いま、海溝型地震を調査している地震研究者の中で注目されているものが「プチスポット火山」とよばれる火山です。東北沖で偶然発見された、直径は1キロメートル足らず、高さも100メートルに満たない小さな火山のため「プチスポット火山」と名づけられました。
じつは、この「プチスポット火山」が海溝型地震の発生、そして地震によるプレートの滑りを止めるはたらきもしているのではないかと考えられているそうです。
そこで、「プチスポット火山」の研究をしている、海域地震火山部門 地震発生帯研究センターの藤江剛センター長にお話をうかがいました。(取材・文:岡田仁志)

地震学者が驚いた!東北地方太平洋沖地震の海底で起こっていたこと
──地球深部探査船「ちきゅう」による「東北沖プチスポット探査」は、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震と「プチスポット火山」の関係を調べるものだそうですね。
この地震では、地震学者のみなさんが驚くようなことが起きていたと聞いています。プチスポット火山とは何かをうかがう前に、まずは東北地方太平洋沖地震の特徴から教えていただけますか。
プレート境界で発生する巨大地震は、上盤と下盤が固着したところにたまった歪みが解放されることで起きると考えられています。
しかし、海溝軸(プレートが沈み込む境界線)付近の浅部はやわらかい泥のような堆積物が詰まっているので、上盤と下盤がくっつきません。そこではズルズルと滑るように下盤が沈み込んでいるため大きな歪みがたまらず、巨大地震は起きないと考えられていました。
実際、20世紀中に発生したマグニチュード7以上の地震を調べると、海溝軸からおよそ30〜40キロメートルの範囲は震源になっていません。
滑るはずがない場所が、滑っている!
ところが東北地方太平洋沖地震では、海溝軸付近のプレート境界断層の浅部で最大のズレが生じていることがわかりました。
多くの地震学者が「こんなところで巨大地震が起こるはずがない」と考えていたところで、水平方向に50メートル、鉛直方向には7〜10メートルもズレたんですね。
震源からの断層の滑りが何らかの形で進んで海溝軸側がドカンと大きく滑り、それが北側と南側に広がっていきました。これは従来の常識を覆す調査結果だったんです。
──断層深部の動きが浅いところに伝わったということですか?
上盤プレートは一体であると考えれば、たとえば深部が10メートル動けば、浅部も同じ方向に10メートル動くことになるでしょう。でも、それだけでは海溝軸付近で最大の滑りが生じたことを説明できません。
しかし、もし海溝軸付近のプレート境界面がスケートリンクみたいにツルツルの状態だったら、深部が10メートル滑ったのにつられて、50メートルぐらいスーッと滑る可能性があります。あるいは、深部の動きに押された浅部が跳ね返るようにして大きく動いたという見方もあり得るでしょう。
これらの状況は「オーバーシュート」と呼ばれています。
なぜ、海溝軸付近に遠洋性鉱物「スメクタイト」があるのか
では、海溝軸付近の境界面はどのような状態だったのか。震源付近の掘削調査では、そこに「スメクタイト」という粘土鉱物が大量に入っていたことがわかりました。
スメクタイトは摩擦が非常に小さいので、下からちょっと押されただけでも、大きく滑る可能性があります。
──その大量のスメクタイトはどこから来たんでしょう?
いま日本海溝から沈み込みつつある太平洋プレートは、およそ1億3000万年前に海嶺でつくられたと考えられています。
最初はかたい岩石だけでしたが、長い時間をかけて移動しているあいだに、少しずつ堆積物が溜まっていきました。まず、生物の死骸が溜まって「チャート」と呼ばれる岩石になり、その上に赤褐色の遠洋性の粘土が溜まるんですね。
スメクタイトもその一部として、粘土層の中にたくさん入っていることがわかりました。東北沖合のプレート境界断層にあるスメクタイトは、そうやって運ばれてきたものです。つまり、太平洋プレート上に遍在しているんですね。
しかしその堆積物の層については、私たちの調査で興味深いことがわかりました。
海溝軸付近の堆積層にほかよりも薄い領域が存在した
この図を見てください。左の地図に引かれたA4やR2という線は、測線といいますが、船による海底下の音波探査を行った軌跡を表しています。
この「R2測線」上に、周辺よりも堆積物の層が薄い領域があるんです。ふつうは400〜500メートルほど堆積物が溜まっているのに、その領域は10〜20メートル程度しか溜まっていないんですよ。
──ほかの場所と同じように溜まっているはずの堆積物が、そこにはなかったんですね?
そういうことです。最近になって積もったものしかないんですね。それより前に積もったであろう堆積物は、いったいどこに行ってしまったのか。
そこで私たちは、その薄い堆積層の下がどうなっているのかを、海底地震計を用いた変換波解析という手法で調べました。これは人工的に地震波(音波)を起こして、地中での伝わり方が異なるP波(縦波)とS波(横波)の到達時間や振幅を分析することで、地層の構造や性質(硬さ・密度・境界面の位置など)を調べる手法です。
その調査の結果、堆積層の下にはいくつも境界面が隠れていることがわかりました。
堆積層が薄い領域には「プチスポット火山」がある!
