海洋熱波の記事は5月以降中断していましたが、今月からリニューアルして再開します。 直近のデータを新しい海洋モデル(JCOPE2MからJCOPE3M)に切り替えました。 また、今回から予測も開始します。 |
図の説明
この記事で使う図の説明です。
図の左列が水温(等値線, ℃)と温度の平年との差(色, ℃)の推定値です[1]。赤っぽい色が平年より水温高い海域、青っぽい色が平年より低い海域になります。
上段が海面近くの水深1mで、下段が海面下の水深100mの図です。水深1mでは、天気と海流の影響によって水温が変化します。水深100mでは、主に海流の影響によって水温が変化します。もし水深1mでも100mでも海面と同じ変化が見られれば、天気よりも海流による影響が大きい可能性が高いです。
平年は1993-2020年平均。右列が海洋熱波指数。 上段が水深1m。下段が水深100m。 今年のデータはJCOPE3M、1993-2020年平均値はJCOPE2M再解析のデータを使用した。 左列上段には台風の経路も加えた。台風の経路はデジタル台風( https://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/ )から入手した。
右列は、海洋熱波・海洋寒波指数です[2]。海洋熱波とは、数日以上極端に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は近年に大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。海洋寒波は逆に極端に海水温が低下する現象です。
海洋熱波が発生している明るい色の海域は、水温が平年より高いだけでなく、極端に高いことを意味しています。海洋寒波はその逆です。
海洋熱波・海洋寒波指数も水深1m(上段)と100m(下段)の図があります。
台風は水温(特に海面近くの水温)に与える影響が大きいので、その時々の台風の経路も図によっては左列上段の図に加えています。台風のデータはデジタル台風から入手しました。
夏の振り返り
7月
図1は7月5日の状態です。
7月の始めは、6月の天候が記録的高温だったために、海面近くの水温は日本周辺全てで平年より高い状態でした(左列上段)。気象庁は、6月の日本の月平均気温が統計を開始した1898年以降の6月として最も高く、日本近海の6月の平均海面水温も平年差が+1.2℃(速報値)となり、統計を開始した1982年以降で2024年と並んで6月として1位タイの記録だったことを発表しています。
海面の海洋熱波も、日本周辺の多くの海域でレベル2以上となっていました(右列上段)。
例外は日本の南東沖で、台風3号の影響で水温が平年よりも低くなっていました(左列上段)。海洋寒波も発生していました(右列上段)。
海面下を見ると、海流の影響が大きかったのは、黒潮続流域、暖水渦による北海道南東、日本海で、平年よりも水温が高くなっていました(左列上段)。海洋熱波も発生しており、特に対馬暖流の影響が大きい本州日本海側、日本海北部でレベル2以上の海洋熱波となっていました。
4月に黒潮大蛇行が終息しましたが、その余波による冷水渦や蛇行により、日本南岸では平年よりかなり冷たい海域があり(左列下段)、海洋寒波にもなっていました(右列下段)。黒潮大蛇行終息の余波については「2025年の黒潮のこれまでをふりかえる」で解説しています。

図2は7月31日の図です。
7月末になると日本南方の海面水温は、天候不順と台風の影響のため、平年よりも低くなりました。レベル2以上の海洋寒波も発生していました。
それでも北日本を中心に暑い日が続き、海面水温は平年より高く(左列上段)、海洋熱波が続きました(右列上段)。気象庁は、7月の日本の月平均気温が統計開始(1898年)以降の7月として最も高かったこと、日本近海の月平均海面水温が7月は平年差+1.7℃(速報値)で統計を開始した1982年以降の7月として最も高かったこと、を発表しています。

8月
図3は8月31日の図です。
8月になっても暑い日は続き(気象庁は令和7年夏(6~8月)の平均気温偏差はが昨年・一昨年の記録を大幅に上回り、3年連続で最も高い記録となったことを発表しています)、海面では日本多くの地点で平年より水温が高く(左列上段)、海洋熱波が発生していました(右列上段)。
例外として、オホーツク海と千島周辺では水温が平年よりも低く(右列上段)、海洋寒波が発生していました(左列上段)。
海面下では海流の影響も大きく(左列下段)、東シナ海の黒潮、黒潮続流、北海道南東、日本海で水温が平年より高く、黒潮続流を除いた海域では海洋熱波となっていました(右列下段)。
日本南岸では依然として黒潮大蛇行の余波が続いていました。
興味深い特徴として、黒潮大蛇行の余波が冷水渦や蛇行による平年より冷たい水温だけでなく、東海沖では暖水渦も作っています。この暖水は海面でも見られ(左列上段、赤矢印)、海面での東海沖の海洋熱波にもなっています(右列上段)。この特徴は9月に続きます。

9月
図4は9月5日の図です。
8月に引き続いて、東海沖で黒潮大蛇行の余波で水温が高く(左列上段、赤線)、海面で海洋熱波になっていました(右列上段)。台風15号はこの近くを通過しました(左列上段)。この時、静岡県では強い竜巻が発生しました。この竜巻に、東海沖の海洋熱波が影響を及ぼしたかは、検討する価値があるでしょう。

図5は9月29日の図です。あいかわらず、日本の周辺は水温が高く、海洋熱波が発生しています。特に東シナ海の海面で目立ちます(右列上段、左列上段)。
例外としてオホーツク海、千島周辺、親潮域で水温が冷たくなっています。親潮は強いですが、暖水渦の影響で南下は限定的です(親潮ウォッチ2025/9参照)。
日本東方では台風19号の影響で海水面温度が低く(左列上段)、海洋寒波が発生しています(右列上段)。

10月現状
図6と図7がは10月8日と10月12日の図です。
あいかわらず水温が高く、海洋熱波も多くの海域で発生しています。特に東シナ海ではレベル3以上の海洋熱波がレベル3以上になっています(右列上段)。
海面下の図(下段)から、高い水温と海洋熱波には、黒潮・北海道南の暖水渦・日本海の影響がうかがえます。
日本南岸では、おそらく最後の黒潮大蛇行の余波である蛇行による冷水が見られます(左列下段)。
この状況で、台風22号(図6)、台風23号(図7)が伊豆諸島を通過しました。海面下まで水温が高い黒潮の上付近を通ったため、水温はあまり下がっていません。このことは台風の勢力の発達と維持に貢献したと考えられます。


予測
図8と図9は11月12日と12月12日の予測です。
高い海水温と海洋熱波は多くの海域で継続します。東シナ海では海水温が低下する予測です。
黒潮大蛇行の余波は12月には消えると予測しています(図9)。


アニメーション
図10は7月5日から12月12日までのアニメーションです。10月13日から12月12日までは予測になります。
図10: 7月5日から12月12日までのアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。