2月6日号解説「黒潮の位置はどのように変化するの?」で解説したように、黒潮の流れ方には「黒潮大蛇行」(別名A型)、「非大蛇行離岸流路」(別名C型)、「非大蛇行接岸流路」(別名N型)のおもだった3つのパターンがあります(※1)。黒潮親潮ウォッチを今年1月30日に開始して以来、小蛇行や渦による変動はあったものの、八丈島の南を流れる離岸流路が続いてきました。先週号の予測のとおり、ついに今週になって黒潮が八丈島の北の三宅島付近を流れる接岸流路に変わりました。海上保安庁(※2)も2015年7月6日頃、八丈島の北側を通るN型(接岸流路)に推移したと判断しています。
このことを観測から確かめてみましょう。3月20日号の解説で、黒潮が八丈島の北を流れているか南を流れているかは、八丈島での海面高度(潮位)を見れば良いことを説明しました。それは、流れの強い黒潮をはさんで、本州に近い方は海面高度が低い、逆の沖側では海面高度が高いという関係があるからです(図1)。このため、黒潮が本州に近づいて八丈島の北を流れれば、八丈島周辺の海面高度は高くなります。逆に、黒潮が八丈島の南を流れる離岸流路が発達すれば、八丈島周辺の海面高度は低くなります。
では、観測を見てみましょう。図2上段は、3月20日号に引き続き、東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」から、八丈島での海面高度(潮位)の今年の変化をグラフ作成したものです。この図によると、八丈島の海面高度は、6月中頃から現在にかけて、離岸流路が始まる前の1月初めの水準まで上昇していることがわかります。1月に八丈島の南を流れ始めて離岸流路になった黒潮が、7月に八丈島の北を流れる接岸流路に戻ったことを意味します。
同様に、三宅島の海面高度(潮位)を見ることで、接岸流路になり三宅島に黒潮が近づいているかどうかがわかります。図2下段が三宅島の潮位の観測値です。1月は離岸流路で黒潮の位置が南になったことで潮位が下がりましたが、7月に接岸流路になり、黒潮が三宅島に近づいたことで潮位が急上昇しています。
では、今後はどう変化するでしょうか?図3は図2に対応する八丈島付近の海面高度をJCOPEのデータで見たものです。今までの変化を観測値も取り込んで JCOPEで分析した値が黒線で、図2上段と同様の変化を良く再現しています(※3)。赤線がこれからの2ヶ月の予測値です。7月末から再び八丈島の海面高度は下降、すなわち黒潮離岸流路が再び発達すると予測しています。その様子は今回の予測で確認してください。
※1 なぜ八丈島の北を流れる流路と南を流れる流路があるかについては2015年4月10日解説「なぜ黒潮には異なる流路が存在するの?」を参照。
※2 海上保安庁海洋情報部「本州南方の黒潮流路について」(2015年7月7日)
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/topics/20150707/kuro_hjn_20150707.html
この記事の中で海上保安庁が八丈島と三宅島の潮位を見せている理由が、上の解説から理解出来るでしょう。
※3 図2が1地点の観測値であるのに対し、図3の値はモデルの分解能の約9km四方の平均であり、0の値の基準点も違うので、図2と図3の値は完全には一致しません。上昇と下降の変化の傾向を主に見て下さい。