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JAMSTEC探訪
深度8000m到達&潜航時間30時間!自律型無人探査機の日本記録を樹立した「うらしま8000」大深度化成功の裏話と海洋科学研究の未来
取材・文:瀬戸内千代
深海を潜航し、海底地形を描き出す深海巡航探査機「うらしま8000」。2025年7月に8000メートルへの潜航を成功させたことは、ニュースなどで目にした方も多いのではないでしょうか。
「うらしま8000」は、プログラムに沿って24時間以上の潜航ができ、音波を駆使して、母船とコンタクトしながら、これまでにない精度で海底の地形を描き出すことができる無人探査機です。これまで運用されていた潜水深度3500メートルの「うらしま」を、8000メートルまで大深度化する、この開発にはどのような試行錯誤があったのでしょうか。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)の開発プロジェクトリーダー・中谷武志さん、データ解析や技術改良を行っている金子純二さん、プロジェクトや運用を推進している松永 祐さんに聞いてみました。(取材・文:瀬戸内千代)

深度8000mなら日本の海をほぼ網羅できる
――そもそも、これまで運用されていた深度3500メートルまで潜れる「うらしま」を、8000メートルという深度まで潜れるようにしようという計画は、なぜ持ち上がったのでしょうか?
中谷 2011年の東北地方太平洋沖地震は、最大深度8000メートルに達する日本海溝が震源域でした。深い故に、調査がなかなか進まなかったという背景があります。そこで、超深海での詳細な海底地形図の取得を目指して、8000メートルまで到達できるAUV(自律型無人探査機)の開発がスタートしました。
松永 もちろん、「大深度における調査能力を獲得すべき」という国の方針もあります。世界の深海探査競争では到達深度だけが話題になりがちです。しかし、JAMSTECは研究機関なので、やはり行くだけではダメ、観測できないと意味がない、そこに注力したということもあります。
「うらしま8000」の開発にあたっては、ある程度まとまったエリアを観測できる能力、地形の成り立ちの議論や、特殊な現象が起こっている兆候の発見ができるレベルの高品質な海底地形データを取る能力を、最低限備える必要がありました。
中谷 じつは、今回の改造で「うらしま8000」は、日本の海のほぼ全域で海底を精細に調査することができるようになりました。
この図は、上が改造前の「うらしま」、下は「うらしま8000」で、潜航して精細な調査ができる海域を示したものです。黒く塗られているところは調査できない海域です。「うらしま8000」は日本の排他的経済水域の約98パーセントを調査することができます。
もちろん、地球最深部は深さ約1万900メートルのマリアナ海溝ですが、深さに対応する浮力材や耐圧容器を使うと機体がどんどん大きく重くなるし、いろいろなものが高価になっていきます。そのため、耐圧深度は調査したいエリアに従って決めていく必要があります。その制約と、重要な地震に関する科学テーマがある日本海溝の最大水深、EEZの調査可能範囲、それらをほぼ満足させられるのが、深度8000メートルだったんです。
音を使って海底地形と地層までを「見る」
――これまでの深度3500メートルまで潜れる「うらしま」では、8000メートルの海底地形を調査することはできないのでしょうか?
中谷 そうですね。まず、海水には電波をほとんど通さないという性質があります。そのため、海中ではGPS(全地球測位システム)やWi-Fiのような通信手段は使えません。また、深海には光も届きません。
そのため、音波を使って海底の情報を取得しています。「うらしま8000」は、海底から約100メートルの高さを航行しますが、実はカメラは搭載していません。音波による探査だからこそ、暗くて深い海底においても広範囲にわたって地形を調査できるのです。
――音で見ているということですか! この音波というのは、どれぐらいの周波数を使っているのでしょうか?
中谷 「うらしま8000」には、海底地形を観測するための「インターフェロメトリソーナー」という装置が搭載されています。このソーナーの周波数は120キロヘルツです。人間が聴くことができる音波は、およそ20ヘルツから20キロヘルツなので、この周波数は超音波に分類されます。イルカが仲間とのコミュニケーションなどに使う音波も、同じような高い周波数帯に含まれます。
――イルカが発する超音波と同じ周波数帯なんですね!
周波数が高い音波ほど海水中で減衰しやすいのですが、「うらしま8000」は深く潜ることで海底との距離が近くなるため、音波の減衰が少なく、高い周波数も利用できます。海面からの調査に比べて、海底に近づいて観測できるうえ、高周波を活用できることで、より精細な海底地形を捉えることができます。
情報量1万倍の「目」で発見された未知の海底の谷!
