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未知の深海生態系に挑む! 鉄のウロコをもつ貝「スケーリーフット」のゲノム解析で明らかになった、数十万年にわたるその壮大な分散の歴史

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取材・文:福田伊佐央

地球上で唯一、鉄のうろこをもつ巻貝である「スケーリーフット」。この特殊な生き物は、インド洋の深海底にある熱水噴出孔の周辺(熱水域)にのみ生息しています。

インド洋では現在、十数か所の熱水域が見つかっています。そのうち、8か所でスケーリーフットが見つかっています。このたび、これらのスケーリーフット集団のゲノムを解析することで、インド洋のスケーリーフットが5つのグループ(遺伝集団)に分けられることがわかりました。また、熱水域でしか生きられないこの生き物が、何十万年もかけてインド洋全体に生息地を広げていった壮大な歴史も明らかになりました。

JAMSTEC 生命地球科学研究部門 海洋生命圏研究プログラムのCHEN Chong(チェン・チョン)主任研究員に、今回の研究の背景などを聞きました。(取材・文:福田伊佐央)

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CHEN Chong主任研究員(撮影:村田克己/講談社写真映像部)

未知のインド洋の深海熱水域、その生物調査に挑む

──なぜインド洋の熱水域での生物調査が行われたのですか?

実は、今回の生物調査には、海底資源調査が大きく関係しているんです。これまで、インド洋の深海には十数箇所の熱水域が見つかっていますが、そのうち8か所でスケーリーフットが発見されました。そこにはユニークな生物群集のほかにも、「深海熱水鉱脈」と呼ばれる有用な鉱物資源があると考えられています。

ただし、そのほとんどは特定の国の排他的経済水域に属していない公海にあるため、資源探査や開発を進めるには国連のISA(国際海底機構、International Seabed Authority)という組織の許可が必要です。

インド洋の熱水域については、すでにドイツとインド、韓国、中国の4か国にISAから資源探査の承認が下りています。今まさに将来的な資源開発に向けて、その4か国がさまざまな調査を行っているところです。

──熱水域からはどんな資源が得られるのですか?

海底から噴出する熱水には、銅や亜鉛などのさまざまな金属が溶けています。それが海底から噴き出すと、金属成分が析出(せきしゅつ)して固まり、「チムニー」と呼ばれる煙突状の構造ができることがあります(図1)。

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図1:インド洋のエドモンドフィールドにある熱水噴出孔。金属を含む熱水が煙突状の構造「チムニー」から黒い煙のように噴き出している。黒い熱水を噴き出す噴出孔は、ブラックスモーカーと呼ばれる(写真提供:JAMSTEC)

熱水域には、今も熱水を噴出するチムニーだけでなく、もう熱水は出さなくなった昔のチムニーもたくさんあるので、その海域を掘削することでチムニーに含まれている金属などを採取できます。

本格的に開発を進めるかどうかを判断するために、各熱水域にどんな資源がどれだけあるかの調査が行われています。また、資源開発を行うと、そこにいる生物に大きな影響をおよぼします。そのため、資源調査に加えて、熱水域の環境影響評価のための調査も並行して行う必要があります。

各熱水域にどんな生物がいるのか、それらの生物は他の場所とどれくらい共通しているのか、あるいは独自性が高いのかなどを調べます。さらに、その熱水域を掘削したら生物にどういう影響が出るのか、そこにいた生物が絶滅してしまうのではないかといったことを調べる必要があります。

日本はインド洋の熱水域の資源開発にはかかわっていませんが、じつは最初にインド洋の熱水(かいれいフィールド)を発見したのは日本で、それ以降も継続してインド洋の深海熱水調査を行ってきた経緯があります。

125 匹のスケーリーフットの全ゲノムを解読

──実際に、どのような研究が行われたのでしょうか?

スケーリーフットという熱水域に生息する貝に注目しました。鉄のうろこを持つ貝として知られています。

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図2:上:熱水噴出孔の周辺にいるスケーリーフット(写真提供:JAMSTEC)下:採取されたスケーリーフット。足についているうろこ状の部分は硫化鉄で覆われている(写真提供:CHEN Chong/JAMSTEC)。スケーリーフットの採取は、有人あるいは無人の探査機で映像を確認しながら、掃除機のような装置で吸引して採取する。

この調査では、インド洋の8か所の熱水域から採取された計125匹のスケーリーフットを使用しました。

まず、ゲノム(全遺伝情報)を解読し、遺伝情報にどれだけの差があるかを調べました。遺伝情報は、個体ごとに少しずつ差があります。さらに、その遺伝情報を個体間・地点間で比較することで、その生物がどういう歴史をたどってきたかがわかってきます。

ゲノム上に特定の変異をもつ個体の子孫がふえていくと、集団内にはその特定の変異が広まっていきます。その結果、共通した遺伝的な特徴をもつグループ、すなわち遺伝集団ができていきます。

異なる熱水域に暮らすスケーリーフットの遺伝情報を網羅的に調べることで、どの地域のスケーリーフットが遺伝的に近い、あるいは遠い集団なのかがわかります。それによって、どの熱水域のスケーリーフットが高い遺伝的独自性を持つか、などがわかるというわけです。

──それだけの数のスケーリーフットを採取してくるのはたいへんだったのでは?

