海洋プレートはのっぺりしているようだが、よく見ると複雑な構造がある。上は岩手県から宮城県沖の海底地形図で、青の濃いところほど深い。東経144度のあたりに日本海溝の海溝軸(太平洋プレートの沈みこみ口)がある。それより東側に、海溝軸とほぼ平行な高まりや溝が並んでいる。「ホルスト(地塁)・グラーベン(地溝)構造」と呼ばれる地形で、このあたりは「アウターライズ(海溝外縁隆起帯)」と呼ばれている。さらに図の右下あたりをよく見ると、地塁や地溝と斜めに交差するような線も、一定間隔でうっすらと認められる。このような構造も、地震の起きかたに関係している可能性がある。
出典/海上保安庁ホームページ(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/jishin/sokuryo/C3.html)

がっつり深める

東日本大震災から10年

<第5回>次の大地震はすでに「準備」されつつある

記事

取材・文/藤崎慎吾(作家・サイエンスライター)

前回までの記事では、東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)が発生した時、海底や地下で何が起きていたか、なぜ「想定外」の巨大な揺れや津波が襲ってきたのかを中心に、これまでの調査研究でわかってきたことを、お伝えしました。

その後、東北沖の海はどうなったのでしょう。何か変化はあったのでしょうか。海底は地震前の状態に戻ったのでしょうか。そして次の地震は? 今回と次回とで様々な角度から取材し、考えてみたいと思います。

9年を経ても余震は起き続けている

お寺の鐘をゴーンと突くと、しばらくの間、ウワーンというような「余韻」が残ります。これは突かれたことで一時的に変形した鐘が、もとの形に戻るまでの過程を聞いているとも言えるでしょう。断層がずれて大地が変形する地震にも、しばらくの間、余韻のようなものが残ります。

そのうち実際に音をたてる、つまり地震波を伴う余韻は「余震」に相当するでしょう。一方で音をたてない余韻もあり、それは「余効変動」と呼ばれています。

まずは余震についてです。東北沖地震の余震は、これまでに何回くらい起きたと思いますか? 気象庁の資料によれば、2011年3月11日から2020年3月7日までの9年間で合計1万4240回です。ただし、そのうちの8000回以上は最初の1年間に起きています。直近の1年間では、その約20分の1、マグニチュード(M)4.0以上の地震に限って言えば、約30分の1に減っています。

しかし安心してはいけません。たとえ30分の1だったとしても、東北沖地震が起きる前の平均的な地震発生回数と比べれば、まだ多いのです。余韻は響き続けています。起きる地震の規模も全体としては次第に小さくなっていますが、突発的に大きめの地震が発生することもあります。そこが鐘とはちがうところです。

東北の余震域(後述)内で観測された震度1以上の地震の月別回数(2008年3月1日〜2020年2月29日)。赤い点線は2001年〜2010年の月平均値(25.5回)を示す。2011年3月以降はずっと、それを上回っている。
出典/気象庁ホームページ
(https://www.jma.go.jp/jma/press/2003/09a/2002offtohokueq.pdf)

東北沖地震の最大余震は、本震の約30分後に発生したM7.6です。これは1978年の宮城県沖地震(M7.4)を上回る規模です。その後もM7.0以上の余震は起き続け、5年後の2016年にも1回、発生しています。M6台の余震だと、2019年でも3回、起きています。

長野県や静岡県でも誘発された地震

ただ何年も後に起きたそれらの地震は、ほんとうに余震なんでしょうか。他の地震とは、どう区別されているのでしょう?

『広辞苑』で「余震」をひくと「大地震の後に引き続いて起こる小地震。ゆりかえし」と、かなり大雑把です。『大辞林』だと「本震発生の直後からある期間、本震の震源域やその付近でおこる、本震より小さい地震」とあり、わりと親切です。それでも「ある期間」とか「その付近」などと、ぼかした表現が入っています。

実は、先ほどの気象庁の資料では「余震活動の領域(余震域)」というのを定めています。東北沖地震の震源域を含む、幅約360km、長さ約640kmの長方形をした領域です。その中で2011年3月11日以降、現在までに起きた地震を、東北沖地震の余震とみなしているわけです。長方形でエイヤと区切ってますから、便宜的な定義だと思わざるをえません。その外で起きた地震は、どうなるのでしょうか。

