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研究者コラム

海底火山の近海を調べてわかってきたこと、漂流軽石からは見えなかったもの【論文紹介】

記事

海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター
 吉田 健太 副主任研究員

2021年8月に巨大噴火を起こし、その後大量の軽石を沖縄等に漂着させたことで話題になった、小笠原の海底火山「福徳岡ノ場」。私たちJAMSTECでは、巨大噴火を起こした火山活動の正体を探るために、調査・研究を続けています。

JAMSTEC BASEの記事[12]でも紹介したように、昨年(2022年)の8月に、JAMSTECでは、小笠原で活発な様子を見せている「福徳岡ノ場」と「西之島」の二つの海域火山を対象とした調査航海を行いました。

YK22-15という航海番号を戴いた調査航海は、有人潜水調査船「しんかい6500」の母船としても活躍する深海潜水調査船支援母船「よこすか」を使用して行われました。ちなみに、JAMSTECで行われた調査航海は、どんなことをしたのかを簡単にまとめた「クルーズレポート」と呼ばれるものが公開されていて、こちら[3]で航海期間や行き先、行った作業などを見ることが出来ます。

話を戻しましょう。YK22-15の航海では、西之島や福徳岡ノ場周辺の海域で、巨大な鉄カゴ(ドレッジャ)で海底を底引きして岩石を採取する「ドレッジ調査」を実施しました。
調査の主な目的は、1000km以上の距離を漂流してきた軽石と、火山の近くに沈んでいる岩石に違いがあるかを調べることでした。

沖縄などに漂着した軽石は、2か月以上の間海面を漂っていたものです。一方で、火山から噴出したマグマが全てそのような軽石になったとは考えられません。では、近くの海にはどのような特徴を持つ岩石が沈んでいるのでしょうか? そういった岩石からは、軽石からは見えてこない火山の一面が見えてくるのでは? そんな疑問から、調査を行い、採取した岩石の分析を行いました。

図1:福徳岡ノ場の調査に臨む「さつき」型ドレッジャと、ドレッジ調査の成功例。巨大な鉄カゴで底引きを行い、大量の岩石試料を引き上げてきます。

ドレッジ調査で見えてきた海底の様子

今回の調査では、福徳岡ノ場の周辺5か所でドレッジ調査を実施しました。底引きをする際には、ドレッジャと一緒に深海用のカメラも海中投入しており、引き上げられた岩石はどのような場所から採取されたのか、ということも同時に観察しています。

「福徳岡ノ場」は、周囲を南硫黄島などの高まりに囲まれたカルデラ火山とされています。そのカルデラの内側で、火山の北西あたりで実施したドレッジ調査では、海底が火山灰の砂で覆われている様子が分かり、やや密な軽石や、黒くてつやつやしたガラス光沢を示す火山岩の塊が採取されました(図の左下)。

一方で、カルデラの外側で行ったドレッジでは、ゴツゴツした岩肌が観察されると共に、胸の前で抱えるほどの大きさの岩石が採取されました(図の右下)。この岩石は、水中に直接噴出したマグマが固まって枕のような形になっている「枕状溶岩」だと考えられます。
これらの岩石は、沖縄などで採取された漂着軽石よりも発泡度合いが低かったりと、明らかに密度が高く、近海に沈んでしまうのもむべなるかな。

図2:福徳岡ノ場近海で実施したドレッジ調査の成果(一部)。火口の西側で行ったドレッジ調査では、海底が火山灰の砂地で覆われているのが観察されると共に、軽石やガラス質の黒い石が回収されました。一方、火口の北東側、カルデラの外壁での調査では、ゴツゴツした露頭から枕状溶岩が採取されました。

火山近傍堆積物を調べて分かってきた火山の「内側」の様子

では、漂流した軽石と、近くに沈んでいた岩石ではどのような違いが見られたのでしょうか。

ドレッジ調査で採取された岩石は、長距離を漂流した軽石と比べて、全体的にシリカ(SiO2成分)が高い、という結果が得られました。また、軽石中には地下深部からきた玄武岩質マグマの痕跡が見つかることがあるのですが、岩石中にわずかな量しか含まれていない「微量元素」の特徴(例えばZr/Y比は、地下深部からきた玄武岩質マグマでは小さい値となると考えられています)を見ると、ドレッジ岩石では、地下深部からきた玄武岩質マグマの影響が軽石より少ない、ということがわかりました(図3の左側)。