中谷 これまでも船上からの海底音波探査を行ってきました。海面に浮かぶ船のマルチビーム音響測深機という装置から、音波を海底に向けて発射します。この音波が跳ね返ってくるまでの時間によって、対象(海底)との距離を知ることができます。
この方法では、深度8000メートルの海底の地形図を約200メートルのメッシュ(格子)で描くことができます。
「うらしま8000」は、海底近くから800本の高周波の音波をビーム状に発射することができます。それによって、約2メートルのメッシュ(格子)で海底地形図を描画できるんです。
縦横で100倍の解像度だから、情報量は1万倍になります。これによって、これまで見えなかったものが、見えてくるわけです。
金子 左右どちらの図も、伊豆・小笠原海溝の海底地形図です。8000mもの深度になると、船の地形調査で得られたデータはどうしても解像度は低くなり、得られる情報が少なく、画面右側に行くにつれて徐々に深くなっていく地形である、程度のぼんやりとしたことしかわかりません。
ところが、「うらしま8000」では、わずか数時間の潜航で、下の右図のような高解像度のデータを得ることができます。
のっぺりとした地形のように見えていましたが、実際は、高さ数メートルの細かな凹凸が一定の方向を向き(右図の桃色の部分)、落差約100mもの崖地形(右図中、右側の紺色の部分)もあり、海溝斜面部は想像より変化に富む地形であることがわかりました。
深度8000mの様子をあたかも陸上地形図のように鮮明に見えるのには驚きました! 実際、見えることは潜航前から確信していたのですが、改めて見ると感動しますね!
潜航後、船内ですぐにデータ解析を開始しましたが、前人未到の領域の様子が少しずつ見えてくることにワクワクし、かつ、早くみんなに見せたくて気持ちがはやりました。
海底下の様子も見ることができる!
中谷 もうひとつ、「うらしま8000」には、1~6キロヘルツの音波を真下に発射する「サブボトムプロファイラー」が搭載されています。
このような低周波の音波は、海底下に潜り込むことができます。海底下では、泥や岩や小石など構造によって音の反射が異なるため、海底下の地層などを音で「見る」ことができるんです。
つまり、「うらしま8000」は、約3ノット(時速5.5キロメートル)で前進しつつ、幅600メートルの扇状の音波で海底地形図を取得するのと同時に、サブボトムプロファイラーで真下にも音波を打ちだして、海底下約100メートルの地質情報も取得できるのです。
「うらしま8000」と母船との通信も音波を使う
――「うらしま8000」を海面に降ろす母船の「よこすか」は、潜航中の「うらしま8000」とどのように通信しているのでしょうか?
中谷 やはり音波を使っています。2つの目的で「うらしま8000」と母船は通信しています。
まず、「うらしま8000」の位置を知るための通信です。さきほども言ったように、海中ではGPSは使えません。そのため、うらしまには慣性航法装置(INS)が内蔵されています。
しかし、INSだけでは、INS自身の計測誤差の影響で予定の航行ルートから徐々に外れてしまうことがあります。そのため、母船から「うらしま8000」に正確な位置を教えてあげる必要があります。
まず、潜航前に「うらしま8000」と母船との時刻を正確に一致させておきます。そのうえで「うらしま8000」から送信した音波を、母船の船底に装備されている複数の受波器で受信し、送受信の時刻差から推定される伝搬時間と、受波器間の僅かな受信時間差から推定される到来方向から、「うらしま8000」と母船間の距離と方向を算出して、「うらしま8000」の位置を約8秒に1回モニタリングしているんです。
この装置は、JAMSTECで続けてきた音響通信に関する成果を活用したものです。
もう一つ、「うらしま8000」の状態を監視するための通信もしています。電池残量やシステムに不具合はないかなどの情報を、これは15~25キロヘルツぐらいの音を使って、こちらも約8秒に1回、母船に伝えています。
「うらしま8000」にトラブルが起きたときは!?
――母船と通信を続けているから、見失うことはないのですね?
中谷 そうですね。うらしまは自律型(全自動)なので、基本的には母船との通信がなくても航行できます。ただ、安全のために船側でも位置を把握しています。
万が一、システムに不具合が起きた場合には、内部の異常処理プログラムにより対処がなされますが、状況によって母船からコマンドを送ることもあります。また、海象が急変して、波が高くて機体の回収できなくなりそうなときには、コマンドを送ってミッションを切り上げて浮上させることがありますね。
――そもそも、8000メートルもの深海から、どうやって戻ってくるのでしょうか?