実は、今回の調査のために、あらためて海底から採ってきたわけではありません。これまでの調査で採取されたスケーリーフットのサンプルを使いました。

日本、韓国や中国がかつて調査したときに採取したものなど、さまざまな国が10年ほどかけて蓄積された125匹分のサンプルを今回は使っています。これだけの数のサンプルを急にそろえることはできませんので。

 

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5つの遺伝集団に分かれていた!

──ゲノムの比較によって、どんなことがわかりましたか?

遺伝情報の差を調べた結果、8か所の熱水域にいたスケーリーフットは大きく5つのグループ(遺伝集団)に分けられることがわかりました。

1つ目は、最も南にある熱水域である「ロンチー(Longqi)」と「ドゥアンチャオ(Duanqiao)」のグループです。

2つ目は「ティエンチェン(Tiancheng)」のグループ。

3つ目は「かいれい(Kairei)」と「ソリティア(solitaire)」のグループ。

4つ目は「オヌーリ(Onnuri)」と「オンナーレ(Onnare)」のグループ。

そして、5つ目は最も北にある「ウォーツァン(Wocan)」のグループです(図3)。

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図3:8か所の熱水域とそこに生息しているスケーリーフットの写真。赤い丸で囲んだ熱水域の個体は遺伝的に近く、同じグループ(遺伝集団)に分類できることがわかった(図版提供:CHEN Chong/JAMSTEC)

基本的に、地理的に近い熱水域の個体は遺伝的にも近いことがわかり、同じグループ(遺伝集団)にまとめられるという結果になりました。

ゲノム上の1塩基のちがいを元に分類する

──遺伝情報の差は、どうやって調べたのですか?

「一塩基多型変異(SNPs)」というものを使いました。

これはゲノム上に存在する突然変異の一種です。スケーリーフットのゲノムサイズは約4億4440万塩基です。ゲノム上には、特定の1塩基だけが変異している箇所がいくつもあります。そういった1塩基の変異の中でも、集団の中で比較的共通して見られる1塩基の変異を一塩基多型変異と呼びます。

たった1塩基の変異ですが、ある集団の中ではよく見られて、ほかの集団ではあまり見られないことから、集団を分けたりその集団の系統関係を調べるのに利用できます。

今回は約1430万箇所の一塩基多型変異について調べました。

──すごい数ですね!

8か所の熱水域のスケーリーフットの遺伝的な差の大きさをグラフ上に示したのが、下の図4です。

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図4:8か所のスケーリーフットの遺伝的な距離を示した図。点線で囲んだものが同じグループに分類できる。地理的に遠く離れている「ロンチー・ドゥアンチャオ」(左下)と「ウォーツァン」(上)は、遺伝的にも差が大きいことがわかる(図版提供:CHEN Chong/JAMSTEC)

グラフ上で距離が離れているほど、遺伝情報の差も大きいことを示しています。地理的な距離が離れているほど、やはりグラフ上の遺伝的な差も大きいですね。

海流に乗って南から北に進出した、数十万年の旅

今回解読したゲノム情報を使って、8か所の熱水域のスケーリーフットについて、分散の歴史を示す模式図もつくりました(図5)。

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図5:スケーリーフットのグループがどのように分散していったかを示す模式図。ゲノム上に残る突然変異を調べると、どの変異がどのグループから、どれくらい昔に受け継がれてきたのかがわかる。灰色で示されたグループは、理論上、その存在が推測されるグループである。それらのグループは未発見か、すでに消滅している可能性がある(図版提供:CHEN Chong/JAMSTEC)

5つのグループの中では、最も南の熱水域である「ロンチー」のグループが最初に出現したと推測されました。スケーリーフットの1世代を2年と仮定すると、約24万年前のことになります。同じ仮定で、最も北にある熱水域である「ウォーツァン」のグループが生まれたのは、6万年ほど前だと推測されました。

インド洋のスケーリーフットは少なくとも 20 万年近い年月をかけて、6000 キロメートル以上の距離を飛び石を渡るように北上し、現在のような分布になったのだと考えられます。

どうやって生息範囲を広げたのか?

──そもそもスケーリーフットは、どうやって生息範囲を広げるのですか?

