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研究者コラム

2023年10月の鳥島近海の地震活動と、地震規模に比べて大きかった津波について

記事

海域地震火山部門 尾鼻 浩一郎 上席研究員

伊豆諸島・八丈島の南約370kmの鳥島近海では、2023年10月2日以降、地震活動が活発となり(図1)、10月5日にはM6.5の地震に伴って津波注意報が発表され、八丈島で0.3mの津波が観測されました。
気象庁による観測では、10月9日までにマグニチュード(M)6.0以上の地震が4回観測されました。
また、10月9日4時以降には、規模が小さく震源が決まらないものも含めて多数の地震が発生しました。これらの地震の規模(マグニチュード)は、津波の発生が予想される地震規模に比べると小さいものでしたが、八丈島で0.6mの津波が観測されたのをはじめとして、伊豆・小笠原諸島や千葉県から四国、九州の太平洋沿岸で津波が観測されました。

図1:米国地質調査所(USGS)による2023年10月1日から10日までの震源分布(左)とJAMSTECが2006年と2009年に行った海底地震観測によって得られた震源分布(右)。赤三角は活火山。黄色点線はTaylor et al. (1991, 1992) Murakami (1996)を参照したリフト地形。震源の深さが60kmより浅い地震のみを表示。図の地形データは、GMRT(https://www.gmrt.org/, Ryan et al. 2009)を使用。

鳥島の北約110kmにある海底火山のスミスカルデラでは、およそ10年間隔で繰り返し発生するM5.5前後の中規模地震の際に、地震規模に比べて大きな津波が発生することが知られています。
最近の研究から、これらの津波は「トラップドア断層破壊」という、カルデラ火山特有の震源の浅い地震により、地震規模に比べて大きな津波が生じていたことがわかってきました。

一方、今回の地震活動は、鳥島近海の鳥島リフト周辺を震源とするものです(図1、2)。リフトとは、地殻が引き延ばされて生じた窪地のことです。
伊豆諸島から南には、活発な火山活動が続く西之島や、2021年8月に爆発的な噴火を起こして大量の軽石を噴出した福徳岡ノ場のような火山島や海底火山が連なっていますが、この火山列の西側には、鳥島リフトの他にも、青ヶ島リフト、スミスリフト、孀婦岩リフトといった窪地が火山列に沿って存在しています。
鳥島リフトは、鳥島と孀婦岩の間に位置し、北側のスミスリフトや南側の孀婦岩リフトとは、活火山である鳥島や孀婦岩から西にのびる地形的な高まり(鳥島海丘や孀婦海山)によって区切られています。

図2:鳥島リフト周辺の海底地形と、鳥島リフトの南北を東西に横切る測線の反射法時間断面図。米国地質調査所(USGS)による2023年10月1日から10日までの震源を海底地形図に○(白丸)で示す。断面図は、海底地形図に実線で示した範囲を表示。正断層(赤矢印)やマグマの貫入(黒矢印)が見られる。

JAMSTECは、八丈島から西之島北側にかけての海域(北緯28度から33度)で海底地震計を使った地震観測を、2006年と2009年の2回にわけて実施しています。その際には、鳥島リフトやスミスリフト周辺で微小地震活動が観測されています(図1)。
また、鳥島リフトの南側と北側について、東西に横切る測線に沿って行った地殻構造探査では、リフトの活動に伴って地殻が引き延ばされたことを示す正断層や、地下から貫入したマグマが海底に達している様子が捉えられています(図2)。

気象庁によると、10月5日の地震(震源の深さ10km)は正断層型の震源メカニズムを示しており、リフト周辺に数多く存在する正断層と関連している可能性があります。
10月9日の地震の震源メカニズムや、地震規模から想定される以上の高さの津波が生じた原因については、よくわかっていませんが、海底面付近で何らかの変動が生じている可能性があります。
また、10月20日には、海上保安庁の航空機により鳥島リフトの西方で軽石とみられる浮遊物が観測されており、火山活動との関連も示唆されます。今後、リフト周辺の正断層や、マグマの貫入などとの関係も含めた詳細な検討が必要です。
JAMSTECでは、今後周辺海域での海底地形、地震・地球物理観測等を計画するとともに、浮遊軽石の起源や今後の漂流過程を明らかにするために、漂流シミュレーションを実施していく予定です

