2017年8月号:今年の秋は?

写真:横浜研究所で観測された環天頂アーク

暑い夏が一休みして、また暑くなってきました。空を見上げると、虹が逆さにかかっており、環天頂アークという珍しい現象が見られました。気象庁の発表によると、7月の天候は、北・西日本で気温が平年に比べて高く、北日本では日照時間も多かった模様です(気象庁:7月の天候)。

しかし、8月に入ると一転して中旬頃まで、北・東日本では暑さが和らぎ、不順な天候が続きました。これには、オホーツク海高気圧が強まり、太平洋側でヤマセ(山背)が吹いたことが関係しています(気象庁:8月前半の不順な天候)。一方、西日本では依然として気温の高い状態が続いています。これには、インド洋で現在発達中の正のインド洋ダイポール現象が関係しています(APLコラム:暑い夏とインド洋ダイポール現象)。今後も夏の暑さが続きそうですが、これからの季節、日本を含む世界の天候は一体どうなるのでしょうか?

SINTEX-Fの季節予測によると、今年の9-11月は、ロシアの中央部を除く世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです。また、西アフリカや東アフリカでは雨が平年より多く、インドネシア、オーストラリア、中国東部、アメリカ、ブラジルでは雨が少なくなる見込みです。

原因の1つとして挙げられる熱帯域の気候変動現象ですが、太平洋では熱帯域全体で海面水温が平年並の状態が続き、一方で、インド洋では、現在発達中の正のインド洋ダイポール現象がピークに達しそうです。このため、インド洋東部から海洋大陸にかけて対流活動が弱まり、インドネシアやオーストラリアでは干ばつが起こる可能性があります。

今年の9月から11月の気温と降水量は?

図1 2017年9月から11月までの地上気温の平年差(ºC)。 予測開始日は8月1日。

今年の9月から11月までに予測される世界の気温です。SINTEX-Fの予測によると、世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです(図1)。一方で、ロシアの中央部では、気温が平年より低くなる見込みです。

図2 2017年9月から11月までの降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は8月1日。

次に、今年の9月から11月までに予測される世界の降水量を見てみましょう。SINTEX-Fの予測によると、西アフリカや東アフリカでは、雨が平年より多くなりそうです(図2)。一方で、インドネシア、オーストラリア、中国東部、アメリカ、ブラジルでは、雨が平年より少ない見込みです。

また、日本の9−11月は、気温が平年より高めになりそうです。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の予測情報に注意してください。

図3 2017年9月から11月までの海面水温の平年差(ºC)。予測開始日は8月1日。

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海面水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな海面水温の変動が世界の気候に影響をもたらします。

SINTEX-Fの予測によると、今年の9月から11月まで熱帯の太平洋は、全域で海面水温が平年並になる見込みです(図3)。一方、熱帯のインド洋は、東部の海面水温が平年より低く、西部の海面水温が高くなる正のインド洋ダイポール現象が発達する見込みです。正のインド洋ダイポール現象が発生すると、西日本では気温が高くなる傾向にあります。今年の場合、正のインド洋ダイポール現象に伴う大気の遠隔影響(モンスーン・砂漠メカニズムとシルクロードパターン;APLコラムの解説を参照)によって小笠原高気圧が強まり、気温が高い状態が続く見込みです(図略)。

それでは、これらの気候変動現象は今後どのように発達していくのでしょうか?

図4 2017年8月以降に予測される、エルニーニョ指数とインド洋ダイポール指数(ºC)。予測開始日は8月1日。青線が観測値、灰線が9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤線が9つのグレーの予測値の平均値。

そこで、熱帯域の気候変動現象が最もよく現れる海域で平均した海面水温の平年差を見てみましょう。エルニーニョ指数を見ると(図4上段)、今年の冬まで海面水温が平年よりもわずかに高い状態が続きます。その後、来年の春から海面水温が平年よりもわずかに低くなり、弱いラニーニャ現象のような状態になりそうです。一方、インド洋ダイポール指数ですが(図4下段)、8月には1度を超えて発達し、夏から秋にかけてピークに達する見込みです。

今年の秋にかけて、正のインド洋ダイポール現象が強く発達すると予測していることから、日本の天候は平年に比べて高気圧に覆われやすく、気温が高くなる見込みです。今年と似たケースが過去にもあり、正のインド洋ダイポールが発生した1994年には、日本は背の高い高気圧に覆われ、記録的な猛暑になりました(参照)。また、2006年には、豪州で記録的な干ばつになり、小麦の収量が減りました(参照)。このように、正のインド洋ダイポール現象が大気の遠隔影響を通して引き起こす異常気象に今後注意する必要があります。

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象だけでなく、インド洋に発生するインド洋ダイポール現象なども大きく影響を及ぼすことが分かっています。今年の9月から11月は、インド洋では現在発達中の正のインド洋ダイポール現象がピークに達し、インドネシアやオーストラリアでは干ばつが起こる可能性があります。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意してみていきましょう。