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研究者コラム

データサイエンスで解き明かすマグマ活動とプレートテクトニクスの関係

記事

上木 賢太 副主任研究員 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 固体地球データ科学研究グループ

地球上では、なぜ多種多様なマグマが活動しているのでしょうか?その秘密はプレートテクトニクスにあります。データサイエンスを駆使して地球全体のマグマの化学組成を数理解析することで、プレートテクトニクスとマグマ活動の関係を明らかにしました。一見遠くにある数理と地球科学が出会ったことで始まった新しい研究のあらましを紹介します。

なぜ地球科学とデータサイエンスなのか?

私の研究の大きな目標は、なぜ地球上には多様なマグマや火山が活動しているのかを理解するということです。そのためには、溶岩の化学組成が大きな武器となります。地球上には約1350の活火山が存在しています(アメリカ地質調査所の試算 https://www.usgs.gov/faqs/how-many-active-volcanoes-are-there-earth)。過去の活動も含めるとさらに多くの火山が存在しており、世界中の研究者の手で多数の研究が行われています(図1)。そのため、溶岩の化学組成データの数も膨大なものとなります。1つの岩石からも、様々な分析手法により多数の元素濃度や同位体比を得ることが出来ます。それぞれの元素や同位体比がそれぞれマグマの起源に関する重要な情報を持っており、どの元素も余すことなく解析して情報を引き出すことが理想です。小数のサンプルに基づいた定性的な解釈や経験的な手法を用いるこれまでの方法ではなく、多数のデータを定量的に扱う方法がないだろうかと常々考えていたなかで、数理解析の方法が近年急速に発達し、自然科学も含む多様なデータに適用されつつあることを知りました。この研究で私たちは、データサイエンスを駆使し、特にプレートとマグマの活動の関係に着目して、全世界のマグマの化学組成を解析しました。

マグマとプレートテクトニクスの関係に注目して全世界のマグマを解析する

地球表面には他の惑星には見られないプレートテクトニクスと呼ばれる運動が起きており、地球は太陽系の惑星の中でも大きな特徴を持った惑星と言えます(図2)。例えば、日本列島のようにプレートが他のプレートの下に沈み込んでいる場所では多くの火山が存在しているなど、プレート運動とマグマ生成は強く関係していることが知られています。私たちは「プレートが沈み込んでいる場所で生まれているマグマ」「プレートが生まれている場所で噴出しているマグマ」「プレート運動とは無関係に噴出したと考えられるマグマ」など、異なる場で生じたマグマ同士を比較しました。これらの異なる場で異なる種類のマグマが生成されていることは分かっていましたが、その関係をきちんと解明した研究はこれまでほとんど行われていませんでした。なぜなら、全地球をまとめて議論するためには、大量のサンプルのデータを扱うことが必要となること、元素濃度や同位体比など多数の化学的特徴を同時に解析する必要があること、そして、場の情報という、数値データではない情報を取り扱う必要があったからです。地球科学の研究としては、精度の高い解析を行うことに加えて、マグマの生成や地球内部の物質循環に関わる情報をいかに引き出せるかも重要です。地球科学の研究者である私たちと数理科学の研究者との共同研究によってこの問題を克服し、プレート運動とマグマ生成の関係を定量的に示すことに成功しました。

図1 様々な場で噴出するマグマ。①は大西洋の海底の枕状溶岩、②はハワイ島で流下する溶岩、③は海域火山である伊豆大島(2022年1月、鬼界カルデラから横須賀への帰路の「かいめい」船上より撮影)、④は岩手山(岩手県)の写真です。それぞれ、図2の中央海嶺、海洋島、海洋性島弧、島弧に相当します。枕状溶岩の写真はJAMSTEC画像ギャラリーより、その他の写真は筆者が撮影。