なお、今回の鳥島近海の地震活動やスミスカルデラの地震のように、地震規模から推定されるより大きな津波が発生する場合があります。海岸近くにいる際は、気象庁や自治体などからの情報に注意するとともに、体に感じる揺れがない場合でも、避難が呼びかけられた際には速やかに海の中や海岸から離れるようにしてください。

参考情報(参考文献):
2023年10月の鳥島近海の地震活動について:
地震調査委員会:鳥島近海の地震活動の評価 (令和5年10月11日公表)、
https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2023/2023_torishima.pdf

海上保安庁:鳥島近海の浮遊物について(10月20日観測)、
https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/post-1041.html

スミスカルデラの地震について:
東京大学地震研究所、地震規模に比べて大きな津波を繰り返し引き起こす火山性地震の発生メカニズム:海底火山・須美寿カルデラにおける「トラップドア断層破壊」、
https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/17626/
Sandanbata, O., S. Watada, K. Satake, H. Kanamori, L. Rivera & Z. Zhan, Sub-Decadal Volcanic Tsunamis Due to Submarine Trapdoor Faulting at Sumisu Caldera in the Izu-Bonin Arc, J Geophys Res Solid Earth, John Wiley & Sons, Ltd, 2022, 127, e2022JB024213, doi:10.1029/2022JB024213
Fukao, Y., O. Sandanbata, H. Sugioka, A. Ito, H. Shiobara, S. Watada & K. Satake, Mechanism of the 2015 volcanic tsunami earthquake near Torishima, Japan, Science advances, American Association for the Advancement of Science, 2018, 4, eaao0219, doi:10.1126/sciadv.aao0219

伊豆小笠原の海域火山と背弧リフトについて:
海上保安庁海洋情報部、海域火山データベース、
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/kaiikiDB/list-2.htm
Murakami, F., Seismic stratigraphy and structural characteristics of back-arc rifts on the Izu-Ogasawara Arc, The Island Arc, 1996, 5, 25-42.
Taylor, B.; Fujioka, K.; Janecek, T. R. & Langmuir, C. (Eds.), Rifting and the Volcanic-Tectonic Evolution of the Izu-Bonin-Mariana Arc, Proceedings of the Ocean Drilling Program, Scientific Results, 1992, 126, 627-651, doi:10.2973/odp.proc.sr.126.163.1992
Taylor, B., A. Klaus, G. R. Brown, G. F. Moore, Y. Okamura & F. Murakami, Structural Development of Sumisu Rift, Izu-Bonin Arcs, J. Geophys. Res., American Geophysical Union, 1991, 96, 16,113-16,129.

JAMSTECの地殻構造探査、地震観測について:
JAMSTEC (2004) 地殻構造探査データベース、JAMSTEC. doi:10.17596/0002069
No, T., K. Takizawa, N. Takahashi, S. Kodaira & Y. Kaneda, Multi-channel seismic reflection survey in the northern Izu-Ogasawara island arc -KR07-09 cruise-: JAMSTEC Report of Research and Development, 2008, 7, 31-41, doi:10.5918/jamstecr.7.31 (IBr9測線)
Obana, K., S. Kamiya, S. Kodaira, D. Suetsugu, N. Takahashi, T. Takahashi & Y. Tamura, Along-arc variation in seismic velocity structure related to variable growth of arc crust in northern Izu-Bonin intraoceanic arc, Geochem. Geophys. Geosyst., AGU, 2010, 11 doi:10.1029/2010GC003146

海底地形データ:
Ryan, W. B. F., S. M. Carbotte, J. O. Coplan, S. O’Hara, A. Melkonian, R. Arko, R. A. Weissel, V. Ferrini, A. Goodwillie, F. Nitsche, J. Bonczkowski & R. Zemsky, Global Multi-Resolution Topography synthesis, Geochem. Geophys. Geosyst., John Wiley & Sons, Ltd, 2009, 10 doi:10.1029/2008GC002332

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