気象庁が定めた余震域(青い長方形の枠内)で2011年3月11日〜2020年2月29日に起きたM4.0以上の地震の震央分布。円が大きいほど規模が大きい。赤い円は本震を示す。2019年3月11日以降に発生した地震の震央は、濃く描かれている。M7.0以上の地震と、2019年3月11日以降で最大規模の地震には発生日時等の説明がついている。海域に引かれた破線は海溝軸を示す。
出典/気象庁ホームページ(https://www.jma.go.jp/jma/press/2003/09a/2002offtohokueq.pdf

専門家に聞いてみましょう。ご登場いただくのは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)海域地震火山部門地震発生帯研究センター主任研究員の尾鼻浩一郎さんです。

「余震て、たぶんすごく色んな意味の幅があるんですね」と尾鼻さんは言います。「地震断層面上の割れ残った所とか、大きくすべった所の周囲とかで、本震と同じようなメカニズムの地震が起きるっていうのが、たぶん余震の正当な意味だと思います。ただ本震とはちがうメカニズムだけれども、本震が起きた影響によって、本震の断層面とちがうところに、それまでとちがう力がかかったことで地震が誘発されるっていうのも、広い意味では余震ではないでしょうか」

そうなると、さっきの長方形の外で起きた地震も、余震になりえます。やや極端な例になりますが、2011年3月12日には長野県北部で最大震度6強の地震(M6.7)が発生しています。また同年3月15日には静岡県東部でも地震(M6.4)が発生し、やはり最大震度6強を記録しています。どちらも内陸の活断層が震源で、東北沖地震が起きたプレート境界の断層からは遠く離れています。しかし東北沖地震によって誘発された可能性があり、広い意味では余震とも言えるのです。

プロフィール写真

尾鼻浩一郎(おばな・こういちろう)

1971年、愛知県生まれ。生後6ヶ月から高校まで神奈川県。京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻で博士(理学)。専門は海域地震学。海底地震計を用いた地震活動、地殻構造の研究を進めている。撮影/藤崎慎吾

海溝軸より東側の断層にも影響

一方、長方形の中にあっても、本震とは断層の場所もメカニズムも異なる余震が起きています。前の震央分布図で、右端のあたりを見てください。例えば最大余震に次ぐM7.5の余震が、本震の約40分後に発生しています。また2013年には、そこから100kmほど南でM7.1の余震が起きています。

この二つの余震の特徴は、日本海溝の海溝軸より東側(海側)の太平洋プレート内で発生していることです。本震は海溝軸より西側(陸側)のプレート境界で起きました。そして二つの余震を起こした断層が、引っぱられてずれる「正断層」である一方、本震の断層は圧縮されてずれる「逆断層」です。これだけ特徴が異なっていても、やっぱり余震とみなされているのです。

地震時の断層のずれかたを模式的に表した。断層が斜めに傾いている時、岩盤(灰色のブロック)に引っぱる力がかかると、上盤(図では右側)がずり落ちる(上)。一方、岩盤に押す力がかかると、上盤はのし上がる(下)。前者を「正断層」、後者を「逆断層」と呼ぶ。

このような海溝軸の海側で起きる地震に、尾鼻さんは注目しています。専門家の間では「アウターライズ地震」と呼ばれています。「アウターライズ」は「海溝外縁隆起帯」と訳されることもありますが、沈みこもうとする海洋プレートがたわんで、少し盛り上がった領域のことです。海溝軸に沿って、海側に100km程度の幅があります。

アウターライズの表面には、海溝軸とほぼ平行に凸凹の筋が何本も走っています。このうち高まりになっている部分は「ホルスト(地塁)」、溝になっている部分は「グラーベン(地溝)」と呼ばれています。高低差は800mに達する場合もあります。この「ホルスト・グラーベン構造」をつくっているのが正断層で、アウターライズ地震の多くはそこで起きています。

本記事冒頭の海底地形図を3次元化したもの。東経144度付近の海溝軸より東側(右側)がアウターライズ。ホルスト・グラーベン構造が表れている。
出典/海上保安庁ホームページ
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/jishin/sokuryo/C3.html

近くに消しゴムがあったら、ぐっとアーチ状に曲げてみてください。するとアーチの外側には引っぱりの力がかかっているとわかるでしょう。あまりきつく曲げると、ひびが入って割れてしまうかもしれません。プレートが曲げられても同じで、ひび割れは正断層となります。一方、アーチの内側には圧縮の力がかかり、プレートの場合には逆断層ができます。

ホルスト・グラーベンとして、海底地形図にも断層が表れているくらいなので、アウターライズ地震の震源は浅いと言えます。となると津波を起こす可能性も高そうです。