黒潮の変動がウナギに影響を与える?

[2018/1/28]追記
続編「黒潮の変動がウナギに影響を与える?(2)」があります。
この研究をおこなったChang博士は、現在は私たちアプリケーションラボに所属しています(コラム「外国人研究者としてJAMSTECで働くということ」)。

今回は日本の食卓を彩るウナギの話です。ニホンウナギの産卵場所は、フィリピン沖の北赤道海流が流れる付近だと推定されています(図1)。卵から生まれた後、北赤道海流から黒潮に乗りながら、しだいに成長して日本沿岸に達します。その後、湖沼河川で5~10年生活し、卵を生む時に熱帯の産卵場所に戻っていくとされています。ウナギはその一生で海流をうまく利用していると言えます(※1)。このため、海流の変化はウナギの生態に大きな影響を与える可能性があります。これまでの研究でも、エルニーニョによる影響が指摘されています(※2)。ここでは、我々のJCOPEの海流データを使った新しい研究を紹介します(※3)。

Fig1

図1: ウナギの産卵場所と海流。

 

国立台湾師範大学のChang博士らは(※4)、フィリピン–台湾振動(Philippines–Taiwan Oscillation, 以後PTOと略す)という現象に注目しました(図2)。フィリピン沖の風が反時計回りの風が強い年には、台湾沖の風が連動して時計回りの風が強くなる傾向があります(図2赤矢印)。この時をPTOが正と呼び、日本南岸の黒潮が強まるなどの変化が起こることをChang博士らは発見しました(※5)。逆に、フィリピン沖の時計回りの風が強まる時は、台湾沖の風の反時計回りの風が強まり(図2青矢印)、PTOは負となり、日本南岸の黒潮は弱まります。

Fig2

図2: フィリピン–台湾振動(Philippines–Taiwan Oscillation, PTO)。赤がPTO正の時の風の向き。青がPTO負の時の風の向き。

 

このような変動がウナギの回遊に与える影響を調べるため、Chang博士らは、JCOPEの流速にウナギに見立てた粒子を流し、PTOが顕著に正の年(1996、2002、2003年)と、PTOが顕著に負の年(1998、 2000、2007年)の違いを調べました。この粒子にはウナギの遊泳能力も考慮されています。図3がその結果です。

図3の左側はウナギの通過頻度です。数が多いほど、ウナギがその場所を通過する確率が高いことをしめしています。ウナギが産卵場所から北赤道海流・黒潮にのって本州南岸まで達していることが表現されています。図3の右側がウナギの日齢(生まれてからの日数)です。日本の南岸には約7ヶ月で達するという結果になっており、観測による推定と良くあっています。図3の上段がPTO正の年の結果で、下段がPTO負の年の結果です。PTOが正か負によって結果が違うことがわかります。

Fig3

図3: JCOPE海流に、ウナギを流した結果。図の左側はウナギの通過頻度。図の右側がウナギの日齢。上段がPTO正の時。下段がPTO負の時。Chang et al. (2015)の図9より引用。

 

PTOが正と負の時の違いをまとめたのが図4です。PTOが正の時(図4左)、北赤道海流はウナギの産卵場所の位置を通り(a)、黒潮に取り込まれやすくなり、亜熱帯の渦に取り残されるウナギは少なくなります(c)。一方、PTOが負の時は(図4右)、北赤道海流の位置がウナギの産卵場所よりも南に下がり(a)、黒潮に取り込まれにくくなり(b)、亜熱帯の渦に取り残されるウナギが多くなります(c)。PTOが正の時のほうが負の時よりフィリピンと台湾の間の黒潮は弱い傾向にあり、南シナ海に入るウナギは増えます(d)。台湾より北ではPTOが正の時に黒潮が強いので、本州南岸までたどり着くウナギが増えます(f)。PTOが負の時は黒潮が弱く、東シナ海に入るウナギが多めになります(e)。PTOが正の時は黒潮が本州沿岸近くを流れ、PTOが負の時は離岸する傾向があるため、PTOが正の年の方が沿岸近くを回遊する可能性が高くなります。

以上が我々のJCOPEの海流データからChang博士らが出した結論です。これが現実に起こっているかは、これから検証されていくでしょう。この研究は、我々の持つ高分解能かつ長期間の海流データが生態系の研究にも貢献するという好例です。

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図4: PTOによるウナギの移動の違いのまとめ。左図がPTO正の時。右図がPTO負の時。Chang et al. (2015)の図15より引用。(a)-(f)の文字は筆者が追加。

 

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※1
参考資料: NHK「ウナギの一生」
http://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005401411_00000

※2
参考資料: 東京大学 大気海洋研究所 生物海洋学分野「ニホンウナギの産卵回遊」
http://mbe.aori.u-tokyo.ac.jp/research/411.html#unagi

※3
Chang, Sheng, Ohashi, Béguer-Pon, and Miyazawa 2015: Impacts of Interannual Ocean Circulation Variability on Japanese Eel Larval Migration in the Western North Pacific Ocean. PloS one, 10, e0144423, doi:10.1371/journal.pone.0144423. (英語)

※4
海洋研究開発機構アプリケーションラボ海洋・大気環境変動予測応用グループ(海流予測モデルJCOPEを開発しているグループ)の宮澤泰正グループリーダーも共著者として研究に参加しています。

※5
Chang and Oey 2012: The Philippines–Taiwan Oscillation: Monsoonlike Interannual Oscillation of the Subtropical–Tropical Western North Pacific Wind System and Its Impact on the Ocean. Journal of Climate, 25, 1597-1618, doi:10.1175/jcli-d-11-00158.1. (英語)


美山 透

海の変化は、漁業海運エネルギー天候など様々なことに影響します。海洋予測がもっと身近なものになるように、頭をしぼって書いています。