中谷 仕組みとしては有人潜水調査船「しんかい6500」と一緒で、搭載しているバラスト(おもり)を捨てて浮上してきます。
ただ、「うらしま8000」の場合は、機首を40度くらい傾けて、途中までスラスタ(プロペラ)を回しながら、らせんを描いて浮上するので、浮上速度はけっこう速いんです。逆に、潜る時は35度ぐらい機首を下げて、らせんを描きながら潜ります。
「うらしま8000」が打ち立てた日本記録
――「うらしま8000」がどこを航行してデータをとるのかは、事前にプログラムしてあるんですか?
中谷 はい。航行ルートは、事前に船から得た粗い海底地形図にもとづいて、なるべく等深線(陸の等高線にあたるもの)に沿うようにポイントを打って、それをつないでいます。このルートを「シナリオ」と呼んでいます。
安全のため「太陽が出ている昼間しか揚収しない」というルールを設けているので、長時間の潜航の場合、とくに夜間は、リスクが低い比較的平坦な場所を通過するシナリオにしています。
海底から約100メートルの高さを航行するようにプログラムしているので、つねに音波で海底からの距離を測り、水平舵を自動で動かして姿勢を変えながら進んでいるんです。
――シナリオから外れてしまったときは、どうするのでしょうか?
中谷 深度8000メートルでは稀ですが、海の流れによって一時的に流されることはあります。こういうときは、自動制御でルートに戻るようになっています。
「うらしま8000」は、先ほど紹介したINSが、ドップラー式対地速度計(DVL)や深度計などからの情報を取り込みながら、自らの位置を推定しています。
たとえば、DVLは前後左右の海底に向け音波を発し、海底反射波のドップラー効果を利用して速度を測定します。深度計は圧力変化から深さを測ります。これらの情報がINSに送られ、深海でも高精度な航法が実現されています。
松永 「うらしま8000」は、AUVと呼ばれる自律型無人探査機です。ここまで長時間かけて観測できるロボットは海外製でもあまりないと思います。
中谷 AUVの到達深度では、今のところ日本最深です。
大深度改造での難題は、8000mに適した浮力の調整だった!?
中谷 じつは、深度8000メートルまで潜ると、浮力の変化によって水中での機体重量が約60キログラムも軽くなるんです。アルキメデスの原理により、物体は体積に海水の密度を掛けた分の「浮力」を受けますが、深海では圧力や水温の影響で海水の密度が変化するため、浮力もわずかに変わるんです。
そこで、「うらしま8000」は潜航開始時にあえて少し重めになるよう設計されており、深度8000メートルでちょうど浮きも沈みもしない「中性浮力」になるよう、計算に基づいてバラスト(おもり)の重量を調整しています。
以前の「うらしま」には、ブラダというゴム袋に油を出し入れしてブラダの体積を調整することで浮力を変えるタイプの浮量調整装置が搭載されていましたが、大深度化に伴い、その装置自体が大型化してしまうため、「うらしま8000」ではスリム化を優先して採用しない設計にしました。
深海対応のためには、耐圧容器の肉厚を増したり、浮力材を追加したりする必要がありますが、機体の骨格となるフレームの大きさは変わらないため、限られたスペースの中で機器構成の取捨選択を行うことが重要になりました。
――そのほかに、どんな変更点があったのでしょうか?
中谷 大きさは同じですが、以前の「うらしま」に搭載されていた垂直スラスタと水平スラスタは思い切って外しました。その分、よりシンプルで効率的な構成になっています。
一方で、制御の要となるソフトウェアは大きく変えていません。搭載センサーの変更にともなう一部の改修は必要でしたが、機体の形状や運動性能は基本的には変わらないので、これまでのプログラムを活かすことができました。こうしたノウハウの継承と再利用が、開発期間の短縮と安定した動作の両立につながっています。
松永 これはこれまでの「うらしま」の実績があったから再利用ができたものなんです。「うらしま」での度重なる潜航においてソフトウェアを改修したり、運用方法を向上させたりといった蓄積があったからこそ、「うらしま8000」にたどり着けたのだと思います。
探査能力をいち早く向上させるべきと、国の委員会の議題等に上がった際、新しい探査機をゼロから作り直すとばかり思っていました。そしたら突然、「今から『うらしま』を改造することにしたから!」と数枚の資料を持って中谷さんが鼻息荒く居室に飛び込んできたのを鮮明に覚えています。その時はまだこのような背景を知らなかったので、冗談かと思いました。
側面のデザインに込められた思い
――機体の構造で、とくにこだわったことはありますか?
