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研究者コラム

国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の第29回締約国会議 (COP29)参加報告

記事

地球環境部門 環境変動予測研究センター変動海洋エコシステム高等研究所 河宮 未知生
地球環境部門 地球表層システム研究センター 金谷 有剛・Prabir Patra

COP29とは

国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の第29回締約国会議 (COP29)が、2024年11月11日から22日にかけて、アゼルバイジャンの首都バクーで開催されました。筆者らは同11日から14日までの期間COP29に参加してきましたので、その様子を報告します。COPは、UNFCCCに参加する国々の関係者が一堂に会して条約の履行に必要な検討を進める国際会議で、年1回、年末付近に開催されます。気候変動問題に関する世界最大の会合と言ってよく、例えば昨年2023年のCOP28(ドバイ)では、14日間の会期で約8万5,000人が参加しており、この中には国家元首や政府首脳も含まれます。

Earth Information Day 2024への参加

筆者らは、会議初日に開催された Earth Information Day (EID) 2024へ参加しました。COP29の主題は気候変動に関する政策面での検討、交渉ですが、EIDはそうした政策を立案する際に重要となる「組織的観測(Systematic Observation)」をどのように推進していくか、気候科学の専門家と政策立案に携わる担当者らが膝を交えて議論する場を提供します。EIDの前半は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)議長の Jim Skea 氏(英)など関係機関の長などから挨拶や状況説明などがあり、後半では、5つのテーマ(緩和、適応、損失と損害、技術革新、生態系と脆弱性)に分かれた分科会が開催されました。

河宮は、「適応のための観測」のテーマに参加しました。分科会における議論では、参加者が口々に観測データを世界中で共有することの重要性を強調していました。筆者は、データ共有を進めるにあたって重要なメタデータ(データの内容説明)を系統的に付加するのは研究者にとって無視できない負荷となるため、こうした作業を進めることで研究者自身の評価も高まる評価システムの確立や文化の醸成が必要である旨を発言し、他の参加者も共感していたように見受けられました。

金谷は「緩和のための観測」のテーマにて、3分間の専門家プレゼンテーションを行いました。まず、エアロゾルや対流圏オゾンなどを含む「短寿命気候強制因子(SLCFs)」についてもCO2やメタンと合わせて追跡し、最近の温暖化の原因特定と寄与評価を行うことが重要であることを述べました。近年は大気汚染の浄化策などにより、大気中のエアロゾル(PM2.5などの微粒子)の減少が世界的に進み、さらなる温暖化を呼んでいるとされていますが、不確かさがやや大きいこともあり、そのことは社会ではよく知られていません。また、海洋について、自動フロート観測や現場での精密な観測、そしてそれらのデジタル情報化が必要であることを述べました。これらは、例えば、プランクトンの光合成などを通じた海の炭素吸収が現在どのような状態にあるか、生態系の健康度も含め、今後もその機能に期待してよいかなどを把握するために重要なものです。これらの内容は今回の取りまとめ報告書に現在加えられつつあります。

Patraは「技術革新」のテーマに参加して議論しました。分科会に先立つプレナリーセッションでは、観測に基づく気候の状態が報告されました。これは、政策決定に根拠に基づく科学を用いるための基礎となるものです。過去20年間、3つの主要な温室効果ガス(CO2、メタン、N2O)の濃度は2024年まで増加し続けています。さらに懸念されるのは、この3種類の温室効果ガスの増加率が依然として高い水準にあるばかりか、ここ数年は若干加速していることです。議論の時間に入ってから、Patraにとって少し予想外だったのは、一部の国がパネルに対し、濃度増加の原因について、主要排出地域・国の特定を含め、より詳しい情報を提供するよう求めたことです。20年間にわたる私たちの研究に基づいて、私たちは、これらのガスの排出源と吸収源を地域別に推定することは比較的容易であると理解していますが、科学者だけでなく政策立案者にとっても同様に透明性のある形式で提示することは、高品質の観測データの不足や排出量推定ツール(インベントリベースまたは逆モデル)の不確実性など、さまざまな理由により困難な作業です。観測における技術革新をテーマとした分科会では、根拠に基づく科学的な情報を政策立案者に提供することに多くの時間が費やされました。また、地球観測に関する政府間会合(GEO)は、“Early Warning for All” (EW4A)という目標を達成するための10の統合技術(センサー、市民科学、AI/機械学習など)を推奨しており、後発新興地域の住民にも気候災害の早期警戒情報を届けるための技術についても議論されました。

日本パビリオンでの活動

COPでは、世界各国や環境関連団体などがパビリオンを設置しそれぞれの取り組みを紹介します。日本パビリオン(環境省HP:https://www.env.go.jp/earth/cop/cop29/pavilion/)では、打上間近の日本の衛星GOSAT-GWに関するセミナー(環境省HP:https://www.env.go.jp/earth/cop/cop29/pavilion/exhibition/details/016/)を、環境省・国立環境研究所とともに海洋研究開発機構が主催し、金谷がプレゼンテーションを、Patraがパネルディスカッションを行いました。金谷は、この衛星からどのようなCO2画像が得られるか、先端的な数値モデルを合わせて使うことで、発電所などの大きな排出源から、どこまで正確に排出量を推計できるかについて話題提供し、反響をいただきました。