マグマとプレートテクトニクスを数式で表す?地球科学の問題を数理の問題にするには

私たちは、マグマが噴出している場所のプレートの種類や、拡大、沈み込みというプレート同士の相互作用に着目しました(図2)。過去の研究に基づいて、プレートとの関係からマグマ活動の場を定義しました。中央海嶺と呼ばれる場所では、海洋プレートの拡大に伴ってマグマが噴出し新しい海洋地殻が形成されています。日本列島周辺のようなプレート沈み込み帯でもマグマ活動が活発であり、海洋プレートが海洋プレートへ沈み込む場(海洋性島弧)、海洋プレートが大陸への沈み込む場(大陸弧)、日本列島のような大陸縁辺部に発達した列島に海洋プレートが沈み込む場(島弧)でのマグマ活動の3種類に分類されています。このほかに、ハワイのように海洋プレート内で噴出するマグマ(海洋島)、海洋および大陸プレート内で過去に起きた超巨大噴火のマグマ(それぞれ、海台と大陸洪水玄武岩)、そして、背弧海盆と呼ばれる沈み込み帯の背後で起きるマグマ活動の合計8つの場を研究対象としました(図2)。これまでに全世界から報告された研究結果をとりまとめ、それぞれの場についてそれぞれ数100、全体で2000点以上の岩石の化学分析値を収集しました(図3)。「スパースロジスティック回帰」と呼ばれる数理解析手法を用いて、複数の場(図2)を比較・分類し、それぞれのマグマ活動場を特徴付ける化学的特徴を抽出しました(図4)。この手法では、マグマの化学組成と、個別のサンプルがそれぞれの場に所属する確率を数式でモデル化して、特に重要な特徴を探します。元素濃度、同位体比や元素同士の比、掛け算など、850個以上の化学的指標を同時に解析しました(図4)。

図2 この研究で取り扱ったマグマ活動場とプレートの関係を示した地球断面の模式図。矢印で、プレート運動やマントル対流を模式的に表しました。中央海嶺で産まれた海洋プレートは、プレートテクトニクスによって地球表面を移動し、大陸や海のプレートの下に沈み込んでいきます。地球表面では、これらのプレート拡大(中央海嶺、背弧海盆)や収束の場(海洋性島弧、大陸弧、島弧)でのマグマ活動に加えて、プレート運動よりも深部のマントルの対流に由来するマグマ(海洋島、海台、大陸洪水玄武岩)も活動しています。

この研究でわかったこと -プレートがあるから多様なマグマが産まれる-

私たちの研究によって、異なる場で生じているマグマはそれぞれ異なった化学的特徴を持つことが明瞭に示されました。それぞれの特徴を詳細に検討した結果、これまでに提唱されていたプレート拡大・プレート沈み込み・プレート内という多様性に加えて、マグマが噴出する地表のプレートの種類がマグマ生成の仕組みを大きく左右することがわかりました。つまり、大陸と海洋という異なる2種類のプレートが存在すると共に、それらの相互作用によって様々なプレート境界が存在する地球だからこそ、太陽系の惑星の中でも特に多様なマグマ、つまり火山活動が起きていると言うことになります。また、様々な場のマグマの特徴を理解した副産物として、逆に、岩石の化学組成を元にマグマが生じた場を推定するモデルを構築することもできました。このモデルは、過去のプレートテクトニクスの復元や、複数のプレートが関与する複雑な場で生じているマグマの特徴付けなどに活用することができます(図5)。

図3 本研究で扱ったサンプルの分布地図。シンボルの色がマグマ生成場(図2)の種類を表します。様々な研究で公表されていたデータをとりまとめ、全世界の2000を越える分析値を用いてデータ解析を行いました。原図はUeki et al. (2022)より。
図4 本研究で行った数理データ解析の実例。中央海嶺と大陸弧での解析を示しました。1本1本の線が個別の化学的特徴を表しています。横軸は変数の少なさに関する数式上の制約を表し、左側ほどより小数の重要な特徴を含むモデルとなります。縦軸は特徴の相対的な強さを表しています。変数の数の少なさの制約(横軸)がこの研究のキーポイントです。研究の目的に応じてこの値を変化させることで、多量の特徴から少数の重要な特徴を取り出すことや(Ueki et al., 2022での研究)、未知のデータにも対応できる分類能力が高いモデルを構築することができます(Ueki et al., 2018および2024での研究)。原図はUeki et al. (2022)より。
図5 Ueki et al. (2024)を用いた、溶岩化学組成の解析例。数字が、溶岩がその場に所属する確率を表します。岩手山(図1)の岩石を解析した結果、64%の確率で島弧であると計算されました。岩手山の溶岩の化学組成はUeki and Iwamori (2017)で報告された分析値を使用しました。

