水温の全体的な状況
図1は、9月3日(9月9日号で解説)と10月9日の海面水温が平年(1993から2012年の20年平均)より高いか(赤っぽい色)、低いか(青っぽい色)をJCOPE2再解析のデータを用いて見たものです。
9月9日号で解説したように、図1上段Aの領域は、大気の停滞する高気圧の存在により、9月3日の段階では平年よりかなり水温が高い状態でしたが、その後の気圧配置の変化により、図1下段の10月9日の段階では平年との差が小さくなってきています。一方で、9月3日(図1上段)頃は平年より低かった日本南方(Bの領域)の海面水温が、10月9日(図1下段)までには平年より高くなっています。
北海道南東(図のC周辺)や東北沿岸(図のD周辺)では、引き続き平年よりも水温がかなり高い状態が続いています。
図1: JCOPE2再解析による海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(℃)。[上段]2016年 9月3日。[下段] 2016年10月9日。
最近の黒潮続流と親潮
東北沖(図1のD周辺)の高温には黒潮続流の状態が、北海道南東(図1のC周辺)の高温に親潮の状態が反映されています。海流の影響をよく見るために、2016年10月9日の水深100メートルでの水温と流速を図2左にしめします。比較のために、図2右には、平年(1993から2012年の20年平均)の値をしめします。
2016/07/22号「暴れる黒潮続流」で解説したように、今年の黒潮続流(図2左)は平年より(図2右)大きく蛇行しながら流れています。この蛇行とそこから切り離される暖水渦(図2左のW1やW2やW3)のために、黒潮から流れてきた水が東北沖に入りやすくなっており、水温が高くなる原因となっています。
次に親潮を見ると、暖水渦が存在しているために(図2左のW4)、沿岸で親潮が南下しておらず、平年(図2右)の親潮第一分枝(OY1 ※1)にあたるものが小さい、またはほとんどありません。これが親潮域で平年より水温が高くなっていることに貢献しています。
親潮の勢力の指標である親潮の面積(図2の点線領域での水深100メートルの水温5度以下の水の広がり)の時間変化を見ると(図3の赤線)、親潮域の高温について触れ始めた昨年2015年の5月頃(2015/5/22号「親潮域があったかくなっているって聞いたけど?」)から、平年(黒細線)のはるか下、通常の範囲(灰色の範囲)を超えてさらに小さい面積になっています。親潮面積が小さいということは、冷たい水(5度以下)の範囲が狭い、すなわち、親潮域があたたかいことを意味します。今年の6月には平年との差がやや縮まっていましたが(7/22号)、7月以降は再び平年との差が開いています(8/12号)。
親潮面積の9月の月間平均(図4)は、断トツで最小であった昨年よりも小さい、過去1番めに小さい値です。
一方で、変化のきざしも見られます。図3に、今後2ヶ月の親潮面積のJCOPE2M(※2)による予測を青線でしめしました。昨年は11月にかけて親潮面積が0へと減少したのに対し、依然として通常の範囲(灰色の範囲)よりは小さいものの、今年は下げ止まると予測しています。
図5は、北海道南東の渦の今年の動きをみたものです(※3)。暖水渦は7月、8月には北海道南東沿岸近くに居座っていましたが、9月から10月にかけて東へと移動していることがわかります。これは、この暖水渦の停滞が解消される兆候だと言えそうです。一方で、東北沖では黒潮続流からの渦が北上してきています(図2左のW1やW2やW3)。暖水渦の動きは漁業にも影響を与える可能性があり(2016/8/12号「今年のサンマは?」参照)、今後も渦の動きに注目です。
※1 親潮第一分枝、第二分枝については2015/07/03号「親潮はどんな流路になっているの?」で解説しています。
※2 先週から、予測モデルはJCOPE2の改良版であるJCOPE2Mになっています。
※3 暖水渦の動きについては、2016/05/12号「親潮のこの一年をアニメーションで」、2016/06/17号「気象衛星「ひまわり8号」で見た親潮」でも見ています。
黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号と2017年2月1日号で解説しています。