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研究者コラム

ラニーニャ現象の発生と今後の見通し

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付加価値情報創生部門 アプリケーションラボ

2023年春に発生した太平洋熱帯域のエルニーニョ現象は、2023年末に過去最強クラスにまで成長した後、徐々に衰退し、昨年の春の終わり頃に終息しました。それから弱いながらもラニーニャ現象発生の兆候が見えていましたが、先月それが急激に発達し、ラニーニャ状態になりました。
アプリケーションラボの予測システムでは、昨年11月1日時点で、それをよく予測できていました(図1)。また12月-2月の平均値としては、カリフォルニア州南部やアリゾナ州などで、高温・小雨を予測していました(図2)。実際に、同地域は高温・小雨になっており、甚大な被害を及ぼしているロサンゼルスの山火事の一因になっていると考えられます。最新の予測では、3月-5月の平均値も同地域で高温・小雨を予測しており、山火事の被害の拡大が懸念されます。
世界各地に異常気象を起こす熱帯海洋の動向に今後も注意していく必要があります。アプリケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションの結果は毎月更新されます。最新情報は、SINTEX-FのHP季節ウォッチAPL Virtualearthなどをご参照ください。

ラニーニャ状態の予測について

1月10日に、気象庁エルニーニョ監視速報(No.388)で、ラニーニャ現象に近い状態となっていると速報がありました。また、アメリカ海洋大気庁では、海表面や海中の水温、風や対流活動などから、ラニーニャ状態になったと報告しています(参照)。

スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使ったアプリケーションラボの予測システム(注1)では、昨年11月1日時点で、昨年12月のラニーニャ状態を予測できていました(図1)。典型的なタイプより、中央部で海面水温が低くなるモドキタイプにやや近いようです(注2)。その後、春および夏にかけて、ラニーニャ状態は終息し、熱帯太平洋は平年並みの状態になると予測しています。2026年にはエルニーニョ現象が発生する可能性がやや高いと予測しています。

図1: エルニーニョ・ラニーニャ現象の指数(単位は°C)で、熱帯太平洋中央から東部にかけた領域(小さい地図の赤色の領域)の海水温の異常値から計算される(単位は°C)。0.5ºC(–0.5ºC)より高(低)くなれば、エルニーニョ(ラニーニャ)状態と考えられる。黒線が観測で、2024年11月1日時点で予測したのが色線。SINTEX-F2と呼ばれる気候モデルを用いて、海面・海中の観測データを初期値に取り込み、初期値作成方法やモデルの設定を様々な方法で少しずつ変えて、スーパーコンピュータで12通りの予測実験を行った(アンサンサンブル予測と呼ぶ、青色の線:アンサンブル平均値、水色の線: 各アンサンブルメンバー)。アンサンブルメンバーの平均値が、昨年の12月から-0.5ºCを超えて下がっており、ラニーニャ状態になることをよく予測できていた。

今冬の予測について

熱帯太平洋中央部が平年より低く、東部と西部が平年より高いことから、上述した通り、典型的なラニーニャタイプより、中央部で海面水温が低くなるラニーニャモドキタイプにやや近いことが見てとれます(図2)。また、カリフォルニア州南部やアリゾナ州などで、高温・小雨傾向を予測しています。ラニーニャ発生時の冬は、米国南部の広い領域で小雨傾向、米国南東部において高温傾向になることが知られています(参考)。

図2: 上段:SINTEX-F季節予測システムで、2024年11月初旬時点に予測した2024年12月から2025年2月の3ヶ月で平均した地上気温(ºC)について、12月から2月の平年値(1991-2020年平均)からの差を図示したもの。暖(寒)色が平年より気温が高(低)いことを示す。僅かに条件を変えた108通りの予測計算の平均値(アンサンブル平均値)を示す。ドットを付けた場所は、アンサンブル平均値とアンサンブルスプレッド(108通りのアンサンブルメンバーの予測のバラツキ)の比が1以上で、ノイズに対して予測シグナルが強い領域を示す。下段は降水量(mm/day)について。緑(茶)色が平年より多雨(小雨)を示す。