このアプローチだからできたこと -大量のデータから小数の重要な特徴を見つける-

2000個以上のサンプルと850個以上の化学的特徴という多数のデータを同時に解析したこと、また、元素濃度や同位体比と言った数値データ以外に、マグマが生成する場のプレートの状態という数値データ以外のデータも扱ったことが大きな特徴です。また、私たちの研究では、スパースモデリングと呼ばれる近年急速に進展している数理解析手法を用いることで、元素濃度および元素同士の比や掛け算、そして同位体比という多数の化学的特徴から、本当に重要な情報を持つ小数の化学的特徴を取り出すことができました。私たちの用いた数理解析手法は、多数の特徴の中でどの特徴が特に重要かを教えてくれるのです。多数の特徴を同時に解析しながらも重要な小数の特徴に集中した議論を行うことが可能となるため、私たちの手法で得られた結果は高い解釈性を持ち、地球科学的な議論を広く展開することができます。また、個々の研究者の経験に頼るのではなく、数式で表現し、アルゴリズムに沿って解析が行われているため、再現性と客観性があることも科学として重要な点です。

地球科学と数理科学の化学反応が生み出すエキサイティングな最先端

データサイエンスを用いた地球科学研究は近年全世界的に盛んになりつつあり、新しい研究が次々と行われています。私たちのグループは、データサイエンスを用いた地球化学や地質学研究に関して世界の先端に位置していると自負しています。岩石学や地質学は一見数理とは遠い世界にある学問ですが、数理を用いることで、岩石から地球内部で起きている現象を明瞭に理解することが出来ることをこの一連の研究で示すことができました。数理解析を専門とする共同研究者と議論を進め、地球科学の問題を数理の問題として表現しました。プログラムや解析手法の改良も行うことで、最終的に私たちが使っている手法にたどりつきました。研究を進める中で、このように応用すると良いのでは?このようなことも分かるのではないか?など、次々に議論とアイデアも生まれ、研究がさらに進んでいきました。地球科学と数理科学が本当の意味で融合した研究となったと思います。手法には応用性があり、この手法を元に、地震の規模やプレートの運動の解析に応用した共同研究も行いました。鬼界カルデラの調査航海の間の台風避泊で八代海に碇泊している間にこの研究に関する論文の原稿を執筆したのも良い思い出です(図6)。

図6 八代海に沈む夕陽。2020年10月、鬼界カルデラの調査海域から離れて台風避泊中の「かいれい」船上より筆者が撮影。

データサイエンスによる新しい世界と未来の地球科学

データサイエンスを用いた地球科学研究を進めるためには、まず私たち地球科学者自身が地球科学の未解明問題をきちんと整理し、数理の問題として落とし込む必要があります。また、使用できるデータをきちんととりまとめることも重要で、必要な場合は野外調査や新しい化学分析も行います。マグマ活動や火山活動については、まだまだ分かっていないことがたくさんあります。データサイエンスは強力ですが、地球科学をしっかりと理解して好奇心と疑問を持つことが研究の根本です。その上で、新しいデータサイエンスの手法も用いて、これまでは解析出来なかったようなデータを取り扱って見つけることが出来なかった情報を引き出し、地球全体を理解していきたいと思います。

参考文献

Kenta Ueki, Hideitsu Hino, Tatsu Kuwatani (2024), An introduction to SGTPPr: Sparse Geochemical Tectono-magmatic setting Probabilistic membershiP discriminator, Geochem. Geophys. Geosyst., vol. 25, 2, e2023GC011237, doi: 10.1029/2023GC011237
Kenta Ueki, Hideitsu Hino, Tatsu Kuwatani (2022), Extracting the geochemical characteristics of magmas in different global tectono-magmatic settings using sparse modeling, Frontier. Earth. Sci., vol. 10, 994580, doi: 10.3389/feart.2022.994580
Kenta Ueki, Hideitsu Hino, Tatsu Kuwatani (2018), Geochemical discrimination and characteristics of magmatic tectonic settings; a machine learning-based approach, Geochem. Geophys. Geosyst., vol. 19, pp. 1327–1347, doi: 10.1029/2017GC007401
Kenta Ueki, Hikaru Iwamori (2017), Geochemical differentiation processes for arc magma of the Sengan volcanic cluster, Northeastern Japan, constrained from principal component analysis, Lithos, vol. 290–291, pp. 60–75, doi: 10.1016/j.lithos.2017.08.001