スケーリーフットは熱水噴出孔の周辺でしか生きられないので、遠く離れた別の熱水域まで成体が移動してたどり着くとは考えにくいです。でも、卵から孵化したばかりの幼生であれば海流に乗って長距離を移動できるので、おそらく幼生によって生息範囲を広げていると考えられます。

インド洋の深層には、実際に南から北に向かう海流がありますので、幼生はそれに乗って新しい熱水域に進出していったのでしょう。

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図6:海流によるスケーリーフット幼生分散の粒子運動シミュレーション。各熱水域やゴースト集団と推定された2か所(未確認熱水域・非活動熱水域)からスケーリーフットの幼生の代わりとなる粒子を放出し、深層海流でどのように運ばれるかをシミュレーションしたもの。(A)放出から1年、6年、12年の時点を示した粒子運動シミュレーション結果。色の濃淡は、シミュレーション上の幼生粒子密度(対数変換後)を表す。(B)15年の分散シミュレーションで、各熱水域から放たれた粒子が他の熱水域にどれだけ運ばれたかを示した図。各セルは、横軸に示した特定の供給源集団から、縦軸に示した受け皿集団へ運ばれた幼生粒子の量を表している。色の濃淡はシミュレーション上の幼生粒子密度(対数変換後)を表している。横軸は時間(年)、縦軸は深度 (km)(図版提供:CHEN Chong/JAMSTEC)

分散のかぎを握る「ゴースト集団」

スケーリーフットの幼生は、栄養分として卵黄をもっているので一定期間は海中を漂うことができます。しかし、それにも限界があるので、一度に移動できる距離は限られています。

8つの熱水域のうち、「ロンチー」と「ドゥアンチャオ」は比較的近いので幼生は十分に到達できますが、そこから一つ隣の「ティエンチェン」まで一気に幼生が到達できたかというと疑問です。

シミュレーション結果を考慮すると、「ロンチー・ドゥアンチャオ」と「ティエンチェン」の間には未発見の熱水域があって、そこをいったん経由してから「ティエンチェン」にまで到達した可能性が高いと考えています。

そういった未発見の熱水域には「ゴースト集団」がいて、インド洋のスケーリーフットの分散に大きな役割を果たしたと考えられます。

──「ゴースト集団」とは何ですか?

過去に存在したもののすでにいなくなったか、今も存在するがまだ発見されていない遺伝集団のことを、そのように呼んでいます。

ゲノム情報を基につくられた系統図(図5)でも、発見済みの5つのグループだけでなく、未発見のグループが存在する可能性が示されています。これらがゴースト集団です。

見つかっている8か所の熱水域のほかにも未発見の熱水域があり、そこに生息していたゴースト集団がいたと想定しないと、インド洋最北の熱水域であるウォーツァンにまでスケーリーフットが進出できたとはとても考えられません。

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(撮影:村田克己/講談社写真映像部)

その説を検証するために、海流に乗って幼生がどれくらいの範囲に移動できるかをシミュレーションしました。その結果、シミュレーションからも、ゴースト集団の存在を考慮すれば、幼生が海流に乗って南から北に少しずつ生息範囲を広げていくことは十分に可能だという結果が出ました。

南から北に分散していったというのは、系統図の結果とも合っているので、おそらくそうなのでしょう。

クールなスケーリーフットは環境保全の“象徴”に

──今回、熱水域の生物調査の代表として、なぜスケーリーフットを選んだのですか?

理由はいくつかありますけれど、まずスケーリーフットって、クールだと思いませんか。鉄のうろこを持つ変わった生物ということである程度の知名度もあります。環境保全のための研究なので、皆に関心を持ってもらうことはとても重要です。

それにスケーリーフットは絶滅危惧種です。この種を守ることは同じ熱水域にすむ他の生物たちも守ることにつながります。スケーリーフットの遺伝的多様性を守るために保全すべき重要な地点は、絶滅が危惧される他の生物にとっても同じように重要な地点だと推測されます。

スケーリーフットは、環境保全の重要性を皆にアピールするための「フラッグシップ種(象徴種)」となりうるんです。

──たしかに象徴的な存在となりそうですね。

インド洋すべての熱水域に生息しているという謎

もう一つの理由としては、スケーリーフットはインド洋において、北から南まですべての熱水域にいる生物だからです。

実は北から南までインド洋のすべての熱水域に共通して見られる生物は、数えるほどしかいません。スケーリーフットの他には、フジツボの仲間であるミョウガガイの一種や、ある種のエビ(カイレイツノナシオハラエビ)などです。

その中でも、スケーリーフットは生息範囲を広げにくい生物です。幼生が表層まで浮かんでから海流に乗って分散する種は、表層でプランクトンなどを食べながら漂えるので、ある程度長距離を移動することができます。

一方でスケーリーフットは、元々もっている卵黄だけをたよりに深層の海流に乗って移動するので、分散しにくい生物です。つまり、地理的に分断されやすくて、一部の熱水域にしか存在いないという状況になりやすい生物なんです。

