最近の海洋熱波・寒波(2024/7) 陸上の猛暑へも影響

最近の水温の状況

最近の日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。

図1は、6月20日と7月26日の海面の水温の平年との差を見たものです[1] 。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。

引き続き、日本周辺の海面で多くの海域が平年より高い水温になっています。

黒潮続流の北端から暖水渦がちぎれたため(暖水渦の行方(親潮ウォッチ2024/6)参照)、黒潮続流による千葉・茨城沖の暖水域と、暖水渦による岩手県沖の暖水域とに、平年より水温が高いところが分離するようになっています。海流の影響が大きいため、海面だけでなく、海面下も水温が高くなっています。海面下よりも広い範囲で温度が高いのは、大気の影響もあるためです。

日本海でも海面・海面下とも温度が高いですが、南日本海の海面では平年との差が7月は6月よりも小さくなっています。

北緯30度付近の日本南方では、7月に海面で温度が平年よりもかなり高くなりました(図5も参照)。海面下には見られないので、これは大気の影響だと考えられます。

水温が平年より低い例外としては海面下の黒潮大蛇行による冷水渦のある紀伊半島南の海域があります。

台湾付近では台風3号の影響もあり、海面で平年より水温が低くなっています。

今後の日本周辺の水温については、「季節ウォッチ」も参考にしてください。暑い夏が予測されており、平年より高い水温が続くことが予測されます。

図1: 海面の温度の平年との差(℃)。[上段]2024年6月20日。 [下段] 2024年7月26日。台風の経路はデジタル台風のデータを使用した。

図2: 図1に同じ、ただし水深100m。

 

 

 

海洋熱波・海洋寒波

海洋熱波とは、数日以上極端に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は近年に大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。

図3は、海洋熱波でよく用いられている基準[2]を使って日本周辺の海面での海洋熱波・寒波の発生状況を見たものです。同じく、図4は水深100mでの海洋熱波・寒波の発生状況です。

数字が1以上になっている所が統計的に10%以下しか発生しない高い温度である海洋熱波が発生している所です。数字が大きいほど強い海洋熱波であることをしめしています。図1,2(b)が平年よりどれだけ水温が高いのかを温度差でしめしているのに対し、図3,4はその中でもまれな温度変化をしめしています。

海面(図3)でも水深100m(図4)でも、目立つ海洋熱波は東北沖太平洋沖、北日本海、東海沿岸、北緯30度付近の日本南方です。特に暖水渦や黒潮続流の影響を受けている東北沖太平洋沖は、海面では最高でレベル3「厳しい」、海面下でレベル4「極端」な海洋熱波が見られます。日本海北部の海面下もレベルの高い海洋熱波になっています。日本南方では海面だけレベル2「強い」海洋熱波になっています。

気象庁などの研究により、2023年北日本の歴代1位の暑夏への海洋熱波の影響が明らかになっています(詳しくはリンク。JAMSTECアプリケーションラボの野中正見グループリーダーも研究に参加しています)。

気象庁は、今年2024年7月の日本の月平均気温が、統計を開始した1898年以降の7月として最も高くなったと発表しています。黒潮続流が極端に北上していた去年と暖水渦がちぎれた今年とではパターンが違いますが、北海道東北沖では強い海洋熱波が続いています。これが今年の猛暑にどれだけ影響するかは今後明らかになっていくでしょう。

日本黒潮大蛇行の冷水渦では、水深100mでレベル4(極端)の海洋寒波になっています。

図3: 2024年7月26日における日本周辺水深1mの海洋熱波と海洋寒波の発生状況。

 

図4: 図3に同じ、ただし水深100m。

 

アニメーション

図5は水温、平年からの差、海洋熱波指数のアニメーションです。

図5: JCOPE2Mによる2024年6月20日から2024年7月26日までの水温、平年からの差、海洋熱波指数。左が水温(等値線, ℃) 、温度の平年との差(色, ℃) 。平年は1993-2020年平均。右が海洋熱波指数。上段が水深1m。下段が水深100m。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

 

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2020年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。
  2. [2]JCOPE2Mの1993~2020年のデータを使い、統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合に海洋熱波としています。平年との差が海洋熱波の基準(90%タイルと気候平均の差)の2倍以上である場合は2,3倍以上である場合は3とカテゴリー化しています。逆に統計的に10%以下(10パーセンタイル)の低温が5日以上続いた場合には海洋寒波としています。