伊豆諸島付近と九州・四国沖に大きい蛇行があります。東の蛇行は蛇行こそ大きいものの、黒潮大蛇行らしい蛇行ではなく、長期には保たれなさそうです。西の蛇行は東に進み、大蛇行的な流路になる可能性があります。 |
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- JCOPE-T DAによる短期予測(20日先)
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- JCOPE3Mによる長期予測(2か月先)
を行っています。
ここで9月19日までのJCOPE3Mによる長期予測を解説します。長期予測では、黒潮大蛇行の予測がテーマです。
予測
図1は2025年7月19日の状態の推測値、図2・3は8月19日、9月19日の予測です。
大蛇行から渦がちぎれて(A’’) 、黒潮大蛇行の蛇行が大幅に小さくなっていましたが、蛇行が東に移動しながら再発達しました(図1 A)。一見、大蛇行の流路に再び戻ってきているように見えますが、紀伊半島・潮岬から黒潮が遠ざかる黒潮大蛇行とは違い、潮岬に黒潮が近づいています(図1)。
一方で、黒潮大蛇行からちぎれていた渦は、九州東で黒潮に吸収されて別の蛇行をつくっています(図1, A”)。この蛇行は東に広がり、四国では黒潮が離岸しています。
黒潮が潮岬に近づいているかを観測で見る良い方法として、串本と浦神の潮位差を見るという方法が知られています(「潮岬への黒潮接岸判定法は?: 串本・浦神の潮位差」「今後の黒潮の3つのポイント」参照)。黒潮が紀伊半島に近づくと潮位差は大きくなり、黒潮が紀伊半島から離れると潮位差は小さくなります。図4はその潮位差の時間変化です。2017年に黒潮大蛇行が始まって以来、一時を除いて小さな値が続いていました。しかしその後、値が大きくなり、潮岬で黒潮が接岸しました。そのため東の蛇行(A)は黒潮大蛇行的な流れではありません。
一方で、西の蛇行(A”)が近づいている影響か、串本・浦神の潮位差はまた下がってきているようにも見えます。このまま低下してくかが注目点です。
東の蛇行は、八丈島(●)を通り越すような形になっています(図1 A)。このような形の蛇行は、黒潮大蛇行と違って維持されにくいことが知られています。予測でも、今後は東に移動しつつ縮小し、大蛇行としては保たれないと予測しています(図2~3)。
八丈島を蛇行が通り超すような形になると、八丈島の潮位が下がってくることが知られています(「黒潮が八丈島の南を流れているのをどうやって観測で確認するの?」参照)。八丈島の潮位は、東京大学大気海洋研究所の藤尾伸三准教授のwebサイト「潮位データを用いた黒潮モニタリング」で見ることができます。図5は、このサイトから八丈島での潮位のこの10年の変化をグラフ作成したものです。黒潮大蛇行が始まって以来、短期間を除き、八丈島の潮位は高い状態が続いてきました。現在は、この潮位が下がっています。
西の蛇行は、渦A”以前にちぎれた渦A’も吸収しつつ、東に移動してくると予測されています(図2~3)。潮岬で離岸した上で、蛇行が大きい大蛇行的な流路になりそうです。ただ蛇行が小さめかもしれず(図3)、このまま維持されるような大きさになるか、今後の変化を見ていく必要があります。
「今後の黒潮: 考えられる4つのシナリオ」の中では、シナリオ1と2が可能性が無くなっています。シナリオ3の大蛇行再誕生となるかが今後の注目点になります。
図6は、2025年7月19日から9月19日までの予測をアニメーションにしたものです。

図1: 2025年7月19日の推測値。矢印(ベクトル)は海面近くの流れの向き(メートル毎秒, 長いほど速い流れ)、色は海面水位(メートル, 相対値)。赤丸(●)が八丈島の位置。海面高度が低いところは海面水温が低いおおまかな関係があります。

図4: [上]串本・浦神の潮位差(日平均)の2016年1月1日以降の時系列。データは気象庁から入手した。[下] 2025年以降を拡大。

図5: 東京大学大気海洋研究所「潮位データを用いた黒潮モニタリング」の「各潮位データの図示」から、「期間: 2025年までの 10年間」・「八丈島」でグラフ作成。単位はセンチメートル。
図6: 2025年7月13日から2025年9月13日までの予測のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。
JCOPE2Mは4日毎に更新を行っています(解説参照)。JCOPE2Mの他の予測図についてはJCOPE のweb pageでご参照ください。図の見方は連載: JCOPE2解析・予測画像の見方で解説しています。