海底の海嶺上には、その海嶺に沿って流れる海流があり、深い水深で分散する幼生にとっての“高速道路”として働くと考えられています。地理的な分断でいえば、インド洋の海底には、2つのプレートがずれることで生じる「トランスフォーム断層」がいくつか存在していて、そこで海流の流れが途切れてしまうと考えられます。

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図7:トランスフォーム断層の模式図(図版作成:鈴木八八)

このトランスフォーム断層は、幼生が乗って移動する海流の“高速道路”が途切れてしまう場所なんです。スケーリーフットのグループ間の分断には、トランスフォーム断層の影響が大きいと考えています。

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図8:インド洋の海底に見られるトランスフォーム断層。インド洋には地下からマントルが上昇してくる「海嶺」がいくつも走っている。海嶺は2つのプレートの境界である。海嶺を横切る“しわ”のように見えるものが、トランスフォーム断層である(図版提供:CHEN Chong/JAMSTEC)

──今回の成果は、今後の熱水域の開発にどのように利用されることになりますか?

現代の資源開発は、生物への影響を全く無視して進めることはできません。今回の成果をまとめた論文は、IUCN(国際自然保護連合)が絶滅危惧種についてまとめた「レッドリスト」にも反映されるでしょうし、開発を承認する国連の組織も参考にするでしょう。

今回の研究結果は、資源開発を行う国や団体にもフィードバックされます。彼らがどの熱水域をどのように開発していくかを決めるときに、重要なデータとして利用されると思います。

未調査だったマリアナ海溝周辺の深海生物

──最近、マリアナ周辺でも生物調査を実施されたと聞きました。

2025年12月から2026年1月まで実施された「MoWAME(モワーム)」の調査航海に参加しました。マリアナ諸島周辺にある熱水域や冷湧水域で生物を採取しました。

このあたりの熱水域では2023年に一度、生物調査を行いましたが、それ以降はあまり調査が進んでいないので、あらためてどんな生き物がいるのかを調べることにしました。

マリアナ諸島の北側(沖縄や小笠原諸島)と南側(サモアやトンガ、ニュージーランド)では、深海の熱水域にいる生物が大きくちがっています。その中間地点であるマリアナ諸島周辺の熱水域・冷湧水域にいる生物を調べることで、北と南の生物との共通点や、北と南で生物が分断されている理由などが明らかになるかもしれないと考えました。

 

MoWAME(モワーム)の調査航海の紹介

南太平洋の生物の分散も「ゴースト」が鍵を握る

──どんな生物が見つかりましたか?

くわしくは別の機会に紹介できたらと思いますが、北側(沖縄トラフなど)と共通する生物もいれば、南側(パプアニューギニアやトンガ近海など)と共通する生物も見つかりました。

それらの生物について分布などを掘り下げていけば、南北でどのような交流があるのかが見えてくるのではないかと考えています。

インド洋のスケーリーフットの調査でわかったように、熱水域の生物の分散には、生物の生態や深層の海流、海底の地形などが影響します。マリアナ諸島周辺は、インド洋のような深層の海流の“高速道路”が見当たらないので、熱水域の生物の幼生が長距離を移動するのは難しいはずです。

そうなると、比較的近い場所にある化学合成生態系を少しずつ移動して分散するしかありません。熱水域に棲む生物の分散には、「低温熱水」や「蛇紋岩冷湧水」がかぎを握っているのではないかとにらんでいます。

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図9:マリアナ前弧・クウェイカー(Quaker)海山山頂にある“夢見る尖塔”(Dreaming Spires) 蛇紋岩冷湧水サイト。炭酸塩チムニーが林立している(写真提供:JAMSTEC)

──それはなぜですか?

高温の熱水域は、周囲の海水との水温や濁度の差がはげしいので、比較的見つけやすい熱水域です。一方、熱水の温度が低かったり、規模が小さかったりする熱水域は見つけることがすごく難しいんです。低温の熱水域は、まだほとんど見つけられていないのではないかと思います。蛇紋岩系の冷湧水も同じです。

そういった低温だったり小規模だったりする未発見の熱水域が、生物の分散の足場や踏み石となって、分散を助けているはずです。インド洋のスケーリーフットの分散でも、未発見の熱水域がゴースト集団の足場となって分散を助けていました。

マリアナ諸島周辺にかぎらず、低温や小規模の熱水域・冷湧水域が世界中で見つかってくれば、深海に暮らす生物たちの分布や移動について、全体像がもっとくっきりと見えてくると思います。

今、私たちに見えている全体像は不完全で、まだまだ謎だらけですから。

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(撮影:村田克己/講談社写真映像部)

取材・文:福田伊佐央
撮影:村田克己/講談社写真映像部
取材協力・図版提供:生命地球科学研究部門 海洋生命圏研究プログラム CHEN Chong 主任研究員


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