毎月、過去1カ月の予測を検証する予定です。今回は2016年9月30日号の、9月24日から10月23日までの予測を検証します。10月14日号から予測システムが改良版であるJCOPE2Mに移行していますが、9月30日号の予測は旧版のJCOPE2による予測であることにご注意ください。
図1上段は、9月24日から予測した10月23日の黒潮の状態です。9月30日号の予測のポイントは、黒潮は南北に大きく動くものの、八丈島の北を流れる接岸流路になる可能性が高いということでした。実際に、黒潮は八丈島の北を流れており(図1下段、接岸傾向c)、その点で予測は当たっていました。ただし、下で述べるように、実際の黒潮の動きはもっと複雑でした。房総半島沖での離岸も予測できていたと言えるでしょう(図1上段と下段、離岸傾向β)。一方で、八丈島に現在近づいている離岸傾向dの発達は予測できていませんでした。
9月30日号の予測のもう一つのポイントは、九州東岸で離岸(小蛇行)が発達するというものでした(図1上段)。ただし、9月30日号に注意書きしたように、旧版のJCOPE2には小蛇行を過大評価する傾向がありました。実際に(図1下段)、九州南東でやや離岸しているものの、予測(図1上段)のような小蛇行の発達はありませんでした。10月14日号で改良版JCOPE2Mになった後は、小蛇行の発達を予測していません。
10月23日頃の実際の様子については、図2の「ひまわり8号」による海面水温(※1)も参照してください。10月23日は雲がやや多かったので、代わりに10月24日の海面水温を図にしました。八丈島に近づいている離岸傾向dによる海面水温低下がはっきりと見えています。
図3は2016年9月24日から10月23日までの予測値(上段)と実際(下段)の比較をアニメーションにしたものです。
図3: 2016年9月24日から10月23日までの予測(上段)と実際(下段)の比較のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。
八丈島付近の黒潮流路について、詳しく見てみましょう。過去の解説で(※2)、伊豆諸島付近の黒潮流路を判断するには、八丈島での海面高度(潮位)を見れば良いことを説明しました。流れの強い黒潮をはさんで、本州に近い方は海面高度が低い、逆の沖側では海面高度が高いという関係があるからです(図1参照)。このため、黒潮が本州に近づいて島の北を流れる接岸流路であれば、島周辺の海面高度は高くなります。逆に、黒潮が島の南を流れる離岸流路が発達すれば、島周辺の海面高度は低くなります。
図4は、JCOPE2で観測値を取り入れて再現した八丈島の海面高度(★による点線)と、その予測(青線、赤線)です。
9月30日号の9月24日からの予測では(青線)、すぐに接岸(海面高度の上昇)すると予測していました(10月3日号の検証も参照)。実際には(★による点線)、いったん離岸してから、接岸傾向になるという経緯をたどりました(海面高度が下降してから上昇)。予測(青線)でも、海面高度がいったんやや下降することを予測していましたが、過小評価していたようです。
これからどう変化するでしょうか?10月29日号の10月23日からの予測(図4赤線)では、現在八丈島に近づいている離岸傾向dの影響でいったん離岸に向かう(海面高度の下降)ものの、それは一時的で、中期的には接岸流路(海面高度の上昇)になると予測しています。その後、長期的(12月)には、再び離岸流路(海面高度の下降)になる可能性があります。
観測を確認してみましょう。図5は、過去の解説でも使用した、東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」から、八丈島での海面高度(潮位)の今年の変化をグラフ作成したものです。おおむね図4で説明した通りの動きをしてます(①いったん離岸、②その後接岸傾向、③離岸傾向dの影響で再び離岸)。予測通りにこれから反転して接岸流路に向かうのかが、八丈島付近の黒潮流路の注目点です。10月14日号から始まった改良版JCOPE2Mの予測成績にもご期待ください。
※1 「ひまわり8号」の海面水温については、2015/10/9号・気象衛星「ひまわり8号」で見た黒潮を参照。JAXA提供の「ひまわり8号」海面水温データは、2016年8月31日からバージョン1.2にバージョンアップしています。過去の「ひまわり8号」の水温データを使った解説一覧はこちら。
※2 過去の八丈島水位の解説一覧はこちら。