11月21日から12月19日の予測を検証します

毎月月末は過去1ヶ月の予測を検証する予定です。今回は11月27日号の11月21日から12月19日までの予測を検証します。

11月27日号時点での予測のシナリオは図1のようなものでした。当時、黒潮は八丈島の北を流れる接岸流路で、黒潮は三宅島付近を流れていました(図1c)。予測では、黒潮が八丈島の南を流れる離岸流路が発達すると予測していました(図1b)。その時、黒潮はS字カーブ(図1bの黒線)を描いて、伊豆諸島沿いを北上すると予測していました。その後、S字カーブが解消すると予測しました(図1c)。

Fig1

図1: JCOPE2予測のシナリオ説明図。

 

過去の解説で(※1)、伊豆諸島付近の黒潮流路を判断するには、八丈島・三宅島での海面高度(潮位)を見れば良いことを説明しました。それは、流れの強い黒潮をはさんで、本州に近い方は海面高度が低い、逆の沖側では海面高度が高いという関係があるからです(図1参照)。このため、黒潮が本州に近づいて島の北を流れれば、島周辺の海面高度は高くなります。逆に、黒潮が島の南を流れる離岸流路が発達すれば、島周辺の海面高度は低くなります。

11月27日号時点での、八丈島と三宅島の海面高度の予測は図2の赤線です(11月27日号検証の図4を再掲)。当時は接岸流路だったので予測のスタート時点ではどちらの島でも高い海面高度でした(図1a参照)。離岸流路が発達するという予測のため、まず八丈島の海面高度が低下するという予測でした(図1b参照)。一方で、S字型カーブのため、黒潮は三宅島付近に残り、三宅島の海面高度はしばらく高めで残ると予測されました(同じく図1b参照)。その後、S字型カーブが解消されるにつれて、三宅島の海面高度も低下すると予測しました(図1c参照)。

151225_Check2

図2: 11月27日号検証の図4を再掲。JCOPE2による海面高度の予測の10月1日以降の時系列。上段が八丈島周辺。下段が三宅島周辺。黒★は11月21日までの観測値を取り入れた推測値。赤線が11月21日からの予測。

 

観測を確認してみましょう。図3は、過去の解説でも使用した、東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」から、八丈島と三宅島での海面高度(潮位)の今年の変化をグラフ作成したものです。図2で予測したように、観測でも、12月に入ってまず八丈島の潮位が低下し始めました。三宅島の潮位はすぐには低下せず、S字カーブになっていることを示唆していました。その後、三宅島の潮位も低下を始め、S字カーブが解消されつつあることを示唆しています。図2の予測は若干時期が早過ぎるものの、観測の動きを良く予測出来ていました。

離岸流路が発達するときに、いったんS字型カーブが発達するという現象は、今年の8月の離岸流路発達の時も見られました(8月14日号8月28日号参照)。

151225_Check3

図3: 東京大学大気海洋研究所「潮位データを用いた黒潮モニタリング」の「各潮位データの図示」から、「期間: 2015年までの 1年間」で、「八丈島」(上段)「三宅島」(下段)でグラフ作成。単位はセンチメートル。矢印と字で注釈を追記した。図3が1地点の観測値であるのに対し、図2の値はモデルの分解能の約9km四方の平均であり、0の値の基準点も違うので、図3と図2の値は完全には一致しません。上昇と下降の変化の傾向を主に見て下さい。

 

kurokatsu

 

図4上段は、11月21日から予測した12月19日の黒潮の状態です。上で述べてきたように、黒潮が八丈島の大きく南を流れる離岸流路が発達すると予測していました。観測値を取り入れて実際に近いとJCOPEが診断した解析値(図4下段)と比べると、予測は離岸の発達が大きすぎたように見えます。一方で、図3の観測では、八丈島の潮位が離岸流路が発達したと判断できる程度まで低下していることから(※2)、図4下段の診断値は離岸を過小評価しているようです。前号の「今年の5大ニュース」の2で述べたように、今年は離岸流路が優勢で終わりそうです。

図5は11月21日から12月19日までの予測値(上段)と診断(下段)の比較をアニメーションにしたものです。12月中は、九州東岸から紀伊半島までは接岸・離岸の変動が少なく、黒潮は岸近くを流れるという予測は、実際とよくあっていたようです。

Fig4

図4: [上段]11月21日から予測した12月19日の予測値。[下段]観測値を取り入れて推測した12月19日の診断値。矢印は海面近くの流れ(メートル毎秒)、色は海面高度(メートル)。緑★は八丈島の位置。アルファベットg,h,..は接岸・離岸傾向の波(今週号の現状・予測参照)。

 


図5: 2015年11月21日から12月19日までの予測(上段)と診断(下段)の比較のアニメーション。クリックして操作して下さい。途中で停止することもできます。

 


※1
1月の離岸流路発達と2月末の一時的な変化に関しては3月20日号
5月末の一時的な変化に関しては6月12日号
6-7月の接岸流路への変化に関しては7月10日号
8月の離岸流路への変化に関しては8月14日号8月28日号
11月の接岸流路への変化に関しては11月13日号
で解説しました。

※2
海上保安庁は、12月21日頃に黒潮が八丈島の南を流れる流路になったと判断しています。
「本州南方の黒潮流路について」(2015.12.24)