春も終わり、梅雨の季節になりました。食べ物の管理などはくれぐれもお気をつけください。本投稿では季節ウオッチの“答え合わせ”第四弾として、2017年の春に注目します。
まずは熱帯太平洋から見てみましょう。図1は、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生しているかどうかを判断する際によく使われる指標Nino3.4(熱帯太平洋東部で領域平均した海面水温がどのくらい平年値からずれているか(偏差と呼びます)を示す数値。単位は°C)の現在までの推移です。青色の線が観測、つまり実際の値です。ここでは、Nino3.4が0.5ºC を超えるとエルニーニョ現象が発生しているとみなします。2015年末から発生していた非常に強いエルニーニョ現象は、2016年5月には終息し、7-9月にかけてエルニーニョ現象とは逆の現象である「ラニーニャ現象のような状態」が弱いながらも発生しました。10月に最も冷え、その後は徐々に暖まり、2017年2月にはほぼ平年並みに戻りました。その後もグングン暖まり、2017年5月には0.5ºC 近くになっています。今後もう少し暖まれば、エルニーニョ現象の発生と呼んでいいかもしれません。2017年2月1日時点でのラボの予測シミュレーションの結果を赤色の線で示してあります。赤色の線が青色の線の上に位置していますが、大まかな傾向はよく一致していますね。予測は2月から3月にかけての暖まりを若干過大評価したものの、熱帯太平洋が平年並みの状態から徐々にエルニーニョ傾向に変動していく様子をよく予測できていました。
上記で「ラニーニャ現象のような状態」 と曖昧な表現をしたのには訳があります。指標Nino3.4だけを見ていると気付かないのですが、エルニーニョモドキ・ラニーニャモドキ現象の指標であるEMI(熱帯太平洋中央部の海面水温偏差が東部と西部の海面水温偏差と比べてどの程度温まっているかを示す数値。単位は°C)をみると(図2)、2016年9月から2017年3月までの熱帯太平洋の状態はむしろ「ラニーニャモドキ現象」が発生していると言ったほうがよい状態であることが確認できます。(エルニーニョモドキ/ラニーニャモドキ現象とは?)。4月にはラニーニャモドキ現象は終息しました。2017年2月1日時点でのアプリケーションラボの予測シミュレーション (赤色の線)は、ラニーニャモドキ現象の終息を観測(青色の線)に比べて1-2ヶ月早く予測していましたが、その傾向を概ね予測できたと言えます。
このようなモドキ現象の予測精度の向上に資する研究は、環境研究総合推進費(2-1405)「最近頻発し始めた新しい自然気候変動現象の予測とその社会応用」(研究代表者:山形 俊男)で実施しました。モドキ現象は世界の気候研究者の注目を集めています。その成果については近々別の記事でまとめる予定です。ご期待下さい。
南インド洋では、非常に勢力の強い亜熱帯ダイポールモード現象の正イベントが発生していました。この現象とアフリカ南部の降水量の増加とは相関があることが知られています(インド洋亜熱帯ダイポールモード現象とは?)。最近では、アフリカ南部のマラリア発生を早期に警戒する際に、エルニーニョ現象と合わせて、インド洋亜熱帯ダイポールモード現象の発生も監視する必要が指摘されました(プレスリリース)。インド洋亜熱帯ダイポールモード現象の指標IOSDMI(南インド洋亜熱帯の海面水温偏差の東西差を示す数値。単位は°C)をみると(図3)、12月から1月にかけて正のイベントが急速に発達し、2月になって弱まったものの、3-4月でも以前強い勢力を保っていることが分かります。5月には急激に衰退しました。2017年2月1日時点でのアプリケーションラボの予測シミュレーションの結果(赤色の線)は、観測(青色の線)の傾向を予測しておらず、正のイベントが、3-4月でも強い勢力を保つことを予測できませんでした。まだまだ努力が必要です。
アプリケーションラボでは、亜熱帯ダイポールモード現象とアフリカ南部の気候との関係を解明し、その予測精度を向上させる研究を進めています。 (SATREPSプロジェクト” 南部アフリカにおける気候予測モデルをもとにした感染症流行の早期警戒システムの構築” (https://www.jamstec.go.jp/apl/i-dews/)。
最後に、2017年春(2017年3月から5月の平均)における地上気温の平年値からの差を見てみましょう。下図左は実際の状況(正確には米国NCEP/NCARから配信される再解析データ)で、暖(寒)色が平年より気温が高(低)いことを示しています。右図が2017年2月1日からの予測値です(つまり2/1時点から2-4ヶ月先の将来予測)。概ね予測に成功したと言えますが、例えば、豪州西部、ブラジル北部、ユーラシア大陸西部などの予測は外れていますね。
この「答え合わせ」も四回目となりました。予測の検証は、更なる予測精度の向上に向けた研究のために重要な作業です。観測データによる検証こそが予測科学を強く鍛えてくれます。このようなプロセスで発展してきたのが毎日の生活に欠かせない天気予報です。季節予測研究もこのような検証に基づいた研究開発を地道に展開していくことで、社会へのよりよいサービスを可能にしていくでしょう。
アプリケーションラボでは、このような予測の検証を基盤に、予測外れの理由を解明し、予測を改善する研究を続けています。例えば、予測を外してしまうメカニズムの理解や、予測シミュレーション技術の発展(気候モデルや初期値の取り扱いなど)、あるいは予測が潜在的にどこまで可能なのかの理論的解明などを進めています。
さらに、これらの物理変数の予測情報を、作物の豊凶予測や感染症流行予測など、より人々が利活用しやすい情報に変換する研究も進めています。その成果の一端を以下のサイトで紹介していますので、興味がある方は覗いてみてください。
–オーストラリアの冬小麦収量を左右するのはインド洋のダイポールモード現象
–南アフリカのマラリア発生率に及ぼす気候変動の影響~エルニーニョ/ラニーニャ現象・インド洋亜熱帯ダイポール現象とマラリア発生率との関係性~
なお、季節予測の最新情報(2017年5/1からの予測)はこちら(LINK)をご覧ください。