中谷 前方と後方に、研究者が必要とする採水器やセンサーなどを搭載するための「ペイロードスペース」と呼ばれる空間を設けています。さらに「うらしま8000」本体から、センサー類に電力を供給したり、姿勢や位置の情報をリアルタイムに配信したりすることも可能です。
広いペイロードを確保した「うらしま8000」は今後、音波探査にとどまらず、さまざまな観測に活用できると考えています。こういった観測の幅をもてるのも、研究者と技術者がいるJAMSTECならではの取組みです。
――デザインも素敵ですね。
中谷 「うらしま」の文字の下に描かれたV字のデザインは、日本海溝の断面なんです。そこから右へ行くと、富士山、立山連峰、日本海となります。じつは、縦方向のスケールは実際の比率に基づいて描かれていて、富士山の高さよりも、日本海溝がずっと深いのもわかると思います。
――ところで、なぜ「うらしま」という名前なのでしょう?
中谷 以前の「うらしま」を開発する際、当時のプロジェクトリーダーが青木太郎さんという方で、そのお名前にちなんで「うらしま太郎」から取った、という話もあるんです。
私は個人的に、この名前がすごく気に入っています。海底というのは、長い時間をかけて地層が堆積したり、断層ができたり、いわば地球の歴史が詰まっている場所です。「うらしま」は時を超えて、地球の歴史を海底地形図という形で描き出していく。命名にも、この「時間」というキーワードが込められているように感じています。
8000メートル到達前のアクシデント!
――どのような試験を経て8000メートルを達成したのですか?
中谷 まず、2025年3月、2回目の航海で深度6600メートルまで到達しました。
――2回目の航海で6000メートルを超えているんですね。
中谷 はい。じつは、その航海の残り日数の中で、すでに8000メートルへのチャレンジも行っていたんです。しかし、残念ながらうまくいきませんでした。原因は、音響通信のトラブルです。
「うらしま8000」は、安全対策として、母船との通信が30分間途切れると自動的に緊急浮上する仕組みとなっています。
ところがその時は、搭載していたCTD(海水の電気伝導度・水温・深度を測るセンサー)が故障して、海水を取り込むポンプが大きな音を立ててしまったんです。それがちょうど船からの音波を受信する受波器のすぐ近くにあったため、母船からの信号が聞こえなくなり、結果として30分後に自動浮上してしまったんです。
――ある意味、安全対策がきちんと作動したわけですね。
中谷 そうなんですよ。意図せず安全対策の確認はできたわけですが、機体だけでなく、周辺装置もすべてが健全でなければ、目標を達成するのは難しいと痛感しました。
――その次の3回目の試験航海は7月でしたが、この時は?
中谷 まず、7月19日と20日に相模湾深度1500メートル域で潜航試験を行い、機体やシステムの最終確認をしました。そして、翌21日、深度8000メートル試験のため、伊豆・小笠原海溝にて潜航を行いました。
――試験潜航当日の朝、船内の様子はいかがでしたか。
朝から独特の緊張感が漂っていました。前日までの準備で機体の状態は確認し尽くしていたのですが、やはり「8,000メートル」という数字には特別な重みがあります。
いつも通りに朝のブリーフィングを終え、潜航準備を進めていましたが、目標としてきた8000メートルに挑むという思いで、胸が高鳴っていました。
――「うらしま」が浮上した瞬間の様子を教えてください。
海面に姿を現した「うらしま8000」をブリッジから見つけたときは、ほっとした安堵と同時に、長年の思いがこみ上げてきました。無事に戻ってきたという安心感と、「本当に8,000メートルを達成したのだ」という実感が、じわじわと心に広がっていきました。
揚収作業が終わったあと、みんな自然と笑顔になり、誰かが特別に声を上げたわけではないのに、達成感と充実感が船全体に満ちていました。
――長年の開発の中で、この瞬間はどう感じられましたか。
このプロジェクトに関わってきた多くの人の努力や工夫の積み重ねが、この一日の成果につながったのだと実感しました。深海8,000メートルというのは単なる数字ではなく、技術者たちの情熱と挑戦の象徴です。
浮上した「うらしま8000」を見ながら、「ようやくここまで来た」という感慨と同時に、「ここからが新しいスタートだ」という思いが湧いてきました。
問題なく8000メートルに到達できたときは、本当にうれしかったですね。
2022年から2年半をかけて改造を進め、その後も試験を重ねて、8000メートルに到達するまでに実に3年3カ月。計画では4回目の海域試験で到達を目指していましたので、少し前倒しで達成できたのは、チーム全体にとって大きな自信になりました。
――最終的には、到達深度が8015.8メートルと、8000を超えていますが!
