技術の進歩とともにさまざまな産業分野で需要が高まっている「レアメタル」。このレアメタルが日本近海の海底に蓄積していることがわかってきました。海底鉱物資源には「海底熱水鉱床」、「マンガンクラスト(コバルトリッチクラスト)」、「マンガンノジュール(マンガン団塊)」、「レアアース泥」の4種類があります。日本は「排他的経済水域(EEZ)」内に、この4種類の海底鉱物資源がそろっている世界唯一の国です。
この記事では、4種類の海底鉱物資源のうちの「海底熱水鉱床」に注目し、その成因や海底鉱物資源調査の最前線について紹介します。(取材・文:立山 晃/フォトンクリエイト)

黒鉱の起源としての海底熱水鉱床
日本の代表的な鉱床に「黒鉱(くろこう)」と呼ばれるものがあります。黒鉱とは、亜鉛や鉛、銅、金や銀などが硫黄と結合した金属硫化物を含む、黒色の鉱石が蓄積した鉱床です。この黒色は亜鉛と鉛の硫化物の色で、銅の濃度が高い鉱石は金色をしていて、黄鉱と呼ばれています。
この黒鉱の形成は、海底の熱水活動が起源だと考えられてきました。
黒鉱は、秋田北部など日本海側を中心に分布しています。日本列島が大陸から分離して、その間に日本海ができた約1500万年前、海底の火山活動にともなう熱水活動によって形成されたと考えられています。
1980年代には、沖縄海域で海底から熱水が噴き出す「熱水噴出孔」が発見されました。さらに、そこでも黒鉱のような鉱床が形成されている可能性が指摘されました。
2010年代以降、沖縄海域や伊豆・小笠原海域の海底熱水鉱床の本格的な調査が行われ、これらの海底熱水鉱床がどのように形成されたのか、その成因研究が進展しました。
「熱水噴出孔モデル」と「海底下熱水循環モデル」
海底熱水鉱床については、おもに二つの成因モデルが考えられてきました。その一つが、「熱水噴出孔モデル」です。
まず、海水が海底下にしみ込みます。海水はマグマの熱で熱水となり、周囲の岩石から金属を溶かし出しながら上昇して海底から噴出します。噴出した熱水は冷やされ、硫黄と結合して金属硫化物となって降り積もり鉱床が成長するのです。
金属硫化物が煙突状に降り積もった構造は「チムニー」と呼ばれています。
もう一つは「海底下熱水循環モデル」です。
さきほどと同様に、海水が海底下にしみ込み、マグマの熱で熱水になります。このとき、金属を溶かし込んだ熱水が海に噴き出さず、海底下で循環することで、金属硫化物からなる鉱床が成長するというモデルです。
ただし、海底下での鉱床の分布や形状は詳しく解明されておらず、海底下熱水循環で鉱床が大きく成長するための条件も不明でした。
熱水鉱床の成長を深層海水中の「酸素」が妨げる!?
私たちは、熱水噴出孔でも海底下熱水循環でも鉱床は形成されるが、海底下熱水循環のほうが、鉱床が大きく成長するのではないか、と考えました。そのおもな理由は酸素です。
南極沖やグリーンランド沖では、寒冷な大気に冷やされて密度が高くなった海水が深層まで沈み込み、世界の海を循環する流れがあり、これを「海洋大循環」といいます。その深層を流れる海水には酸素が豊富に含まれています。
熱水噴出孔では金属硫化物が海底に堆積することで鉱床が成長します。しかし、金属硫化物は深層の海水中に多く含まれる酸素と結びつきます。いわゆる錆びた状態です。
酸素と結びついた金属硫化物は、海水に溶け出しやすくなります。そのため、熱水噴出孔に堆積した金属硫化物は海水へ溶け出し拡散してしまいます。このように熱水噴出孔モデルでは、鉱床の成長を妨げる要因があるのです。
海底下熱水循環で鉱床が成長する条件とは?
