水温が高い! (親潮ウォッチ2017/07)

日本周辺の水温は非常に高くなっています。東北沖に暖水渦があり、この振る舞いが今後の親潮に影響します。

全体的な状況

まず、日本周辺の水温状況を見てみましょう。図1は、2017年6月8日(親潮ウォッチ2017/06で解説)と、2017年7月16日の、海面水温の平年との差を見たものです[1]。平年は1993から2012年の20年間の平均で、それより高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。

6月には平年よりも冷たい海域もありましたが、7月になるとほぼ全域で平年よりも温度が高くなっています。しかも、平年よりも数度近く温度が高いところが多く見られます。

水温の高さは海流の影響を受けつつも、暑い夏が大きな原因になっています。暑い夏については、姉妹サイト「季節ウォッチ」をチェックしてください。

水温の高さは、蒸発を活発にし水蒸気を供給することで、各地で続く豪雨に影響を与えている可能性があります。海面水温と豪雨との関係は、平成24年(西暦2012年)7月九州北部豪雨を例として2016/7/8号「豪雨の鍵をにぎる東シナ海」で解説しました。

黒潮の大きな蛇行と小蛇行が発生している(黒潮予測記事参照)では、温度上昇が少なめになっています。

Fig1

図1: 海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(℃)。[上段]2017年6月8日。[下段] 2017年7月16日。

 

親潮の様子(海面)

次に親潮周辺の様子を詳しく見てみましょう。図2左は、図1下段を親潮域で拡大した図です。親潮域周辺で数度近く温度が高いところが見られます。

図2左は、対応する海面温度そのものと、流速です。親潮域で平年よりも高くなっている中心(図2左A)には、時計回りの暖水渦(図2右A)があります。この暖水渦は、先月号で「気になる暖水渦」と書いていた渦です。やはり、この暖水渦は親潮域に影響を与えたようです。ただし、現在の親潮域の温度の高さは暖水渦だけでは説明できないので、暑い夏(大気)の影響もあります。

図2: [左図] 2017年7月16日の親潮周辺の海面温度の平年(1993年から2012年の平均)との差(℃)。[右図] 同じく2017年7月16日の海面水温(色、℃)と流速(矢印、メートル毎秒)。

親潮の様子(海面下)

天気の影響を受けにくいので、海流の様子が見やすい海面下の水深100メートルの様子も見てみましょう(図3左図)。この深さでも、東北沖に暖水渦Aが見られ、暖水渦が海面だけの現象ではないことがわかります。

昨年の状況とも比べて見ましょう(図3右)。昨年は北海道南東に暖水渦が居座っており(B)、親潮(水色矢印)が沿岸沿いに南下するのを完全にさまたげていました。今年は渦が岸から離れており(図3左)、昨年ほどは親潮をさまたげていないようです。

図3: 水深100メートルでの水温(色、℃)と流速(矢印、メートル毎秒)。[左図]今年の7月16日。[右図] 昨年の7月16日。

7月16日からの予測

図4は、JCOPE2Mで7月16日から予測した7月31日の親潮域の水深100mの水温(左図)と平年(1993から2012年の平均、右図)を比較しています。水温5度の等値線が親潮の勢力の指標になっています。

これから親潮がどのよう変化するかは、暖水渦Aの振る舞いしだいです。今のところ、沿岸寄りの親潮(親潮第一分枝、OY1)の南下は、暖水渦Aに邪魔されないようです。一方で、沖側の親潮は(親潮第二分枝、OY2)は南下しにくいと予測しています[2]

図5は、図4に対応する7月16日から9月21日までの予測をアニメーションにしたものです。親潮域の水深100mの水温(左図)と平年(1993から2012年の平均、右図)を比較しています。暖水渦Aは次第に東に移動すると予測しています。この予測通りであれば、沿岸寄りの親潮が南下はさまたげられないでしょう。ただし渦の動きの予測は難しいので、予測が変わる可能性があります。最新の予測は週2回更新されるJCOPE のweb pageでチェックしてみてください。

図4

図4: JCOPE2Mで2017年7月16日から予測した7月31日の親潮域の水深100mでの水(左図)と、平年(1993から2012年のJCOPE2再解析の平均、右図)の比較。親潮域の指標として水温5度に黒太線で等値線をひいてあります。

 

 


図5: 親潮域の水深100mでの2017年7月16日から9月21日までの水温のJCOPE2Mによる予測(左図)と、平年(1993から2012年のJCOPE2再解析の平均、右図)の比較のアニメーション。親潮域の指標として水温5度に黒太線で等値線をひいてあります。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

親潮面積

JCOPE2Mによる推定によれば(図6青太線)、親潮の勢力の指標である親潮面積(図4の点線領域での水深100メートルの水温5度以下の水の広がり)[3]は、暖水渦の影響により今年の7月には平年(黒細線)より小さめになっています。親潮面積が小さめということは、親潮の勢力が弱く、水温が高いことを意味します。ただ、2015年や2016年に比べれば大きいです。

予測(図6の青点線)では、暖水渦が東に移動するにつれて平年並みに戻ると予測しています。

Fig6

図6: 親潮面積の時系列(単位104 km2)。赤線が2015年1月から現在までのJCOPE2再解析から計算した時系列。黒細線は平年(1993-2012年)の季節変化。灰色の範囲は平均からプラスマイナス標準偏差の範囲。2016年10月からは、JCOPE2再解析の代わりに、新モデルであるJCOPE2Mによる値(青実線)を使用。青点線は2017年7月16日からのJCOPE2Mによる予測。

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを、昨年や平年の値はJCOPE2再解析を使用しています。
  2. [2]親潮第一分枝・第二分枝については、親潮はどんな流路になっているの?(親潮ウォッチ2015/7)で解説しています。
  3. [3]親潮面積については、「親潮が記録的なあたたかさ(親潮ウォッチ2015/9)」で解説しています。

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黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。