水温の全体的な状況
まず、日本周辺の水温状況を見てみましょう。図1は、11月6日(11月11日号で解説)と12月4日の海面水温の平年との差をJCOPE2再解析のデータを用いて見たものです。平年は1993から2012年の20年平均の平均で、それより高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。
全体的には、北日本(青の楕円で囲った領域)では平年より温度が低い水温が目立ち、南日本(赤の楕円で囲った領域)では平年より高い水温が目立ちます。これは、北日本では寒い天候が続き、南日本では暖かい天候が続いたためです(※1)。11月には関東甲信地方で季節はずれの雪が降りましたが、このような暖かさと寒さのせめぎ合いのなかで降ったものと言えます。黒潮親潮ウォッチの姉妹サイトである季節ウォッチの予測では、北部では気温が平年より低く、南部では気温が平年より高い状態が冬も続くと予測しています(※2)。
全般的に水温が平年よりも低い北日本にも、平年より温度が高い場所が局所的に有り、海流の影響を受けた暖水塊によるものです。10月18日号で解説したように、北海道南東に居座っていた暖水塊(図1上下段のA)は東に移動し解消しつつあります。入れ替わりに、東北沖の暖水塊(図1上下段のB)は北上し、北海道に近づいてきています。
最近の黒潮続流と親潮
海流の影響をよく見るために、2016年12月4日の水深100メートルでの水温と流速を図2左にしめします。比較のために、図2右には、平年(1993から2012年の20年平均)の値をしめします。
2016/07/22号「暴れる黒潮続流」で解説したように、今年の黒潮続流は平年より大きく蛇行していました。そこから切り離された暖水渦(図2左のW1やW2やW3)の形で黒潮から流れてきた水が、東北沖の混合水域(先月の解説参照)に流れこんでいます。それが平年(図2右)より水温が高くなる原因となっています。特に渦W2は北上して、図1の暖水Bに対応しています。渦が切り離された後の黒潮続流は、蛇行が解消され、平年に近い状態になってきています。
親潮は平年(図2右)でも東へ後退する季節です(先月の図2右と比較してみてください)。それに加えて、東に移動している暖水渦W4(図1の暖水Aに対応)でさえぎられる形で、北海道沿岸沿いに親潮が入りにくくなっています。
とは言え、最近は親潮は平年並みに近づいていました。親潮の勢力の指標である親潮の面積(図2の点線領域での水深100メートルの水温5度以下の水の広がり)の時間変化を見ると(図3の赤線)、昨年(2015年)は11月にかけて親潮面積が0へと減少したのに対し、先月の予測どおり、今年はむしろ上昇して通常の範囲(灰色の範囲)に近づいています(図3赤矢印)。

図3: JCOPE2再解析データから計算した親潮面積の時系列(単位104 km2)。赤線が2015年1月から現在までの時系列。黒細線は平年(1993-2012年)の季節変化。灰色の範囲は平均からプラスマイナス標準偏差の範囲。青線はJCOPE2Mによる予測。
親潮面積を各年で比べると、10月は過去2番目だったのに対し、11月の月間平均(図4)は、2015年、2007年についで過去3番目です。まだ過去3番目の小ささではありますが、過去最少だった2015年に比べるとかなり大きくなっています。
これからの親潮勢力の予測を見ると(図3の青線)、先月はますます平年値に近づくと予測していたのに対し、最新の予測では平年値から再び離れる(図3の青矢印)と予測しています。先月の予測と最新の予測で、2016年12月15日の水深100メートルでの水温と流速を比較すると(図5)、先月の予測では親潮をさまたげる渦W4が消えていくと予測していたのに対し(図5左)、最新の予測では渦W4は小さくなっていくものの、まだ残ると予測しているようです(図5右)。渦W4や渦W2の今後の動きに注目です。
※1 参照: 気象庁 11月の天候 (2016年12月1日)
※2 予測は毎月更新されます。また、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の予測情報に注意してください。

黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号と2017年2月1日号で解説しています。