台風18号は影響せず
10月12日までの海流データが「ちきゅう」と支援船から届いたので、今回はそれについて見てみましょう。
図1の赤記号は、前回の10月3日午前9時から、10月12日午前9時までの「ちきゅう」の航路です。一時的に(10月3日20時から10月5日0時頃まで)掘削地点を離れていましたが、その時期以外は掘削地点で掘削を続けています。
前回の記事を執筆した時点では、台風18号の影響が掘削地点に出る可能性がありましたが、台風は日本海へと行き、掘削地点では大きな影響はありませんでした。図2は掘削地点で「ちきゅう」が観測した海面近くの流速の時間変化です。流速が1ノット前後で変動していますが、台風16号の後に見られたような大きくな振動(連載第3回・第4回)は見られていません。
観測には支援船2隻も参加しています。新潮丸(支援船1)と第八明治丸(支援船2)は交互に和歌山の港を移動し(図1の緑線と青線)、「ちきゅう」に物資を補給したり、「ちきゅう」の上流から強い海流が来ないかを警戒したりすることで、「ちきゅう」の観測を助けています。流速も観測していますが、今号では解説を省略します。
「ちきゅう」の観測については「ちきゅう」公式Twitterや「ちきゅう」船上レポートをご参照ください。

図1: 「ちきゅう」(赤線)、支援船1(新潮丸、緑線)、支援船2(第八明治丸、青線)の航路。●がそれぞれの期間のスタート地点で、▲がそれぞれの期間の最終地点。10月3日午前9時から10月12日午前9時まで。

図2:「ちきゅう」が観測した海面近く(15m深)の海流の流速(赤線)の時間変化(ノット)。データは1時間平均した。線がないのは掘削地点から移動していた期間(10月3日20時から10月5日0時頃まで)。
「ちきゅう」公式Twitterより
Coring has been resumed after a short break. コアリング再開です。#JAMSTEC#Chikyu#IODPpic.twitter.com/GXUyiAWrrM
— CHIKYU 地球深部探査船「ちきゅう」 (@Chikyu_JAMSTEC) 2016年10月6日
黒潮を輪切りにしてみれば
掘削地点周辺の海流予測は、「ちきゅう」のための海流予測特設サイトで毎日更新し、公開しています。JCOPE-T-JCWとJCOPE-T-EASという二つの予測モデルを使っています。
図3の上段は、JCOPE-T-JCWの予測(※1)による、10月19日12時の海面での流速です。これまでのように、流れの強い黒潮は掘削地点から遠く離れており、掘削地点には大きな影響を与えそうにありません。
ただし、海面ではなく、もっ深い海を見ると、すこし違う側面も見えてきます。図3の中段と下段は、ちきゅう」のための海流予測特設サイトの図から、深さ300メートルと750メートルの図を見たものです。深いところを見るにつれて、黒潮が南に下がって、掘削地点に近づいています。

図3: JCOPE-T-JCW予測による10月19日12時(日本時間)の海面での流速(ノット; 矢印は海流の向きと強さ; 色は海流の強さ)(2016/10/15号の予測より)。(上段) 海面。(中段)深さ300メートル。(下段) 深さ750メートル。★が掘削地点。白い記号は風向きと強さ。
深くなるにつれて、黒潮がどのように分布しているかを見るために、図3の点線の位置で深さ方向に黒潮を輪切りにした図が図4です。色は流れの強さをしめしています。強い流れとしての黒潮は、流れが弱くなりながらも深くまで伸びています。また、深くなるにつれて南に傾いています。深くなるにつれて弱くなる効果と黒潮が近づく効果の兼ね合いで、「ちきゅう」の掘削緯度では、海面下(図4の場合は200~300メートルの深さ)で流速が最大になっています。
海面下で流速が大きくなる様子は「ちきゅう」による観測でも見えています。図5は、ちきゅう」が観測した流速が、深さ方向にどのような分布をしていたかをしめしました(10月6日から10月11日までの平均)。流れの強さのピークは海面ではなく、海面下にあることがわかります。通常の船であれば、海面下の流れを気にする必要はありませんが、「ちきゅう」は海底までパイプを降ろして掘削を行うために、深いところでの黒潮にも注意を払う必要があります。
今後の見通し
掘削地点でのJCOPE-T-JCWによる流速の予測時系列(図6)を見ると、海面下の流速(たとえば水色線の300メートル深の流速)がじわじわと上昇すると予測しています。その強さは1ノット強程度です。海面(赤線)での流速は変動が大きいですが、海面下の流速よりも弱いと予測しています。

図6: 掘削地点での流速(ノット)の予測の時間変化(2016/10/15号の予測より)。深さごとに色が分かれており、赤が海面での流速。水色が300メートル深での流速。クリックすると図が拡大。JCOPE-T-JCWの予測。
※1 執筆の時点で、JCOPE-T-EASの計算が遅れているので、今回はJCOPE-T-JCWの予測のみ紹介します。
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「ちきゅう」のための海流予測の連載記事一覧はこちら。
この連載では、流れの速さの単位として船舶でよく使われるノット(2ノットは約1メートル毎秒)を使用します。
「ちきゅう」のための海流予測特別サイトはhttps://www.jamstec.go.jp/jcope/vwp/chikyu.2016.09/です。
「ちきゅう」の観測の様子に関しては「ちきゅう」公式twitterや船上レポートを参照。