2017年夏の予測の“答え合わせ”

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楽しい夏も終わり、比較的過ごしやすい秋になりました。これからは朝夕冷え込んできますので、お体にはくれぐれもお気をつけください。本投稿では季節ウオッチの“答え合わせ”第五弾として、2017年の夏に注目します。

まずは熱帯太平洋から見てみましょう。図1は、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生しているかどうかを判断する際によく使われる指標Nino3.4(熱帯太平洋東部で領域平均した海面水温がどのくらい平年値からずれているか(偏差と呼びます)を示す数値。単位は°C)の現在までの推移です。青色の線が観測、つまり実際の値です。2016年秋頃からの「ラニーニャ現象のような状態」は、その後は徐々に暖まり、2017年2月にはほぼ平年並みに戻りました(2016年9月から2017年3月までの熱帯太平洋の状態はむしろ「ラニーニャモドキ現象」が発生していると言ったほうがよいです。詳しくは、2017年春の予測の答え合わせをご参照ください)。その後も徐々に暖まり、2017年5-6月には0.5ºC 近くになっています。この時、そのままもう少し暖まっていけば、エルニーニョ現象の発生と呼んでいいかもしれない状況でした(季節ウオッチでは、Nino3.4が0.5ºC を超えるとエルニーニョ現象が発生しているとみなします)。しかし、7月になると徐々に冷えはじめ、8月にはほぼ0ºCになりました。結果、現在の熱帯太平洋は、エルニーニョともラニーニャとも言えないほぼ平年並みの状態だと言えます。2017年6月1日時点でのアプリケーションラボの予測シミュレーションの結果を赤色の線で示してあります。予測初期の6-7月では、赤色の線が青色の線がよく一致していますね。8月になると、青色の線が急に赤色の線の下に位置することとなり、予測は7月から8月にかけての”冷え”を捉えていないことがわかります。とは言え、この夏に熱帯太平洋では典型的なエルニーニョ・ラニーニャ現象は発生せず、平年並みの状態で推移していく様子はよく予測できていました。

図1: エルニーニョ/ラニーニャ現象の指標Nino3.4(単位は°C)の現在までの推移と2017年6月1日から開始した予測値の比較。青色の線が観測値、グレー色の線が僅かに異なる条件で計算した9つの予測値、赤色の線が9つの予測値の平均値。

次に熱帯インド洋を見てみましょう。インド洋ダイポールモード現象(この現象の詳細は、インド洋ダイポールモード現象とは?をご参照ください)の指標DMI(熱帯インド洋の海面水温偏差の東西差を示す数値。単位は°C)をみると(図2)、4月から正のイベントが発達し、その後、8月現在まで、持続していることが分かります。2017年6月1日時点でのアプリケーションラボの予測シミュレーションの結果(赤色の線)は、観測(青色の線)の値を2倍程度に過大評価していますが、正のイベントが持続する傾向は予測できていました。最先端の予測システムを持ってしても、太平洋のエルニーニョ現象ほどは、インド洋ダイポールモード現象の予測精度が高くないのが実情です。最近、アプリケーションラボでは、このインド洋ダイポールモード現象の予測を改善することに成功しました(詳しくはAPLコラム“暑い夏とインド洋ダイポールモード現象”をご参照ください)。

図2: 図1と同様だが、インド洋ダイポールモード現象の指標DMIについての図(単位は°C)

次に、2017年夏(2017年6月から8月の平均)における海表面水温の平年値からの差を見てみましょう。図3(左)は実際の状況(正確には米国NOAA/OISSTの観測データ)で、暖(寒)色が平年より水温が高(低)いことを示しています。図3(右)が2017年6月1日からの予測値です(つまり6/1時点から1-3ヶ月先の将来予測)。概ね予測に成功していると言えますが、よく見ると、インド洋東部の平年より低い水温が、予測では過大評価されています。これは前述した通り、正のインド洋ダイポールモード現象の予測の過大評価に依るものです。またフィリピン海の高い水温は、予測では過少評価されていますね。

