進む海洋酸性化 (および研究員募集)

進む海洋酸性化

人類が排出した二酸化炭素のうち、一部が陸上の植物や海洋に吸収され、残りが大気に蓄積し、温室効果により、地球温暖化の原因となります(図1)。海洋には、人為起源の二酸化炭素排出量の約4分の1が吸収されていると言われており(※1)、おかげで大気中の二酸化炭素の増加がある程度抑えられています(※2)。

一方で、海に吸収された二酸化炭素は、酸性の性質を持ちます(※3)。海水は弱アルカリ性の水ですが、二酸化炭素が溶けることで、少し酸性に近づきます。海水が完全に酸性になってしまうわけではありませんが、アルカリ性が弱まり、酸性に近づくので、海洋酸性化と呼ばれています(図1)。

海洋酸性化が進むと、海洋生態系にいろいろな悪影響があると心配されています(※4)。例えば、サンゴや貝などの生きものが骨格や殻を作りにくくなるとされています。海洋酸性化は、二酸化炭素の地球環境への悪影響の別の側面ということで、地球温暖化の「邪悪な双子」(”evil twin”)とも言われています。

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図1: 海洋酸性化の概念図。

 

図2の赤線は、気象庁によって毎年冬に観測された日本付近(東経137度北緯34度、図中の地図の)の酸性度pH(水素イオン濃度指数、値が小さいほど酸性)の時間変化です(※5)。年によって上下がありますが、長期的に酸性化が進んでいることがわかります(黒点線が長期的傾向で、pHが10年あたり約0.02低下するペース)。

海洋酸性化とその影響は、どこでも一様に進むわけではありません。2015/5/8号「続・海流と生態系の関係は?」でみたように、沿岸の生態系は海流と地形の影響を受けて場所によって複雑な変化をします。沿岸での酸性化の影響を評価するには、この複雑な条件を考慮することが必要です。

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図2: 気象庁が観測した東経137度北緯34度(図中地図の地点)の冬季の表面海水中の水素イオン濃度指数(pH)の時間変化(赤線)。黒点線は長期傾向。横軸は西暦。


研究員募集

そこで、私たちのグループは、笹川平和財団からの助成を受け、黒潮親潮ウォッチで紹介している海流予測モデルJCOPEに生態系・炭素循環モデルを組み込み、海洋環境変動の現況予測モデルを開発する予定です。一緒に研究を進めてくれる研究員を募集しています。ふるってご応募ください。

募集職種 特任研究員 1名
募集内容 海洋における温暖化や酸性化の影響に係る環境監視についての情報基盤に資するため、海洋環境データの解析を行い、酸性化に係る海洋環境変動の現況予測モデルを開発する。
公募締切 平成28年7月14日(木)

 

参考資料


注釈

※1 参考: 「海洋の炭素循環」(気象庁)

※2 温暖化が進むと海水温が上昇し、二酸化炭素が溶けにくくなり、地球温暖化を防ぐのが難しくなります。筆者(美山)も論文を書きました。
 Miyama, T., and M. Kawamiya, 2009: Estimating allowable carbon emission for CO2 concentration stabilization using a GCM-based Earth system model. Geophys. Res. Lett., doi:10.1029/2009gl039678 (英語)
二酸化炭素が溶けにくくなることは、海洋酸性化にとっては良い話に見えますが、水温が高いと酸性化しやすくなる効果と相殺されるため、変わらず酸性化が生じます。
参考:IPCC 第5次評価報告書(気象庁訳)・よくある質問と回答FAQ 3.3 2「人為起源の海洋酸性化は気候変動とどう関係するのか?」(pdf)

※3 参考:気象庁「海洋酸性化とは

※4 参考

※5 データは気象庁の海洋の健康診断表「表面海水中のpHの長期変化傾向(北西太平洋)」から入手しました。気象庁は北西太平洋の東経137度線で長期的に観測を続けています。


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加えて

私たちのグループは、上のプロジェクトとは別に2名の公募をもっています。こちらのほうもよろしくお願いします。

募集職種 研究員もしくは技術研究員 1名(公募A)
業務内容 海流予測システムを用いて社会に利活用可能な情報を創出するために、大規模数値シミュレーションやデータ同化を活用しながら海洋物理学的な研究を行う。合わせて、海流予測に関連した広範な分野の応用研究を進める。
公募締切 平成28年8月24日(水)

 

募集職種 研究員もしくは技術研究員 1名(公募B)
業務内容 海洋・陸域・大気結合モデリングを活用し、領域的な海洋気候・環境変動の研究を行うとともに、成果の社会・産業界における応用を進める。
公募締切 平成28年8月24日(水)