東京大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)のグループは、海洋エネルギー評価のための情報をポータルサイトから提供しています。必要となるデータを作成するために、海洋予測技術が使われています。 |
海洋エネルギーポータルサイト
人類の持続的な発展のために、エネルギー源の多様化が求められています。自然再生可能エネルギーである海洋エネルギーもその一つです。現在、日本周辺のどこが海洋エネルギーの適地であるか検討が進められており、そのための情報が必要とされています。そこで、東京大学とJAMSTECのグループは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託をうけて、海洋エネルギー評価のためのポータルサイトを作成しました。
海洋エネルギーポータルサイト
(http://www.todaiww3.k.u-tokyo.ac.jp/nedo_p/jp/)
ポータルサイトで評価する海洋エネルギーは3種類あり、波浪エネルギー発電、海流潮流エネルギー発電、海水温度差発電です。このサイトは、使いやすいインタラクティブなインターフェース(Marine Energy-webGIS)になっており、海洋発電がどの場所が最適で、どれらいの発電が、どれくらい安定して得られるかの情報を見ることができます。
図1は、海流潮流エネルギー発電の情報の一例です。値が大きいほど、大量に発電できる可能性が高いことをしめしています。海流潮流エネルギー発電は流速が大きいほど得られるエネルギーが大きいことから[1]、黒潮が流れるところで値が大きいことがわかります。
図2は、水温温度差発電の情報の例です。黒潮に沿ってやや値が大きい傾向はありますが顕著ではなく、なだらかな分布になっており、南のほうで大きい値になっています。
図1(黒潮大蛇行時[2])や図2(夏の気候値)のように、期間ごとに場合分けしてデータを見られます。また、任意の領域の作図,格子点ごとの数値データの読み取りなどができます。使用方法・利用規約をご確認のうえ、ポータルサイトをご活用ください。
海洋再解析JCOPE-T-NEDOについて
海流潮流エネルギー発電には海流のデータ、水温差発電には水温のデータが必要です。そこで、海洋予測モデル技術を使ってデータを作成しました。使用しているモデルは、細かい地形の影響も考慮するために、黒潮予測に使っているモデルJCOPE2(分解能約9km)より分解能の高い、JCOPE-T[3](分解能約3km)という海洋モデルを使っています。このモデルは潮汐(潮の満ち引き)も計算できる特長をもっています。現実に近い状態にするために、観測値に近づくような仕組みを取り入れています[4]。海は時間的に変化するので、海洋エネルギー評価のためには短期間のデータではなく、10年以上のデータが望ましいとされています。そのため、2002年以降の10年以上のデータを作成しています[5]。
このようにして作成したデータをJCOPE-T-NEDO再解析データと呼んでいます。JCOPE-T-NEDO再解析データは海洋エネルギー評価のために作成されましたが、その他の用途にも使っていただけます。学術利用の場合は無償で配布しています[6]。
参考文献
早稲田卓爾, Adrean Webb, 清松啓司, 藤本航, 宮澤泰正, Sergey Varlamov, 堀内一敏, 藤原敏文, 谷口友基, 松田和宏, 吉川潤, 初期検討・FSに資する海洋再生可能エネルギー資源量推定-波浪, 海流・潮流・温度差発電エネルギーポテンシャル-. 日本船舶海洋工学会論文集, 2016
- [1]理論的に得られるエネルギーは流速の3乗です。↩
- [2]黒潮大蛇行については2015/9/19号で解説しました。↩
- [3]予測モデルJCOPE-Tは、「ちきゅう」のための海流予測に使っており、2016/10/21号で解説しました。このモデルの文献は
Varlamov SM, Guo X, Miyama T, Ichikawa K, Waseda T, Miyazawa Y (2015) M-2 baroclinic tide variability modulated by the ocean circulation south of Japan J Geophys Res-Oceans 120:3681-3710 doi:10.1002/2015jc010739 (英語)。
↩ - [4]観測値をとりいれて作成した推定値であるFRA-JCOPE2再解析に近づくような計算をしています。↩
- [5]海洋エネルギーポータルサイトでは2002年から2012年の10年のデータを使用していますが、JCOPE-T-NEDOは2013年以降のデータもあります。↩
- [6]問い合わせ先は、jcope (アットマーク) jamstec.go.jp。↩