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JAMSTEC探訪

大量絶滅から日本海の謎まで――コア試料に刻まれた地球史 ~地球科学史を保管する研究所!<後編>

古気候研究から大量絶滅の痕跡まで

――それでも古気候の研究には役に立つんですか?

もちろん深いほど古いことがわかるのですが、昔のものほど長い時間をかけて変質していたり、地層のつながりがわかりにくかったりすることも多いので、浅いところのものでもいいから、連続性がきれいにわかるきれいなコア試料がほしいという人も多いです。

コア試料に入っているプランクトンの死骸を使ってさまざまな元素の同位体を調べることで、それぞれの時代の温度などがわかります。

また、環境の変化を知る上でとくに注目されるのは、たとえば、北極海と太平洋をつなぐベーリング海のように、二つの海域をつなぐ場所で採取されたコア試料。そういう場所で海水の入れ替えがあったか、なかったかによって、地球全体の気候が大きな影響を受けます。

――たとえば恐竜を絶滅させたといわれる隕石が衝突したときの痕跡なども、コアから読み取れたりするのでしょうか?

はい、隕石が落ちたメキシコ湾でサンプルを採取すれば、恐竜が絶滅したときに何が起きたのかはわかります。ここにあるのはインド洋のコア試料なので、メキシコ湾から見ると正反対の場所になりますが、隕石衝突が全地球的に及ぼした影響はわかりますね。化石の種類や同位体を調べると、そこを境に前の時代とは大きく異なる変化が見て取れます。

生物の大量絶滅というと、「海洋無酸素事変」というのもありますよね。これは、海が淀んで閉ざされた池みたいになっていまい、上のほうには酸素があるけれど、下のほうは酸欠状態になったという時期です。それについても、コア試料の有機物の変化などを調べて研究している人がいます。

写真・地球史における大量絶滅イベントとして知られる「海洋無酸素事変」の痕跡を残すコア試料。
/撮影:市谷明美・講談社写真部

日本海の歴史を記録したコア試料

――酸素が多いか少ないかでコア試料の状態が変わるんですか?

無酸素まで行かない変化でも、酸素の量によって色が敏感に変わったりします。じつは、それがよくわかるのが日本海のコア試料なんですよ(写真)。日本海は狭くて閉鎖的な領域なので、外海の水が流入したり、逆に周囲と隔離されて淀んだ状態になったりすることで、酸素の量が変化しやすいんです。それを反映して色が変わるので、ご覧のとおり、きれいな縞模様が見られます。

写真・日本海海底下から採取されたコア。縞模様は酸素量の変化や生物相の変化を記録している。
/撮影:市谷明美・講談社写真部

それ以外の点でも、日本海は比較的高い解像度が求められる研究に適した場所です。気候変動などで、短い時間スケールで起こった地球規模の変動を知ることができるコア試料は、日本海で採取しやすいんですね。また、陸地に近いところでは、花粉やキノコの胞子なども含まれているので、その時々の植生や気候などがわかります。

写真・高知コア研究所にはさまざまなコア試料が保管されている。このコア試料はインド洋海底から採取されたコア試料。縞状になっている色の薄い部分が、ヒマラヤ山脈の砂と同じものであることから、ヒマラヤ山脈から流れ出た砂がインド洋に堆積していることがわかる。/写真提供:JAMSTEC

国際研究で進んでいるコア試料の掘削!

――では、欧米の船も日本海にはよく来るんでしょうね。

2013年に日本海を科学掘削した際はライザーレス掘削が得意な米国の科学掘削船が用いられました。

写真:地球深部探査船「ちきゅう」(左)と米国の科学掘削船「ジョイデス・レゾリューション」(右) /写真提供:JAMSTEC・左、IODP/JRSO・右

――ここまでのお話をうかがって、やはり地球の過去を知るにはコア試料が重要な役割を果たすことがよくわかりました。ほかにも何かわかることはありますか?

たしかにコア試料には過去の環境が記録されているので、それはきわめて大きな意義ですが、それと同時に、現在もそこで暮らしている微生物もいるんです。100万年前に死んだ生物だけでなく、100万年前からずっと生き続けている生物もいる。ですから、過去の地球環境に加えて、コア試料からは現在の地球がどうなっているのかも見えてくるんですね。

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