これは、どういうことか。それを説明する上で重要なのが、プチスポット火山です。じつは、この堆積層の薄い領域は、プチスポット火山がたくさん見つかった領域とぴったり一致していました。
──ここでプチスポット火山が出てくるんですね! それがあると、なぜ薄い堆積層の下に境界面がいくつもできるのですか?
やや遠回りになりますが、まずプチスポット火山とは何かをお話ししましょう。
これは近年になってその存在が明らかになった、日本列島などで見られるふつうの火山とはまったく成り立ちの異なる火山です。
ふつうの火山は、海洋プレートが海溝から大陸プレートに沈み込んだ場所にできます。沈み込むときにプレートに含まれている水が高温・高圧下で脱水され、その水で溶けたマントルがマグマになるんですね。マグマは軽いので上昇し、地殻を突き抜けて噴火する。
だから、海溝から一定の距離の場所に火山列ができます。日本の富士山、小笠原諸島、伊豆諸島などの火山は、いずれも日本海溝や南海トラフに沿ってつくられました。日本列島の大部分が、そういう火山活動で噴出した溶岩や火山灰が積み重なった「火山弧」です。これは、下の図でいうとCと書かれた火山です。
一方、海溝より外側の海洋プレートは安定しており、海嶺でつくられたときの状態からほとんど変質していないと考えられていました。プレートもマントルから出てきたマグマによってつくられますが、長い時間をかけて冷え固まっているので、プレートが海溝から沈み込んだ先の火山弧のような「火の気」はありません。
ところが、近年になって、その「火の気」がないはずの場所に新しい小さな火山がたくさんあることが発見されました。
最初に見つかったのは、東北沖です。直径は1キロメートル足らず、高さも100メートルに満たないほど小さいため、「プチスポット火山」と名付けられました。上の図のAの部分のある小さな赤い点がプチスポット火山を表しています。
東北大学の平野直人教授が詳しく調べたところ、プチスポットを形成する岩石はおもにアルカリ性の玄武岩で、粘性が非常に低いので広がりやすいそうです。
何より特徴的なのは、その岩石がマントルの深さ50〜100キロメートルから海底面まで上がってきたものだということ。
現在の掘削技術では届かないマントル深部からダイレクトに上がってきた岩石を採取できる珍しい場所なんですね。いわば地球内部を覗ける「窓」のようなものなので、岩石学者は大いに注目しました。
そういうプチスポットの特徴がわかったのが、2006年のことです。ただその時点では、岩石学者にとって重要な発見であることはわかりましたが、私のように巨大地震の発生帯などを研究する人間にとっては、あまり気にとめないような話でした。
火の気がない場所に、なぜ「プチスポット火山」があるのか?
――火の気のないところに、どうやって火山ができるのですか?
それは、まだわかっていません。
平野教授らのグループは、プレートの折れ曲がりに起因するのではないかという仮説を立てました。大陸プレートの下に沈み込むときに海洋プレートが折れ曲がるので、「アウターライズ」と呼ばれる盛り上がりができます。
そのアウターライズの手前で海洋プレートに応力変化が生じ、それが何らかの形でマントル深部に火道を開くことで、プチスポットをつくる噴火が起きるという見立てです。
最初のころに見つかったプチスポットは、100万年〜200万年前にできた新しいものでした。それならば、海溝近傍のアウターライズとの関連を考えるのも妥当でしょう。
しかし、その後に発見されたプチスポットの中には、およそ800万年前にできたものがあることがわかっています。
日本海溝付近の海洋プレートは西に向かって移動しているので、そのプチスポットが800万年前にできた場所は、現在より700キロメートルも東です。だとすると、沈み込み帯近くのアウターライズとは関係がありません。
ですからプチスポットをつくるメカニズムについては、さまざまな仮説が出されて、議論が分かれているのが現状です。私自身は、海洋プレートにマグマが抜けるような何らかの弱線があって、そこにできるのではないかと考えています。
実際、最初にプチスポットが見つかったのは海洋プレートがいちばん薄い場所でした。海洋プレートの厚さは地球全体で平均約6.5キロメートルですが、その領域は約5キロメートル。平均値と大差ないと思われるかもしれませんが、海洋プレートはきわめて均一性が高いので、これは非常に薄いといえるんです。
プレートが薄ければ、地殻に生じた傷などによって何らかの弱線が生じてマグマが上がってくる可能性があるでしょう。2011年の震源の南側(図の「Area C:C海域」)では、80個ものプチスポットが発見されています。
地殻の厚さが震源を決めている!?
