世界に3ヵ所あるコア保管庫のひとつである、高知コア研究所。そこには、インド洋〜西太平洋域で採取されたコア試料がおよそ20万本保管されています。日本が誇る、地球深部探査船「ちきゅう」をはじめとする科学掘削船が海底下から採取してきたコア試料は、科学的情報の宝庫のようなものと言えるでしょう。ここで管理されているコアには、多様な分野の研究者から「こういう試料がほしい」というリクエストが届きます。
前編「巨大噴火や巨大地震の痕跡――地球科学史を保管する場所」では、海底下コア試料とは何か? その歴史やコア試料の保管・活用について紹介しました。
いよいよ本記事では、コア試料が物語る地球の「過去」と「現在」は、どのようなものなのか? 貴重なコア試料を見せていただきながら、「JAMSTEC 高知コア研究所」技術支援グループの久保雄介さん(IODPキュレーター)に教わります。
久保 雄介
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC) 高知コア研究所 技術支援グループ
IODPキュレーター
2億3000万年前のコア試料には!?
――さまざまな分野の研究者がコア試料を使うということですが、その中でもいちばんリクエストが多いのはどのようなジャンルでしょうか。
年間150件程度のリクエストがあるうち、100件ぐらいは地球環境の変化に関わるものです。やはり、コア試料の使いみちとしてはそれが第一でしょうね。環境というテーマは幅が広いので、数百万年前のことを知りたい研究者もいれば、ごく最近の状態を知りたい人もいます。調べる対象もさまざまで、微化石、花粉、粘土の粒など、環境変化の研究方法は無数にあります。
たとえば、これはオーストラリアの北西で採取された三畳紀のコア試料で、2億3000万年前のものと推定されています(※写真)。ところどころに点在している白いものは、貝殻。しかし、同じ場所で採取した別の時代のコア試料には、この貝殻はまったく見られません。特定の時代のコア試料にしかないので、海流など当時の環境が反映されていると考えられます。
ちなみにこの三畳紀のコア試料は、この保管庫の中ではダントツに古いものです。海底下の地層は動いているので、古いものはどんどん沈み込んでいってしまうんですね。だから1億年以上前のコア試料はあまりありません。日本周辺の海底には、せいぜい2000万年前までの地層しかないんです。