それでは、海底下熱水循環で鉱床が大きく成長するには、どのような条件が必要でしょうか。
まず、熱水が循環するためには、海底下に熱水が通る隙間が多く存在する必要があります。火山灰や陸上から流れ込んだ土砂が堆積した海底下ならば、この隙間が多くなります。
もう一つの条件は、上昇する熱水が海底から大量に噴出しないように蓋があることです。
海底下で熱水中の硫酸イオンとカルシウムが反応して石膏ができたり、岩石が熱水によって変質して粘土となったりして水を通しにくい層が形成されると、それが熱水の上昇を食い止める蓋の役割をします。これは「キャップロック層」と呼ばれます。
金属を溶かし込んだ熱水が、キャップロック層まで上昇するとそこで冷やされるため、金属硫化物が蓄積します。さらに、冷やされた水は、ふたたび地下へ沈み込んでマグマの熱で熱水となり、もう一度キャップロック層まで上昇します。このような熱水循環を海底下でくりかえすことで、鉱床が大きく成長していくのではないかと考えられます。
また、キャップロック層には、酸素を豊富に含んだ海水を通しにくくし、蓄積した金属硫化物が錆びて海水中へ拡散することを防ぐ効果もあると考えられます。
「音」を使って熱水の出ている場所を見つける
隙間とキャップロック層を備えた海底下熱水循環という私たちのモデルを検証するには、実際の海底熱水鉱床を観測する必要があります。JAMSTECではそのための探査手法の開発も進めてきました。
海中では、光(電磁波)はすぐに減衰してしまうため、光を使った広範囲の探査ができません。そのため、海では音波による広域探査が行われてきました。
熱水噴出孔モデルでも、海底下熱水循環モデルの鉱床でも、海底から湧き上がる熱水が探査の目印となります。
船を走らせて海底へ向けて音波を出し、跳ね返ってくる音波を捉えます。熱水があると音波を強く反射します。熱水に含まれる二酸化炭素やメタンなどのガス成分が音波を強く反射するのだと考えられ、それによって熱水がある領域を探すことができます。
実際に調査した際に得られたデータがこの図です。中央の図にある赤い部分に熱水上昇流(熱水プルーム)があります。船がその上を通ったり、近くをかすめたりすると、左右の図から、左下、右中、右下の図のように、青色の部分に紐状にあらわれる反射するものが見えます。これが熱水プルームです。
熱水鉱床の存在を「電気」で探る
音波で熱水が湧き上がる領域を見つけたら、次に、その領域に海底熱水鉱床がどのように存在するのかを調べます。そのために、私たちは「自然電位測定」という手法を開発しました。
自然電位とは、地下水などの流れや金属の酸化など自然の現象によって生じる電位差のことです。海底の金属硫化物は電池の性質を持つため、その真上ではマイナスの自然電位が観測されます。
電極をつなげた装置を海底に近づけて自然電位を計測することで、海底熱水鉱床の領域を知ることができるのです。
船から電極をつなげた装置を曳航する手法は、線状の1次元的な観測になります。海底資源研究プログラムでは、この曳航体を引いて船を走り回らせることで、面的な自然電位異常の海域を観測し、その下に海底熱水鉱床の存在を推測します。
この観測を、海中ロボットに電極装置を搭載して走らせることで、海底熱水鉱床が分布する範囲を特定する実験も行いました。
このように、音波や自然電位によって海底熱水鉱床があるらしいことはわかります。ただ、それらはあくまで間接的な探査手法です。実際に、海底熱水鉱床があるかどうかを確かめるためには、海底面や海底下から試料を採取する必要があります。
そこで、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて海底の掘削調査を行い、物理観測結果と実際の鉱床の分布の関係を調べました。さらに、海底設置型の掘削装置(BMS)を用いて、音波と自然電位で海底熱水鉱床があると推定した海域に、実際に金属硫化物が蓄積していることを確認しました。
数理モデルによって熱水鉱床の3次元分布を推定する
ただし、掘削調査は掘削孔という複数の点での縦方向の情報です。鉱床がどのくらいの規模で形成されているのかを知るには、横方向の広がりを3次元的に調べる必要があります。
そこで、共同研究者である京都大学の研究グループが中心となり、地球統計学という数理モデルによる手法を用いて、観測データをもとに海底下に広がる鉱床の3次元予測図を導き出す手法を開発することに成功しました(Ribeiro de Sá et al., 2021)。
これらの探査・予測技術も用いることで、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は沖縄海域と伊豆・小笠原海域にある海底熱水鉱床の概算資源量を5180.5万トンと推定しています。
海底のカルデラ地形に海底下熱水循環が起きている
私たちは、沖縄海域や伊豆・小笠原海域の海底熱水鉱床を観測することにより、多くの間隙とキャップロック層を持つ海底下熱水循環が、鉱床を大きく成長させるという成因モデルを検証してきました。
たとえば、カルデラ地形には海底下熱水循環ができやすいと考えられます。カルデラ地形とは、火山が、地下のマグマを一気に吹き出すカルデラ噴火という巨大噴火を起こすことで、地下に隙間ができ、その上の地面が大規模に陥没して形成される凹地(地形)のことです。
海底のカルデラ地形に火山灰が降り積もると、海水がしみ込み、熱水が循環しやすい間隙の多い海底下の環境ができます。
実際に、沖縄海域や伊豆・小笠原海域にはこのようなカルデラ地形の海底が複数あります。そこを観測すると、実際にキャップロック層が形成されて海底下熱水循環が起きており、海底熱水鉱床が大きく成長している場所があることがわかりました。
海底熱水鉱床が「二階建て」になっている!