図3: 2017年夏(2017年6月から8月の平均)における海表面水温の平年値からの差(単位はºC)。左図は実際の状況(正確には米国NOAAから配信される観測データ)で、右図が2017年6月1日からの予測値。

次に、2017年夏(2017年6月から8月の平均)における地上気温の平年値からの差を見てみましょう。図4(左)は実際の状況(正確には米国NCEP/NCARから配信される再解析データ)で、暖(寒)色が平年より気温が高(低)いことを示しています。図4(右)が2017年6月1日からの予測値です(つまり6/1時点から1-3ヶ月先の将来予測)。概ね予測に成功したと言えますが、例えば、欧州北部、アフリカ南東部、北米大陸東部などで予測が外れています。残念ながら、日本列島の中央部から北部にかけての不順な夏についても予測が外れています。

図4: 2017年夏(2017年6月から8月の平均)における地上気温の平年値からの差(単位はºC)。左図は実際の状況(正確には米国NCEP/NCARから配信される再解析データ)で、右図が2017年6月1日からの予測値。

最後に2017年夏(6-8月平均)における降水量の平年値からの差を見てみましょう。図5(左)は実際の状況(正確にはCMAPと呼ばれる観測データ)で、緑(茶)色が平年より多雨(少雨)であることを示しています。図5(右)が2017年6月1日からの予測値です。熱帯太平洋上や熱帯インド洋上の降水分布はよく似ています。特に、上述した正のインド洋ダイポールモード現象の影響でインド洋東部が少雨傾向になる特徴がよく予測できています。陸上では、インドネシアのジャワ島やスマトラ島の一部での乾燥傾向、豪州の乾燥傾向、ブラジル北部の乾燥傾向が予測できました。しかし、フィリピン海の少雨、日本を含む中緯度域の降水分布(例えば、カナダ南部、北米北部、欧州南部、南アフリカ、東アフリカの乾燥傾向)などについては、予測が外れていることが分かります。まだまだ努力が必要です。

図5: 2017年夏(2017年6月から8月の平均)における降水量の平年値からの差(単位はmm/day)。左図は実際の状況(正確にはCMAPと呼ばれる観測データ)で、右図が2017年6月1日からの予測値。

この「答え合わせ」も五回目となりました。予測の検証は、更なる予測精度の向上に向けた研究のために重要な作業です。観測データによる検証こそが予測科学を強く鍛えてくれます。このようなプロセスで発展してきたのが毎日の生活に欠かせない天気予報です。季節予測研究もこのような検証に基づいた研究開発を地道に展開していくことで、社会へのよりよいサービスを可能にしていくでしょう。世間を賑わす地球温暖化問題とその対策が重要であることは間違いありませんが、既に頻発している異常気象への差し迫った適応策として、今後も季節予測の精度向上研究への努力が必要です。

アプリケーションラボでは、このような予測の検証を基盤に、予測外れの理由を解明し、予測を改善する研究を続けています。例えば、予測を外してしまうメカニズムの理解や、予測シミュレーション技術の発展(気候モデルや初期値の取り扱いなど)、あるいは予測が潜在的にどこまで可能なのかの理論的解明などを進めています。その一例として、最近、海洋の初期値作成プロセスを高度化することで、インド洋ダイポールモード現象の予測を改善することに成功しました(詳しくはAPLコラム“暑い夏とインド洋ダイポールモード現象”をご参照ください)。

さらに、これらの物理変数の予測情報を、作物の豊凶予測や感染症流行予測など、より人々が利活用しやすい情報に変換する研究も進めています。その成果の一端を以下のサイトで紹介していますので、興味がある方は覗いてみてください。

オーストラリアの冬小麦収量を左右するのはインド洋のダイポールモード現象

南アフリカのマラリア発生率に及ぼす気候変動の影響~エルニーニョ/ラニーニャ現象・インド洋亜熱帯ダイポール現象とマラリア発生率との関係性~

なお、季節予測の最新情報(2017年9/1からの予測)はこちらをご覧ください。

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