ところで、震源の北側には「北海道ライズ」という水深の浅い海域があります。
海洋プレートが沈み込むときに海底面が盛り上がったと考えられていたので「アウターライズ」と呼ばれているのですが、私たちの調査では、ここは海洋地殻が厚いことがわかりました。そして、これまで日本海溝沿いで発生した巨大地震は北海道ライズが沈み込む日本海溝の北側でしか起きていません。
──地殻が厚いと水深が浅く、薄いと深くなるんですか?
いわゆる「アイソスタシーの原理」ですね。水よりも密度が小さい氷が水に浮かぶように、マントルよりも密度が小さい岩石でできている地殻はマントルに浮いています。地殻が厚ければ厚いほど高く浮き、逆に、地殻が薄い場所は相対的に深くなります。
地殻が30キロメートルもある大陸プレートが海面よりも高く浮き、地殻が6.5キロメートルほどしかない海洋プレートがその下に沈み込むのも同じ理由ですね。海洋プレート同士でも、厚さが違えば浮き具合が変わるわけです。
北海道ライズの地殻は周辺よりも厚いので、北海道ライズが周辺よりも盛り上がって見えるのは、もともとの地殻の厚さの違いによる水深の差が大きく関与していると考えることができるでしょう。
そうだとすると、日本海溝に沈み込む海洋プレートは、地殻の厚い北側は浮力が大きく、地殻の薄い南側は相対的に重いということになります。
北海道ライズが沈み込む日本海溝の北側でしか巨大地震が起きないのは、この違いによるものかもしれません。沈み込むプレートの浮力が大きいほうがプレート同士が強く固着するので、巨大地震が起こりやすくなるのかもしれません。
私たちは、それが東北地方太平洋沖地震の南限を決めた可能性があると考えています。
プチスポット火山が、地震を止めている!?
──地殻が薄く相対的に沈み込む海洋プレートが重い場所は、上盤プレートとの固着が強くなりにくいので、そこから先には地震が広がらなかったということですね。では、北側はどうなっているのでしょうか?
その北限を決めたのが、まさにプチスポットではないかと考えているんです。
というのも、震源域から大量に見つかったスメクタイトは、100〜200度の高温にさらされると熱変性を起こして「イライト」という別の物質になります。これはスメクタイトよりも摩擦が何倍も大きいので、スルスルと滑ることはありません。
ですから、プチスポットのある海域ではその火山活動による熱変性で、滑りやすいスメクタイトが失われ、巨大地震が起こりにくい可能性があるのです。
──先ほどのお話では、プチスポットのある海域は堆積層が薄く、その下にいくつもの境界面があるとのことでした。これはどういうことですか?
堆積層の厚い海域は、下の左図のように地殻の上にチャート層があり、その上にスメクタイトを含む遠洋性粘土層があります。さらにその上に、プレートが近くまで移動してから積もった新しい堆積物の層が載っているんですね。
ここに火山活動が起きたときにどうなるかを示したのが、上の右図です。
マントルからマグマが上昇してくると、海底面を突き抜けるまでに途中で一部が水平方向に広がって、貫入岩をつくります。これが境界面となって、それより下の堆積物を隠すような形になり、結果的に、海底面より下の新しい堆積層が薄く見えるのではないか。それが私たちの立てた仮説です。
プチスポット火山は、地震の始まりと終わりに関係しているのか?
今回の「東北沖プチスポット探査」では、いちばん上の薄い堆積層を掘り抜いて、その下にあると思われるプチスポット溶岩を採取することが大きな目的のひとつです。
もしアルカリ性の玄武岩のようなプチスポット由来のサンプルが得られれば、火山活動と地震の関係を理解するための重要な手がかりになるでしょうね。
ちなみに、先ほどはプチスポットが地震による滑りを北側で止めた可能性があるという話をしましたが、それとは逆に、地震の破壊開始点にプチスポットが関係している可能性もあります。
宮城県沖では、およそ30年周期で大きな地震が起きてきました。かつてはマグニチュード7.5レベルで収まっていたのが、2011年はマグニチュード9まで大きくなりましたが、いずれも破壊開始点はほぼ同じです。
では、その場所に何があるのか。沈み込んでいく海洋プレートの表面が、ほかの場所とは違う性質を持っている可能性が高いでしょう。もしかすると、プチスポットの火山活動によって変質したことで、破壊開始点になりやすい状態になっているのかもしれません。
──プチスポットは、地震の始まりと終わりの両方に関わっている可能性があるんですね。
そういうことになりますね。もちろんまだ根拠のない仮説ですが、そういう意味でも、プチスポットはこれから詳しく調べていくべきものだと考えています。
取材・文:岡田仁志
撮影:村田克己(講談社写真映像部)
取材・図版協力:海域地震火山部門 地震発生帯研究センター 藤江 剛 センター長

〈特設サイト〉IODP3 第502次研究航海 東北沖プチスポット探査
https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp502/
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