Patraはパネルディスカッション冒頭で、GOSATなどの観測データから地表面におけるCO2の放出・吸収源を推定する手法の精度改善などについて報告しました。日本パビリオンの設営の考え方が変化し、応用研究により重点が置かれているように感じます。今年度の本セミナーでは、気候変動対策技術分野の新興企業家による興味深い講演が数多く行われました。これは歓迎すべきことですが、温室効果ガスの科学が、彼らの事業の将来計画において十分に考慮されていないと感じる場面が何度かありました。大気科学ではこれまでに大気中に放出されたすべての分子を説明しようとしている一方で、産業界のパートナー企業は、全体像からみると小規模な排出源で、大気中の濃度を左右するほどではない部分での排出削減の取組を進めているように見えます。こうした科学と産業の規模のギャップは現在大きく、GOSATのような測定システムによって埋め合わせる必要があります。私たちは、複数のトレーサー(CO2、メタン、NO2)をより高密度で測定できる最新世代のGOSAT-GWが、さまざまな規模のギャップを埋めるのに役立つだけでなく、新たな科学的理解をもたらすものと信じています。私たちのセッションでは、利害関係者に根拠に基づく科学を提供するために、既存の観測データの保存とアクセス、およびデータの品質管理・保証の重要性についても議論しました。

所感

EIDの用務以外では、日本パビリオンや、日本の海洋政策研究所を含む海洋関連団体が共同で開設している海洋パビリオンなどに立ち寄り、日本のCO2排出削減技術や、東南アジアにおける水産業の現状や気候変動の影響に関する話などを伺うことができ大変勉強になりました。また、地球規模の炭素収支データを毎年更新している「Global Carbon Project」のプレス発表も聴講しました。1.5℃目標と整合的な「カーボンバジェット」(排出できるCO2の上限値)は、現在の排出量換算であと4年分ほどしかないことは、頭では分かっていたものの、明確な数字を目にすることで一層の切迫感を感じました。
加えて、観測研究推進を政策面からも推奨する文書の文言検討会議など、ふだん科学研究に携わる筆者には多少縁遠い会議にも、省庁関係の参加者にお願いして同席させてもらいました。また普段は出会うきっかけもない人との会話の機会を得るなど、多くの経験ができたと思います。
開催国のアゼルバイジャンは、正直に言うと初めはどこにあるかも分からない国で親しみは感じなかったのですが、街並みも大変綺麗で交通網なども整備されていました。街中の大衆食堂で晩ご飯を食べたときには、店の人からデザートの果物のジャム漬けと名産のお茶を奢ってもらうといったこともあり、人々はフレンドリーな印象です。この地で開催されたCOP29の成果が、今後の気候変動対策を前進させるうえで有効なものとなるよう願っています。(河宮)

今回、海洋パビリオンを訪れた際には、海洋政策研究所の方の計らいで米国ウッズホール海洋研究所の方々とも親交を深め、今後の海洋観測の議論ができたことも収穫でした。また、個人的に現地の親切な方に助けられる場面もあり、国際的に協力しあう機運をより高めて行くことへの思いを新たにしました。険しい道であるからこそ、COPなどを通じた気候変動対策の道筋が確かなものとなるよう、地球や海の観測のデータやその分析情報を、不確かさや情報の使い方も含めて、わかりやすく発信し、社会に貢献してゆけたらと考えています。以下のYouTubeビデオ報告も作りましたのでぜひご覧ください。(金谷)

ビデオ報告

COP29および今後のCOPの課題の一つは、長期間にわたって自立的に持続可能で、「bankableな」(≒社会経済的に自走性のある)プロジェクトを特定し、推進することです。私は、再生可能エネルギーの協力促進、知識向上、導入および持続可能な利用を推進することを目的とする政府間組織であるIRENA(国際再生可能エネルギー機関)が主催する興味深いセッションに参加しました。現時点では、おそらく気候変動に配慮したプロジェクトはすべて、何らかの形で公的資金によって、良くても官民パートナーシップを通じた運営になっています。例えば、あるプロジェクトが豊かな国で優遇融資(政府補助金)を受けて成功したとしても、そのビジネスモデルは、南北間の格差が依然として存在し、あるいは拡大している限り、南半球の国々(例えば、バッテリー駆動の自動車)では実施できないでしょう。
さまざまな社会的・経済的条件のもとで、太陽光発電や風力発電プロジェクトが利益を生み出すための課題は、非常に大きなリスクを伴うものです。私は、アフリカ(フィジー、エチオピア、ケニアなど)における再生可能エネルギーのパートナーシップを支援する世界のリーダー(ドイツ、ノルウェー、デンマーク、サウジアラビアなど)のセッションに参加し、そのことを理解しました。しかし、パリ協定の野心的な目標を達成するための気候条約の成功は、今後数年間/数十年間に各国政府が最も緊密な同盟国とどのように交渉するかにかかっています。(Patra)

写真1
Earth Information Day の前半、プレナリーセッションの様子。
写真2
Earth Information Day の後半、「緩和のための観測」の様子(話者:金谷)。(写真撮影:国立環境研究所 佐伯田鶴)
写真3
日本パビリオンの様子。
写真4
日本パビリオンセミナーでの話題提供(左:金谷)とパネルディスカッションでのコメント(右:Patra)。