海底下熱水循環の調査のために、海底下の数十メートルまでの鉱床の分布や形状を詳細に可視化する「海底電気探査」という技術も開発しました。これは、海底付近で微弱な電気を海底下に流して電気の通りにくさの度合い(比抵抗)を計測するという手法です。金属鉱床は電気をよく通す性質を持つので、海底下の鉱床の分布や形状をくわしく知ることができます。
沖縄海域の海底電気探査によって、熱水噴出孔モデルでできた海底面付近の熱水鉱床(CD1)の下に、海底下熱水循環モデルによる熱水鉱床(CD2)が海底下40メートルに分布していることを明らかにしました。
これは、いわば海底熱水鉱床が二階建てになっている状態です。私たちの研究グループは、この「二階建て海底熱水鉱床」を世界で初めて詳細に可視化することに成功しました。
さらに、「ちきゅう」による掘削調査により、海底下深部の熱水鉱床(CD2)の直上には熱水を通しにくい石英や硬石膏を含む層があることがわかりました。これがキャップロック層となり、その下で熱水が循環することで海底下の熱水鉱床(CD2)が大きく成長します。
また、キャップロック層を通過した熱水によって海底面付近の熱水鉱床(CD1)が形成されたと考えられます。
日本はなぜ黄金の国だったのか?
海底熱水鉱床の成因には、どのような謎が残されているのでしょうか。
その一つは、熱水鉱床に含まれるそれぞれの金属の濃度、組成の違いです。沖縄海域や伊豆・小笠原海域の海底熱水鉱床では、金の含有量が多く、アメリカ大陸沖の沈み込み帯にある海底熱水鉱床では銅の含有量が多いという違いがあります。
どちらも熱水が岩石から金属を溶かし出します。その岩石に含まれる金属組成に大きな違いはありません。それなのになぜ、熱水鉱床の金属組成が異なるのかが大きな謎なのです。
その違いをもたらす要因の一つは、熱水の酸素濃度かもしれません。酸素濃度が高い熱水は金を溶かし出しやすく、酸素濃度が低い熱水は銅を溶かし出しやすいといったことが考えられます。
ただし、実験によってそれを確かめるのは困難です。熱や圧力は制御できても、熱水中の酸素濃度を制御する実験は技術的に難しいからです。熱水中の酸素濃度が要因だとしても、その違いがなぜ生じるかも大きな謎です。
一つの可能性として考えられるのは、沈み込むプレートの性質の違いです。海洋プレートが海底堆積物とともに地球深部に沈み込むと、海底下100キロメートル付近の高温・高圧の環境で水が絞り出されます。そのさいに、周囲のマントルの岩石に水が作用して融点が下がり、マグマとなります。
そのマグマが上昇して火山活動を引き起こすのです。海洋プレートとともに沈み込む海底堆積物の中に酸素が多ければ、マグマにも、マグマによって熱せられる海底下の熱水にも酸素が多く供給されると想像されます。
また、熱水が岩石から溶かし出すときの水圧も金属組成に影響を与えます。水深が浅く水圧が低いと金が濃集しやすく、水深が深く水圧が高いと銅が濃集しやすいという化学実験のデータもあります。沖縄海域や伊豆・小笠原海域にある熱水鉱床は水深が比較的浅い海域に存在しているので、金を多く含んでいるのかもしれません。
なぜ、日本近海の海底熱水鉱床には金が多く含まれるのか、その仕組みが解明できれば、かつて日本で金が多く産出され、黄金の国「ジパング」といわれたのかを説明できるようになるでしょう。
もちろん、海底鉱物資源として「金」だけにこだわっているわけではありません。海底熱水鉱床のさまざまな金属の組成の違いも説明できるように成因モデルを発展させていくことを目指します。それは日本の代表的な金属鉱床である黒鉱の起源を解明することにもつながります。
取材・文:立山 晃(フォトンクリエイト)
撮影:柏原 力(講談社写真映像部)
写真・図版・取材協力:物質地球科学研究部門 海底資源研究プログラム 上席研究員 鈴木勝彦
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