最近、海底火山の噴火が注目されている。 2021年8月に大量の軽石を放出した福徳岡ノ場や、2022年1月に大噴火を起こし、日本まで津波が到達したトンガのフンガ・トンガ―フンガ・ハアパイ火山のニュースは記憶に新しい。
一度噴火すると大きな被害を及ぼすおそれのある海底火山だが、話題となった海底火山の一つ、「大室ダシ」をご存知だろうか。伊豆大島と利島の近く、東京湾の入り口からわずか60kmという場所にある海底火山だが、過去1万年以内に噴火した可能性があることが最新の研究で明らかになった。どうやら東京から高速船で2時間弱ほどの距離の海底には、まだ私たちの知らない世界が広がっているようだ。
では、この大室ダシは一体どんな海底火山なのだろうか? 噴火年代の推定をはじめ、この火山の研究を行うJAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)海域地震火山部門 火山・地球内部研究センターのアイオナ・マッキントッシュ研究員と羽生毅グループリーダーにお話をうかがった。(取材・文:小熊みどり)
Iona McIntosh
国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)
海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 研究員
英国ダラム大学で火山学の博士号を取得。最近のプロジェクトには、大室ダシだけでなく、鬼界カルデラの過去の噴火の研究や、2021 年の福徳岡ノ場の軽石の噴火の研究などがある。
羽生 毅
国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)
海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター グループリーダー
タヒチやハワイなどの海洋島火山を対象としてマントルの進化を研究してきたが、最近は日本近海の活動的火山の研究も行っている。
海底から熱水 「大室ダシ」は活動しているのか?
「大室ダシ」は冒頭で示した通り、東京湾の入り口から南西にわずか60kmの距離にある海底火山だ。幅20kmの台地状になっており、水深は120mほどと浅海にある海底火山と言える。中央には「大室海穴」という、大きさ1.2×0.7km、深さ100mほどのくぼみがあり、火口と考えられる。そして、その名の由来には諸説あるそうだ。
「もともと好漁場として地元の漁師に知られていたそうで、その場所は海上から眺めたとき、伊豆大島の三原山越しに、伊豆半島の大室山が顔を“出す”場所ということから『大室ダシ』と呼ばれるようになったと聞いています」 (羽生毅グループリーダー)
そんな大室ダシが研究者たちの間で注目されるようになったのは2007年のことだ。
海底火山には、現在活動しているものと、過去に活動していたが今は活動していないものがあるが、大室ダシは後者だと思われていた。しかし、この年、JAMSTECの研究チームが大室ダシの現地調査を行い、海底の熱流量(地球内部から地表面へ流れ出る熱の流れ)を測定したところ、高い値を示した。これは地下に高温のマグマが存在する可能性が高いことを意味する。大室ダシは現在も活動している可能性があることがわかったのだ。
JAMSTECはその後2012年と2016年にも大室ダシの現地調査を行った。2012年当時、英国のダラム大学の博士課程の学生で、JAMSTECに6週間短期滞在していたマッキントッシュさんも、この調査に同行した。
このとき、調査チームは、無人探査機「ハイパードルフィン」を潜航させ、大室海穴から熱水が吹き出しているのを発見した。やはり大室ダシは活動していたのだ。
調査チームは、海底の熱水が吹き出しているところから、熱水中の金属などが煙突状に固まった「チムニー」を、ロボットアームで採取。また、大室ダシの過去の噴火で噴出して海底に沈んだ軽石や、噴火時の溶岩が固まった流紋岩も海底から採取し、JAMSTECに持ち帰った。
「私にとって初めての船での現地調査でした。海底の熱水噴出孔を発見し、そこから引き揚げられたチムニーを見たときには感動しました。大室ダシが東京からあまりにも近く、浅いことにも驚きました。私はそれまで火山やマグマ全般について研究していたのですが、この調査が海底火山の研究を始めるきっかけになりました」(アイオナ・マッキントッシュ研究員)
「大室ダシはいつ噴火?」 年代測定の方法とは?(次ページへ)