2017年から始まった黒潮大蛇行は7年以上も続いてきましたが、今年になって大きな変化が起きています。2025年の黒潮のこれまでをふりかえってみました。 |
黒潮大蛇行で始まる
図1は今年1月1日の黒潮です。今年は黒潮大蛇行で始まりました。
黒潮大蛇行は黒潮と本州の間に大きな冷水渦が安定的に居座ることによって、それにさまたげられて黒潮がまっすぐ流れず、黒潮が大きく蛇行する現象です。

図1: 2025年1月1日の推測値。矢印(ベクトル)は海面近くの流れの向き(メートル毎秒, 長いほど速い流れ)、色は海面水位(メートル, 相対値)。赤丸(●)が八丈島の位置。太い線はだいたいの黒潮の中心(海面高度0.3m)。海面高度が低いところは海面水温が低いおおまかな関係があります。
冷水渦がちぎれる
2月から3月にかけて、冷水渦の一部が南端からちぎれました(図2)。これによって冷水渦の一部が失われましたが、まだ冷水渦はたっぷりと残っており、黒潮大蛇行は続きました。
さらに冷水渦がちぎれる
4月になると、残った冷水渦の形がくびれ始め(図3)、再び冷水渦がちぎれました(図4)。さすがに立て続けに2回も大規模な渦がちぎれたことで、冷水渦の残りは少なくなりました。冷水渦にさまたげられなくなった黒潮は比較的まっすぐ流れ、大蛇行とは言えない流れになりました。
気象庁はこの時点で7年9か月続いた黒潮大蛇行が終息する兆し(5月9日発表)と発表しています。
再び蛇行が大きく発達
冷水渦の残りから、再び蛇行が大きく発達してきました(図5)。さらに、この蛇行Aは東に移動し、黒潮は八丈島(●)の南を通るようになりました。
蛇行Aは、蛇行だけで見れば非常に大きく、大蛇行と一見呼んでも良さそうです。しかし図5や図6の蛇行Aは、紀伊半島潮岬で大きく離岸している大蛇行流路(図1,2)とは違い、蛇行しているところが東寄りで、黒潮が潮岬の近くを流れています。また、通常は八丈島の北を流れる大蛇行流路(図1,2)とは違い、八丈島の南を黒潮が流れるようになっています(図6)。そのため、図5や図6のような黒潮は典型的な黒潮大蛇行とは言えないような流れになっています。なぜ典型的な大蛇行と区別するかというと、このような冷水渦が東に寄ったような流れは、黒潮大蛇行とは違って冷水渦が安定的に居座われず、すぐに消えていきやすいことが知られているからです。
一方、図4でちぎれた渦2は、西へと移動し、黒潮に吸収されることで、蛇行Bとなりました(図5,6)。
現在
現在、長続きしないというセオリー通り蛇行Aは縮小の気配を見せ始めています(図7)。一方、黒潮に乗って蛇行Bは東に移動して、黒潮を潮岬で離岸させています(図7)。
今後と注意点
今後は、蛇行Aが消えていく一方、蛇行2は発達してくると予測されています(黒潮「長期」予測記事参照)。最近はあまり発達しないという予測になってきていますが、今後予測が変わってくる可能性もあるので、蛇行が大きく発達し黒潮大蛇行が再誕生する可能性も残っています。「今後の黒潮: 考えられる4つのシナリオ」の中では、シナリオ1と2が可能性が無くなっています。シナリオ3の大蛇行再誕生となるか、シナリオ4の大蛇行が完全終了になるかが注目点です。
注意する必要があるのは、5月以降(図4~)黒潮大蛇行とは呼べない流れが続いていますが、それは黒潮がまっすぐ流れるおだやかな流れになっていることを意味しません。蛇行の大きさだけで言えば、大蛇行に匹敵しするほど大きな蛇行が見られています(図5~7)。また、黒潮大蛇行の形が崩れてからその余波で流れの変化が激しい状態が続いています。大蛇行からちぎれた渦2は、まわり回って蛇行Bとして今は潮岬で黒潮を離岸させています。
流れが比較的安定な黒潮大蛇行の時とは違い、その余波で流れの変化の大きい現在は、黒潮大蛇行とは別の意味で注意が必要です。
黒潮大蛇行の時は東海から関東沿岸に黒潮が近づき(図3の赤丸で囲った領域)、海水温が高めになるとこが知られています。このような高い水温は、海洋生態系を変え水産業に影響を与えたり[1]、陸で猛暑や豪雨をもたらしやすくすることが知られています [2]。
一方、黒潮大蛇行が崩れてからは、黒潮が離れたり(図4の赤丸で囲った領域)、また近づいたり(図5)、再び離れたり(図6)と変化が激しくなっています。そのため海水温が乱高下しやすくなっています。漁業やその気候影響などで注意が必要でしょう。
例えば、気象庁の駿河湾の海面水温推定値を見ると、黒潮大蛇行が続いていた昨年までは概ね平年より高い水温が続いていました(下の図)。今年になると、4月~5月にかけて平年よりも1度以上低くなったかと思うと、6月から7月にかけて4度以上も高くなり、むしろ昨年までよりも高くなっています。このような水温の乱高下は気象庁の他の海域の推定値でも見られるので確かめてみてください。
アニメーション
最後に2025年1月1日から8月18日までのアニメーションをしめします(図8)。
図8: 2025年1月1日から2025年8月18日までの予測のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。
- [1]国立研究開発法人 水産研究・教育機構 広報誌 FRA NEWS vol 73 特集 黒潮大蛇行 ~そのメカニズムと漁業への影響~ (pdf) ↩
- [2]東北大学プレスリリース・東海地方に豪雨と猛暑をもたらしたのは「黒潮の大蛇行」の影響と解明 ~黒潮が及ぼす影響を高解像度の気候シミュレーションで分析~ (2024/12/23)↩