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研究者コラム

今年のオーストラリアの冬小麦の収量が減るかも?―現在発生中の正のインド洋ダイポールモード現象による影響とは

記事

付加価値情報創生部門
アプリケーションラボ
土井威志 主任研究員

オーストラリアは世界の主要な小麦輸出国の一つであり、世界の小麦取引の10〜15%を占めます。日本の小麦輸入の五分の一程度は、オーストラリアからの輸入であるため、日本の食糧安全保障の視点からも重要だといえます。オーストラリアの小麦は主に冬小麦と呼ばれ、4~6月頃に播種され、10~1月頃に収穫されますが、その収量は年ごとに大きく変動します。その変動の半分近くが、熱帯海洋で発生するインド洋ダイポールモード現象(IOD)、エルニーニョ現象(ENSO)、エルニーニョモドキ現象(ENSO-Modoki)と呼ばれる大気・海洋の大規模な変動現象の影響を受けており、その中でも特にインド洋ダイポールモード現象の影響が支配的であることを、アプリケーションラボの研究者が世界で初めて明らかにしました(Yuan and Yamagata 2015, Sci. Rep., 2015年12月既報)。

今年は、エルニーニョ現象と正のインド洋ダイポールモード現象が同時発生しており(2023年8月既報)、日本の記録的な猛暑にも影響を与えていた可能性が指摘されています(2023年11月既報)。猛暑や暖冬などを、数ヶ月前から予測する技術は季節予測と呼ばれています。アプリケーションラボの季節予測システムSINTEX-Fは、世界有数のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を駆使して、エルニーニョ現象だけでなく、インド洋ダイポールモード現象エルニーニョモドキ現象などの予測研究について世界最先端の成果を上げてきました(例えば、2020年4月既報)。2023年6月1日時点のSINTEX-FによるIOD、ENSO、ENSO-Modokiの発生予測結果と、Yuan and Yamagata (2015, Sci. Rep.)で提案されたオーストラリアの冬小麦の収量を予測する多重線形回帰モデルを組み合わせたモデルでは、主に正のインド洋ダイポールモード現象の発生に伴い、今年のオーストラリアの冬小麦の収量が10%程度減る可能性があることが予測されました。

地球温暖化の進行に伴い、地球規模の食糧安全が脅かされている昨今、アプリケーションラボで推進している季節予測情報の農業への応用研究は、益々重要になってくるともいえるでしょう。

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