動するときに丁度良い「筏」の役割も果たすのです。

軽石に含まれる黒い粒を少し拡大して見てみましょう。多くは図4(4)のような斜長石と呼ばれる鉱物の塊です。斜長石は無色の鉱物なのですが、福徳岡ノ場の軽石では黒っぽい色の粒の一部として見られる事が多いです。この理由は図4(5)にあります。軽石を光が透けてしまうくらい(0.03mmくらい)の厚さに削って観察すると、斜長石の周りに茶色のガラスがこびりついているのが分かります。この茶色いガラス、顕微鏡では見えない「ナノライト」と呼ばれる10nmくらいの磁鉄鉱の粒が出来ているため、色が茶色く濁って見えます。こういった鉱物とガラスの関係もまた、福徳岡ノ場の噴火の特徴を示しているのだと考えられます。

更に、軽石中の黒い粒には図46)のようなものが含まれていることもあります。これはかんらん石という鉱物の中に、今はガラスとして固まってしまった「玄武岩質マグマ」が取り込まれているものです。玄武岩質マグマは地下深くで出来た熱いマグマで、その熱いマグマが火山の下のマグマ溜まりに影響を与えたことが、噴火の引き金となったと考えられています8]

軽石自身は私たちが直接見ることが出来ない火山の中の出来事を記録していて、その漂流現象は生物活動や海流の動きについてリアルタイムで教えてくれています。そんな色々な記録を読み解いていくことで、火山活動と関連現象について想像を巡らせる研究を、JAMSTECは続けていきます。今後の成果発表にご期待ください。

図4 (1) 軽石はこの写真のようにゴミや海藻・木切れと一緒に打ち上げられていることが多い(房総半島での漂着状況)。(2)アップで見てみると黒い粒を含んだ灰色の軽石が紛れている。(3)軽石の中には、貝のように見える「カルエボシ」と呼ばれる生物などがついていることも多い。(4)黒い粒の部分をアップで見てみると、多くはこのような「斜長石」と呼ばれる鉱物だが、たまに深いところのマグマの記録を持っている粒が入っていることも?(5)斜長石の塊を0.03mmの薄さにして顕微鏡で観察した様子。斜長石の周りだけ茶色いガラスがこびりついているため、石として見た際に黒っぽく見える。(6)軽石の中に含まれるかんらん石と呼ばれる鉱物などが、深いところで生じた「玄武岩質マグマ」の液を取り込んでいる場合が稀にある。今はガラスとして固まっているが、噴火の仕組みを解き明かす重要な鍵となる。(図の(4)(6)は[1]より引用)

謝辞
調査船「よこすか」YK22-15航海では船長以下船員の皆さんのおかげで順調に調査できました。深く感謝します。また、ウェーブグライダーが捕獲した三陸沖の軽石についてはJAMSTECの飯沼卓史主任研究員に情報提供いただきました。

引用文献
[1]吉田健太・丸谷由・桑谷立(2022)“2021年福徳岡ノ場噴火由来のチョコチップクッキー様軽石とSNSを利用した地球科学の可能性・課題について”岩石鉱物科学.https://doi.org/10.2465/gkk.220412
[2]Yoshida, K., Tamura, Y., Sato, T., Sangmanee, C., Puttapreecha, R., Ono, S. (2022) Petrographic characteristics in the pumice clast deposited along the Gulf of Thailand, drifted from Fukutoku-Oka-no-Ba. Geochemical Journal, 56(5), 134-137. https://doi.org/10.2343/geochemj.GJ22011
[3]桑谷立JAMSTECコラム【福徳岡ノ場】―軽石の漂流現象について―https://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/fukutokuokanoba/column04/
[4]https://www.youtube.com/watch?v=KICiwY4_An4
[5]加藤祐三(1987)海底噴火で生じた材木状軽石.地質学雑誌,93,11-20.https://doi.org/10.5575/geosoc.93.11
[6]Allen, S.R., Fiske, R.S., & Tamura, Y. (2010) Effects of water depth on pumice formation in submarine domes at Sumisu, Izu-Bonin arc, western Pacific. Geology, 38, 391-394. https://doi.org/10.1130/G30500.1
[7]森慎一・山下浩之・五島政一(1992)相模湾沿岸に漂着した小笠原・福徳岡の場海底火山起源の軽石.自然と文化,15,1-14.
[8]Yoshida, K., Tamura, Y., Sato, T., Hanyu, T., Usui, Y., Chang, Q., & Ono, S. (2022) Variety of the drift pumice clasts from the 2021 Fukutoku-Oka-no-Ba eruption, Japan. Island Arc, 31, e12441. https://doi.org/10.1111/iar.12441