観測続く
10月17日までの海流データが「ちきゅう」と支援船から届いたので、今回はそれについて見てみましょう。
図1の赤記号は、前回の10月12日午前9時から、10月17日午前9時までの「ちきゅう」の位置です。掘削地点(★)で掘削を続けています。
今回の観測には支援船2隻も参加しています。支援船は、「ちきゅう」に物資を補給したり、「ちきゅう」の上流から強い海流が来ないかを警戒したりすることで、「ちきゅう」の観測を助けます。今回、第八明治丸(支援船2)は、掘削地点のやや北西に位置して上流からの急な強い流れを「ちきゅう」のために警戒する役割を10月14日まで担った後、和歌山県勝浦に寄港しています(図1青線)。新潮丸(支援船1)は、室戸岬沖まで往復して黒潮の動きを探った後は(図1緑線)、支援船2と交代で警戒ポジションについてます。
「ちきゅう」の観測については「ちきゅう」公式Twitterや「ちきゅう」船上レポートをご参照ください。
「ちきゅう」公式Twitterより
Getting ready to case the hole. ケーシング作業準備中です。#JAMSTEC #Chikyu #IODP pic.twitter.com/l9hN44BMAN
— CHIKYU 地球深部探査船「ちきゅう」 (@Chikyu_JAMSTEC) 2016年10月14日
掘削地点での流速
図2は、掘削地点で「ちきゅう」が観測した海面近く(15m深)の流速の時間変化です。流速が1ノット前後で変動しています。
前回は、海面下の流速がじわじわ上昇すると予測しました。実際の観測(黒線、313mでの流速)を見ると、実際に流速が次第に増加しているように見えますが、この傾向が続くかは、もう少し長く見てみる必要があります。海面下の流速が1ノット強になり海面の流速よりも大きくなるという前回の予測は17日よりも後になるので、検証は次回に持ち越しです。
室戸崎沖での黒潮の位置
黒潮の位置を支援船のデータから確認しておきましょう。図3は、10月13日の、[左上]「ちきゅう」と支援船1と2の航路、[右上]その航路に対応する緯度位置(縦軸)と観測された海面近く(深さ15m)の流速の大きさ(ノット、横軸)、[下]1日の中での時間(横軸)と流速(ノット、縦軸)を見たものです。
この日、支援船1(緑線)は室戸岬沖方面に向かっています(図3左上)。その際、黒潮中心と考えられる3ノットを超える流速を横切っています(図3下)。その緯度位置を見ると、北緯33度よりもやや南です(図3右上)。黒潮の中心はこの緯度を流れ、室戸岬ではやや離岸しているようです。黒潮の中心はまだ掘削地点(★)からは遠く、「ちきゅう」とその近くにいた支援船2の流速は約1ノットです(図3下の赤線と青線)。
今後の見通し
掘削地点周辺の海流予測は、「ちきゅう」のための海流予測特設サイトで毎日(※1)更新し、公開しています。JCOPE-T-JCWとJCOPE-T-EASという二つの予測モデルを使っています。
その中から、JCOPE-T-JCWの、10月22日12時における海面での流速分布の予測値を見ると(図4上)、黒潮は室戸岬沖でやや離岸して南に下がっていますが、依然として掘削地点の北に位置して、掘削地点(★)付近では強い流速にはならないと予測しています。
前回解説したように、海面よりも海面下では黒潮が南に下がっています(図4下)。その影響で、掘削地点での流速の予測時系列(図5)を見ると、JCOPE-T-JCWでもJCOPE-T-EASでも、海面下の流速(たとえば水色線の300メートル深の流速)がじわじわと上昇すると予測しています。それでも、流速はせいぜい1ノット強にとどまると予測しています。
予測モデルJCOPE-Tについて
「ちきゅう」のための予測に使っているJCOPE-Tについて解説します。
予測モデルJCOPE-Tは、黒潮予測で通常使っているJCOPE2Mに近づくような計算(※2)をしているので、黒潮予測の大きな特徴はJCOPE2Mと似たような結果になります。一方で、JCOPE-Tには以下のような特長があります。
- 水平分解能がJCOPE2M(約9km)よりも高く(約3km)、沿岸でより詳細な流れを計算できる(例:2016/02/05号「高分解能モデルで黒潮の沿岸(宿毛湾)への影響を見る」)。
- JCOPE2Mには含まれていない潮の満ち引きまで計算している(例:2015/10/16「2015年台風23号接近で高潮発生」)。JCOPE-TのTにはTide(潮汐)という意味が込められています。
- 天気予報の更新にあわせて、毎日予測を更新。1日平均ではなく、毎時間の予測情報を提供。
過去の黒潮親潮ウォッチの解説でも、上記のような特長が重視される場合はJCOPE-Tのデータを使っています(※3)。今回の「ちきゅう」のための海流予測では、連載第1回でも解説したように、黒潮のちょっとした変動よりも、風などによる急な変化がより重要になると予想されたので、3番目の理由を重視してJCOPE-Tを使用しています。その予想は、台風の通過によって現実のものとなっています(連載第3回「台風後のゆれる流速」)。
JCOPE-T-JCWとJCOPE-T-EASの違いについては次回解説します。
※1 今週はサーバーのメインテナンスがあったので、結果の更新が遅くなっています。
※2: 連載開始当初はJCOPE2の改良版であるJCOPE2Mが開発中だったので、JCOPE-T-JCWはJCOPE2Mに、JCOPE-T-EASはJCOPE2に近づくように計算されていました。現在はJCOPE-T-JCWもJCOPE-T-EASもJCOPE2Mに近づくように計算されています。
※3: 過去の解説一覧はこちら。
「ちきゅう」のための海流予測の連載記事一覧はこちら。
この連載では、流れの速さの単位として船舶でよく使われるノット(2ノットは約1メートル毎秒)を使用します。
「ちきゅう」のための海流予測特別サイトはhttps://www.jamstec.go.jp/jcope/vwp/chikyu.2016.09/です。
「ちきゅう」の観測の様子に関しては「ちきゅう」公式twitterや船上レポートを参照。