このことから、福徳岡ノ場のマグマ溜まりの中で、「地下深部由来成分の影響が強いところ」と「弱い(あるいはほとんど無い)ところ」があることが想定されます。地下深部由来の成分は、熱い玄武岩質マグマと共にやってきたもので、水やガスを多く含んでいたと考えられます。それらの影響が強かった部分では、マグマが外に噴出する際に溶け込んでいた水やガス成分が泡となって軽石になり漂流の旅へ、そうでなかった部分は軽石になれずに火山の近場に沈んだ、というシナリオが描けました。

図3:福徳岡ノ場のドレッジ試料、沖縄などで採取された軽石、および軽石の中から見つかった「地下深くから来た熱いマグマの欠片」の化学組成(SiO2 vs. Zr/Y比)。ドレッジ試料と軽石の研究から、福徳岡ノ場のマグマ溜まりにはよく混ざっている領域とそうでない領域があることが示された。

また、ドレッジ調査では少し変わった鉱物も見つかりました。

カルデラ内部、福徳岡ノ場の北西で行ったドレッジで採取された黒い軽石中は、クリストバライトと呼ばれる鉱物を含んでいたのです(図4)。

クリストバライトはSiO2の化学組成を持つ鉱物です。軽石中の「泡」の部分に、丸っこい形で存在しており、電子顕微鏡を使って「カソードルミネッセンス像観察」と呼ばれる手法で見てみると、粒子の中心から放射状に広がる模様が見えました(図4の中央)。クリストバライトは本来1470~1727℃という非常に高い温度で形成される鉱物です(図4の右)。福徳岡ノ場のマグマ溜まり(930℃程度)や、地下深くから来た熱い玄武岩マグマの温度(1250℃程度)よりも遥かに高く、福徳岡ノ場の岩石でクリストバライトが見つかるのは少し不思議です。

本来クリストバライトが安定になる1470℃に達していなくとも、強酸性の火山ガスと軽石中の火山ガラスが反応すると、クリストバライトが出来ると言われています。JAMSTECで研究している九州の鬼界海底カルデラでも、海底から採取した岩石の中にクリストバライトが発見されています[4]。今回福徳岡ノ場の岩石中に見つかったクリストバライトは、おそらく噴火と噴火の間の時期に、火山に蓋をしていた岩石が、中から少しずつ染みだしてきた火山ガスと反応して出来たものでしょう。このような、噴火時以外の火山が落ち着いている時期に起きている現象も、ドレッジ調査によって新たにわかってきました。

図4:福徳岡ノ場で見つかった珍しい鉱物「クリストバライト」。火山ガスと岩石が反応したことで、本来はクリストバライトが出来ないような低い温度で形成したと考えられる。

これらの研究成果が、2023年8月24日にIsland Arc誌で論文成果として発表されました。より詳しい分析結果や写真なども公開していますので、よろしければ一度見てみてください。どなたでもダウンロード出来ます。また、JAMSTECでは今年11月にも福徳岡ノ場や西之島をターゲットにした調査を予定しています。今後の報告にもご期待ください。

今回紹介した論文
著者:Yoshida, K., Tamura, Y., Sato, T., Tanaka, E., Tada, N., Hamada, M., Hanyu, T., Chang, Q., & Ono, S.
タイトル:The proximal volcaniclastic materials of Fukutoku-Oka-no-Ba in the Izu-Bonin arc show contrasting characteristics to the drift pumice of the 2021 eruption.
掲載情報:Island Arc, vol. 32, e12498
掲載URL:https://doi.org/10.1111/iar.12498

謝辞
調査船「よこすか」YK22-15航海では船長以下船員および研究プラットフォーム運用部門関係者の皆さんのおかげで順調に調査できました。深く感謝します。

引用文献
(1) 福徳岡ノ場の軽石を見る、あちこちで見る、じっくり見る、軽石以外も見る https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20221014/.
(2) 3.7km以内に近づけない…! 海底火山「福徳岡ノ場」調査のウラ側と、見えてきた最新“噴火研究”の「中身」 https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/explore-20230510-2/.
(3) S/V Yokosuka Cruise Report YK22-15:https://doi.org/10.17596/0003563.
(4) Hamada et al., 2023, Evolution of magma supply system beneath a submarine lava dome after the 7.3-ka caldera-forming Kikai-Akahoya eruption., Journal of Volcanology and Geothermal Research, 434, 107738., https://doi.org/10.1016/j.jvolgeores.2022.107738.

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