春の見通し

熱帯太平洋中央部の低温は弱くなり、熱帯太平洋は平年並みの状態になると予測しています。また、カリフォルニア州南部やアリゾナ州などで、高温傾向(と僅かな小雨傾向)を予測しています(図3)。

図3: 図2と同様だが、2025年1月初旬時点に予測した3月から5月の3ヶ月で平均した予測値(24通りのアンサンブル平均値)。

注1:アプリケーションラボのSINTEX-F(注3)と呼ばれる予測シミュレーションは、24ヶ月先のエルニーニョ予測やエルニーニョモドキ予測情報も準リアルタイムに提供しています。このような長いリード時間の予測情報を毎月提供しているのは世界でも唯一です。リードタイムが長くなるほど、その予測精度も低下していきますが、ある程度の予測が可能であることは学術誌で報告しています(例えば、Luo et al. (2008)Behera et al. (2020))。2024年からは、機械学習(畳み込みニューラルネットワーク)を使ったエルニーニョ2年予測も提供しています(詳細はPatil et al. (2023))(詳しくはSINTEX-FのHP)。

注2: アプリケーションラボでは、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の事例毎の多様性に着目し、典型的なエルニーニョ現象やラニーニャ現象とは似て非なるエルニーニョモドキ現象、ラニーニャモドキ現象を見出し、国際的に研究を推進してきました。ラニーニャ現象は、熱帯太平洋の東部で海面水温が平年より低くなりますが、ラニーニャモドキ現象は、熱帯太平洋の東部と西部で海面水温が平年より高くなり、中央部で海面水温が低くなります。ラニーニャモドキ現象に伴う偏差(平年からの差)の符号が逆である現象が、エルニーニョモドキ現象です。エルニーニョ現象に似て非なることから、アプリケーションラボの山形俊男博士らによりエルニーニョモドキ現象と名付けられました(詳しくは、こちら)。典型的なタイプとモドキタイプがそれぞれ世界各地へどのように影響するのかは、現在も活発に研究されています。

注3: SINTEX-F予測シミュレーションは、海洋観測とコンピュータのリレーのようなシステムです。まず、はじめに、予測開始時点での、海の水温の状況をよく知る必要があります。熱容量の大きい海の水温が、平年と違った状況にあると、数ヶ月先でもその情報が消えず、エルニーニョ現象やダイポール現象を引き起こす“種”の役割をします。現在は、人工衛星や、係留ブイ、アルゴフロートと呼ばれる自動浮き沈み測器などによって、時時刻刻と変化する海面および海中の水温を、リアルタイムで観測することができます。その情報を気候モデルに教え込むことで、将来の予測シミュレーションを実施します。リアルな海からバーチャルな海へのバトンパスともいえます。気候モデルとは、海だけでなく空-陸-海氷などに対して、主に物理法則に従って、10分程度の未来を計算できる数式の集まりで構成されており、この計算を繰り返すことで、何ヶ月も先の未来の状況を予測計算できるソフトウェアです。気候モデルの源流は2021年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士の研究にあります(2021年10月5日既報)。その膨大な計算を実行するにはスーパーコンピュータが必要です。海洋研究開発機構は、海洋観測システムの発展に尽力していると共に(例えば、“【アルゴ2020】アルゴフロートで世界の海を測って20年”TRITONブイ動物由来の海洋観測データの利活用など)、世界有数のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を有します。アプリケーションラボでは、それらを効果的に使い、エルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象の発生予測だけでなく、それらの世界各地の気候への影響を予測(季節予測とも呼びます)する技術を磨いてきました。またそれを社会問題の解決に応用する術も研究しています。その先駆的な成果の詳細は、SINTEX-FのHPアプリケーションラボのトピックスをご覧ください。

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