「ちきゅう」のための海流予測 (9) 「ちきゅう」掘削地点に戻る

機器を下ろしながらゆっくり掘削地点に向かっていた「ちきゅう」(連載第8回)は4月14-15日(※1) 掘削地点に戻り、今航海で最も難しい作業である長期孔内観測機器の設置を無事完了しました。今回は、その時の海流の様子を見てみましょう。

図1に、「ちきゅう」、支援船「あかつき」、警戒船「平成丸」(後述)が掘削地点に近づいた時(※2)に観測した流速の変化を1時間毎にまとめました。青丸が「ちきゅう」、緑丸が「あかつき」、黒丸が「平成丸」の観測値です。4月12日頃までは3ノットを切る小さめの流速でしたが、4月13日から3ノット以上の大きめの流速が見られるようになっています。

連載第8回で紹介した予測では、13日以前の小さい流速がうまくとらえられていませんでしたが、4月14日頃に流速がピークになるという予測に合うように、観測で流速が上がってきました。図1には連載第8回のアンサンブル予測KFSJの20本の平均を赤線で、予測の最大・最小の幅を青塗りで、連載第6回で最も早く流速が急激に低下するとした予測を黒点線でしめしています。

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図1: 掘削地点での観測と予測。青点は「ちきゅう」が掘削地点で観測した流速を1時間に平均した値。緑点・黒点はは同じく「あかつき」「平成丸」による観測。赤線は、連載第8回の20本の予測の平均(アンサンブル平均)。青く塗った範囲は、アンサンブルメンバーの最大・最小がおさまる範囲。黒点線は、連載第6回でもっとも早く流速が急激に低下するとした予測。

 

図1の4月14日4時(図1の時刻A, 日本時間14日13時)から、12時(図1の時刻B, 日本時間21時)にかけて、「ちきゅう」が掘削地点で観測した流速が大きくなっています。この時間帯は晴れ間が広がり、気象衛星「ひまわり」(※3)が観測した海面水温で黒潮の様子が見えていました(図2)。

図2(a)と図2(b)は図1の時刻Aと時刻Bの時の海面水温です。図2(a)(時刻A)では掘削地点()が黒潮(温度の高い帯)からややはずれていましたが、図2(b)(時刻B)では掘削地点が黒潮にとりこまれています。この時期に掘削地点が黒潮に入ったことは、掘削地点での温度が急上昇したことでもわかります(図3)。この黒潮の動きに伴い、図1のように流速が上昇したと考えられます。

図1の時刻Bの後に、流速が急激に落ちています。この時期、再び曇りがちになり、あまり状況がわかりません。図2(c)の少し晴れ間の広がった、図1の時刻C(15日5時、日本時間15日14時)の「ひまわり」画像で見ると、掘削地点がやや黒潮から外れているようにも見えますし、全体的に温度が下がっているので気象要素も影響しているかもしれません。時刻Cに海面水温が下がっているのは図3でも見えます。その後、掘削地点での流速は再び上昇しており、再び黒潮が近づいたと推測されます(下の参考図4も参照)。

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図2: 気象衛星「ひまわり」による1時間平均海面水温分布(°C)。赤星は掘削地点。(a)14日4時。(b)14日12時。(c)15日5時。それぞれ図1の時刻A,B,Cに対応する。

 

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図3: 気象衛星「ひまわり」による1時間平均海面水温(°C)の時系列。

 

観測船では海面下の深い所の流速も観測しています。図4は「ちきゅう」で観測された、図1の時刻A,B,Cに対応する深さ方向の流速の大きさと向きの分布です。

時刻A・B(図4(a)・(b))では流れはだいたい南東向きになっています。これは図2(a)・(b)の黒潮が水温分から見て(温度の高い帯)が南東向きに流れていることにも対応しています。流速の大きかった時刻B(図4(b))では、深さ200メートルでも東西流速が1ノットを超えています。

一方、時刻C(図4(c)では、海面近くでは流れがほぼ東向きですが、その下では急速に向きを変えて南向きになっており、深いところでは西向きの流速(青塗り)も見えます。

このように、掘削地点での流速は、時刻と深さによって複雑に変化しており、「ちきゅう」はこの状況の中で、針に糸を通すような難しい作業を達成しています。

図4

図4: 「ちきゅう」で観測された流れの深さ方向の分布。矢印は、方向が流れの向き(上向きが北、右向きが東)、長さが流れの強さ。折れ線グラフは東西向きの強さ(ノット)で、赤で塗っているのが東向き、青で塗っているのが西向き。(a)14日4時。(b)14日12時。(c)15日5時。それぞれ図1の時刻A,B,Cに対応する。

 

※1
本稿では、予測モデルで使用している時刻にあわせて世界標準時を使用します。世界標準時と日本標準時は9時間の時差があるので、本稿での4月14日は、日本標準時の4月14日午前9時から4月15日午前9時になります。

※2
予測モデルが約3kmの分解能をもつことを考慮して、掘削地点から1.5km以内に近づいた時の観測を全て使用しています。この範囲を多少変えても、結果はほとんど変わりません。

※3
「ひまわり8号」の海面水温については、2015/10/9号・気象衛星「ひまわり8号」で見た黒潮を参照。
過去の「ひまわり8号」の水温データを使った解説一覧はこちら


参考:1日毎の船の航路と海面水温

以下の図の左側は、4月12日から15日の1日毎の「ちきゅう」・支援船「あかつき」・警戒船「平成丸」の航路と気象衛星「ひまわり8号」の海面水温分布(色)です。右側は観測された流速と緯度の関係です。

警戒船「平成丸」は「ちきゅう」の上流に位置し、急な流れの変化を「ちきゅう」に知らせる役割を担っています。

図右側の流速と緯度の関係を見ると、4月12,13日には、流速の最大が掘削地点緯度の南にあり、黒潮の中心が掘削地点の南にあることを示唆しています。14日以降は、掘削地点緯度で流速の最大が見られるようになり、黒潮の中心が近づいていることがわかります。

4月11日以前の図は、連載第8回にあります。「平成丸」のデータも追記しました。

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参考図1: 左は「ちきゅう」(青線)「あかつき」(緑線)「平成丸」(黒線)の航路。背景の色は「ひまわり8号」による海面水温。空白は雲のため「ひまわり8号」が観測できない地点。赤星()が掘削地点。 右は船の緯度位置と流速の関係。右左図とも点線が掘削地点の緯度。 ●が1日の最初の地点で▲が一日の最終地点。4月12日。「ちきゅう」と「平成丸」はゆっくりと掘削地点に近づいている。「あかつき」はエンジントラブルのため、いったん新宮港に入港の後、復帰して掘削地点周辺を観測。

 

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参考図2: 同じく4月13日。「ちきゅう」が掘削地点に到着。

 

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参考図3: 同じく4月14日。「ちきゅう」は掘削地点で観測。

 

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参考図4: 同じく4月15日。「ちきゅう」は作業を終え、次の準備のために、黒潮の外の低流速域に移動。

 


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「ちきゅう」のための海流予測の連載記事一覧はこちら
この連載では、流れの速さの単位として船舶でよく使われるノット(2ノットは約1メートル毎秒)を使用します。
「ちきゅう」のための海流予測KFSJの特別サイトはhttp://www.jamstec.go.jp/jcope/kfsj/です。KFSJついては連載第2回で紹介しました。
「ちきゅう」の観測の様子に関しては「ちきゅう」公式twitterを参照