現在の黒潮
気象庁が5月9日に、7年9か月続いた黒潮大蛇行が終息する兆しと発表しました。
大蛇行から2月(渦E1)と4月(渦E2)がちぎれ、蛇行が大幅に縮小し、大蛇行と呼べるほど蛇行は大きくありません(図1)。足摺南付近にあった蛇行Mが、やや発達しながら潮岬南付近まで東進しています。黒潮大蛇行からちぎれた渦E2はやや西に進み、蛇行Mと近づいています。
通常の場合、黒潮大蛇行が終わる時は黒潮が強くなり、大蛇行を東に押し流す形で終わります(「大蛇行が終わる時: 2005年の場合」参照)。もしこのまま大蛇行が終わッた場合、知られている中では初めての終わり方になります。
異例と言えば、黒潮大蛇行でない時の特徴である、紀伊半島・潮岬への接岸はまだです。
黒潮が大蛇行すると、黒潮が紀伊半島から離れます。黒潮大蛇行が終わると黒潮が紀伊半島に近づきます。黒潮が紀伊半島に近づいているかを観測で見る良い方法として、串本と浦神の潮位差を見るという方法が知られています(「潮岬への黒潮接岸判定法は?: 串本・浦神の潮位差」「今後の黒潮の3つのポイント」参照)。黒潮が紀伊半島に近づくと潮位差は大きくなり、黒潮が紀伊半島から離れると潮位差は小さくなります。
気象庁のデータを使い、2016年以降の潮位差をみると(図2)、黒潮大蛇行が始まった2017年半ば以降、一時的な上昇を除いて、小さな値が続いていることがわかります。小さな値は今月5月1日の時点でも続いており、黒潮はまだ紀伊半島に近づいていないと判断できます。

図2: [上]串本・浦神の潮位差(日平均)の2016年1月1日以降の時系列。データは気象庁から入手した。[下] 2025年以降を拡大。
今後のシナリオ
今の黒潮は、黒潮大蛇行が終わるとしても異例の展開になっており、今後の予測が難しくなっています。通常の黒潮が強くなって終わった形ではないので、再び黒潮大蛇行になる可能性もあります。今後の黒潮がどうなるかは主に4つのシナリオが考えられます。
シナリオ1 大蛇行即復活
渦E1が蛇行Mにくっついた場合、蛇行は再び大きくなり、大蛇行は即復活することになります。
しかし、このシナリオの可能性は低いかもしれません。今週の長期予測でも、先週までは可能性を残していた短期予測でも、渦E1と蛇行Mがくっつくことはないと予測しています。
シナリオ2 大蛇行復活
もっとありそうなシナリオは、蛇行Mが発達しながら東に進み、大蛇行になるものです(図3)。今週の長期予測でも蛇行の発達を予測しています。
このシナリオの大事な点は、蛇行が発達するだけでなく、大蛇行が伊豆海嶺の西にとどまることです(図では代表的な点として八丈島の位置を●でしめしています)。大蛇行が伊豆海嶺を越えて東に進んでしまうと、上で述べた2005年のように大蛇行が維持されにくいとされています。
シナリオ3 大蛇行再誕生
シナリオ2で大蛇行が再開しない場合、次に考えられるのは渦E2が西に進み、黒潮にくっつくことで蛇行になり(図4)、黒潮にのって東に進みながら、大蛇行に成長するというものです(図5)。
このシナリオで黒潮大蛇行になるには時間がかかるので、今までの黒潮大蛇行の中断から再開ではなく、今までの大蛇行が終わってから、新たな大蛇行がスタートということになりそうです[1]。
シナリオ4 大蛇行完全終了
シナリオ1~3が全て起こらず、黒潮大蛇行が完全終了することも考えられます(図6)。
注意点
今週の長期予測では、シナリオ1にもシナリオ2にもならないと予測していますが、今後変わってくるかもしれません。微妙な渦の動き方次第で、予測は変わってきます。海洋予測では予測することができない、気象の影響でも予測が変わってくるかもしれません。
上の4つのシナリオは単純化したもので、現実にはもっと複雑なことが起こるかもしれません。今後の黒潮の3つのポイントで紹介した2020年~2021年の黒潮大蛇行の復活では、シナリオ2とシナリオ3の混合のような形でした。上記シナリオでは渦E1については考えていませんが、何かの役割を果たす可能性もあります。
黒潮は大蛇行の形が崩れて、ダイナミックに動いています。どのようなシナリオになるにしろ、沿岸では急に潮が変わる可能性があり、注意が必要でしょう。
- [1]黒潮大蛇行でない期間が約3か月以上続いた場合は、黒潮大蛇行が始まっても気象庁は別の黒潮大蛇行とするのではないかと聞いています。↩