中谷 設計段階で、8000メートルの約1.2~1.3倍の深さまで耐えられるように設計してあります。その日は試験的な意味も込めて、あえて8000メートルを少し超える深度を目標にしました。結果として、計画通りに動作し、深度8000mでの機体の健全性を確認することができました。
「うらしま8000」で行われた海底資源研究に関する調査
――すでに研究データも取り始めたのでしょうか?
金子 深度8000mへの潜航に続く7月22日、23日に、房総半島から350キロメートル南東にある「拓洋第3海山」で海底鉱物資源を対象とした調査を行いました。本調査は「うらしま8000」研究データ取得を目的とした初めての試験潜航でした。
海山とは、文字どおり海底にある山で、山頂は水深1,500m、麓は5,600mであり比高4,000m以上の富士山を越える高い山です。2017年に、この拓洋第3海山の尾根部5地点を、ROVというケーブルで遠隔操作する無人探査機で調べた結果、厚さ10センチメートルを超えるコバルトリッチクラストと呼ばれる、レアメタルを含む鉱物が各地点に存在していることがわかりました。
そこで、今回はROVで調べた各地点上を「うらしま8000」が高度100mで航走し、点と点を繋ぐイメージで詳細な地形データなどの取得を行いました。実は、この潜航は険しい山の尾根を一気に下るトレイルランを「うらしま8000」が行うという、かなり過酷なミッションでした。
初の研究潜航なのにかなりチャレンジングな航走でしたが、見事完走しその運動性能の高さにも驚きました!
金子 「うらしま8000」は、地形データ取得以外にも、サイドスキャンソーナーとサブボトムプロファイラーも搭載しており3つのデータを同時に取得できます。サイドスキャンソーナーは、海底の地形図だけでなく、底質の相対的な硬さ・柔らかさを知ることもできます。サブボトムプロファイラーは海底下の地質構造を知ることができます。現在これらの3つのデータを使って解釈を進めています。
――7月25日、26日には、日本海溝でも潜航していますが。
中谷 先ほども触れましたが、日本海溝の海底は、これまでの地震で断層が生じたり、歪んでいたりするため、詳細な海底地形や海底下構造のデータを取得することが非常に重要です。
さらに、この航海では、潜航時間が30時間を超え、観測時間としても25時間以上にわたる調査を行うことができました。
――次の予定はあるのでしょうか?
中谷 2025年11月に、再び日本海溝に向かう予定です。これまでは2週間の調査航海を3回実施してきましたが、今回は3週間の本格的な調査航海となります。
「うらしま8000」のシナリオでは、なるべく等深線沿いに航行させたいと考えていますが、地震分野の研究者から「崖を見てみたい」という要望があり、日本海溝をまたいで進む潜航にも初めて挑戦する計画です。
「うらしま8000」が切り拓く科学研究
――「よこすか」は「しんかい6500」の母船でもありますが、「しんかい6500」と「うらしま8000」と一緒に潜航することはできないのでしょうか?
松永 残念ながら、「よこすか」で探査機の着水揚収に使用するクレーンは、アタッチメントの入れ替え作業が必要で、同じ航海で、この2つを同時に運用することができません。格納庫も、2つを速やかに出し入れできる構造になっていません。
中谷 ただ、「うらしま8000」と「しんかい6500」など、複数の探査機を組み合わせた調査は、これからますます重要になると考えています。
まず、船による海底探査でおおよその当たりをつけます。さきほど見たように、船から得られる情報は粗いものですが、海底地形の気になる海域をある程度絞り込むことができます。
次に、絞り込んだ海域に「うらしま8000」を潜らせて、高解像度の地形図を取得します。このとき、地形の情報だけでなく、ペイロードスペースに搭載したセンサーで、水温やpH、CO2濃度、金属イオン濃度なども計測できます。
そして、調査したい地点や目的を明確にしたうえで、「しんかい6500」で人が実際にそこに行く、こういう3段構えの調査アプローチが、今後ますます増えていくのではないかと考えています。
「うらしま8000」で得られる精細な海底地形図、いわば宝の地図を手にしてから潜航できるため、調査の成功確率も高まります。
世界の海底のほとんどが、まだ調査されていません。それどころか、その地形すらきちんとわかっていないのです。「うらしま8000」が捉える高解像度の海底地形図、そしてさまざまな観測データは、未知の生物の探索や新たな地質現象の発見等のための科学調査はもちろん、地震研究やレアメタル、レアアースといった海底資源調査を含む社会課題を解決するための調査まで、さまざまな海洋科学研究を進展させることが期待できます。
これからどのような成果が上がってくるのか、まずは今年11月の日本海溝の調査結果を楽しみに待ちたいと思います。
取材・文:瀬戸内千代
撮影:森 清(講談社写真映像部)
写真・図版・取材協力:国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
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