「ちきゅう」は4月24日(日本時間25日)(※1)に無事に観測を終了しました。今回は観測終了頃の流速の様子を見てみましょう。
図1に、「ちきゅう」、支援船「あかつき」が掘削地点に近づいた時(※2)に観測した流速の値をしめしました。青丸が「ちきゅう」、緑丸が「あかつき」の観測値です。連載第11回の後、4月22日以降の「ちきゅう」と「あかつき」による観測が加わっています。「ちきゅう」「あかつき」の航路は、下の参考図を参照してください。図1にはアンサンブル予測KFSJの、連載第11回で紹介した最新の予測の平均(赤太線)と最大最小の範囲(赤塗り)もしめしています。
図2では、図1と同じ情報を、1日平均で情報を出している予測に合わせて観測の流速を一日平均(黒丸)にまとめています。
図1と図2から、観測の終了した4月24日頃には、連載11回で見た4月21日の非常に強い海流に比べて、流速が落ちてきていることがわかります。値は予測していた流速の範囲におさまっています。流速が落ちたとは言っても、4月24日の平均で約3.5ノットありますから、まだ黒潮の影響を受けていたと言えるでしょう。
流速が落ちてきた4月24日はどのような海の状態だったのでしょう。残念ながら4月24日は天気が悪く、気象衛星「ひまわり8号」による海面水温データ(※3)が雲に隠れて得られておらず(下の参考図3参照)、黒潮の様子がよくわかりません。
「ちきゅう」のための海流予測の特別サイトによれば、アンサンブル予測KFSJは、4月24日には黒潮の流速の中心が掘削地点からやや北側に移動する可能性が高いと予測しており(図3(a)の青線。20本の予測をしているので20本の線があります)、掘削地点はまだ黒潮の中にあるものの流速がやや落ちると、20本の予測の流速平均から予測していました(図3(b))。
上で述べたように4月24日の状態はわかりませんが、晴れ間の広がった4月26日の海面水温(下の参考図4)を見ると、確かに黒潮の位置は北上しているように見えます。
黒潮の指標として4月22日と4月26日の水温が20度以上の分布を比較してみると(図4)、確かに4月26日の方が4月22日に比べて水温20度以上の範囲が北上しており、この期間の間に予測通り黒潮が北上していることを示唆していると言えるでしょう。
これで、今回の「ちきゅう」航海中の観測が終了しています。次回、航海中の海流とその予測のまとめを書いて、連載:「ちきゅう」のための海流予測を締めくくる予定です。
※1本稿では、予測モデルで使用している時刻にあわせて世界標準時を使用します。世界標準時と日本標準時は9時間の時差があるので、本稿での4月22日は、日本標準時の4月22日午前9時から4月22日午前9時になります。
※2
予測モデルが約3kmの分解能をもつことを考慮して、掘削地点から1.5km以内に近づいた時の観測を全て使用しています。この範囲を多少変えても、結果はほとんど変わりません。
※3
「ひまわり8号」の海面水温については、2015/10/9号・気象衛星「ひまわり8号」で見た黒潮を参照。
過去の「ひまわり8号」の水温データを使った解説一覧はこちら。
参考:1日毎の船の航路と海面水温(4月22-24日)
参考図1から参考図3の図の左側は、4月22日から24日の1日毎の「ちきゅう」・支援船「あかつき」の航路と気象衛星「ひまわり8号」の海面水温分布(色)です。右側は観測された流速と緯度の関係です。4月18日から21日の図は連載第11回にあります。「ちきゅう」は4月24日に観測日程を終了しています。比較のため、4月26日の「ひまわり8号」海面水温分布(色)も参考図4として載せています。
「ちきゅう」のための海流予測の連載記事一覧はこちら。
この連載では、流れの速さの単位として船舶でよく使われるノット(2ノットは約1メートル毎秒)を使用します。
「ちきゅう」のための海流予測KFSJの特別サイトはhttps://www.jamstec.go.jp/jcope/kfsj/です。KFSJついては連載第2回で紹介しました。
「ちきゅう」の観測の様子に関しては「ちきゅう」公式twitterを参照。