南海トラフでは、繰り返し大地震が発生してきたことが歴史記録で明らかにされています。南海トラフの大地震が発生する震源域は、海底地形等の特徴から東西方向に5つ程度のセグメントという領域に区分されています。その東端部を構成する遠州灘(東海沖のセグメント)では、他の南海トラフのセグメントと異なる間隔で歴史地震が起きたことで注目されています。東海沖のセグメントを破壊した最近の地震は1854年の安政東南海地震であると考えられています。南海トラフで次に起きた1944年の昭和東南海地震は、東海沖のすぐそばで起きたのですが、地震破壊は東海沖のセグメントまで伝わらなかったとされています。
これを説明する一つの仮説として、東海沖のセグメントは他のセグメントに比べて、地震の発生間隔が長いということが考えられます。東海沖ではプレート境界にリッジ(注1)が沈み込んでいて地震発生が抑制されてきた可能性が挙げられています。また別の仮説は、昭和東南海地震で東海沖のセグメントが壊れなかったのはたまたまで、発生間隔は他のセグメントと変わらないため、今後地震がいつ起きてもおかしくない、という従来の考え方です。
こういった考えを検証するには過去に遡って東海沖のセグメントの地震発生間隔を調べることが必要ですが、それを調査するのに十分な過去の地震記録がありませんでした。そこで遠州灘で海底堆積物を採取し、地層の中に含まれる地震により形成されたタービダイト(注2)という層の年代を知ることで、過去の地震発生の周期を調べることを計画しました。今回の計画では、既存の報告を参照し、タービダイトが古い時代から連続して堆積したと考えられる海底において、地球深部探査船「ちきゅう」による試料採取を実施しました。(図1)
「ちきゅう」の掘削により厚さ80m以上の連続した地層を回収しました。そのうち上部のおよそ40mの地層には、およそ200枚のタービダイト層が周期的に挟在していました(図2)。既存の研究で明らかにされている堆積速度に基づくと40mの地層の形成には4−5万年かかり、ここに約200枚のタービダイトが挟在することから、平均的なタービダイトの堆積間隔は200年程度と考えられました。
地震性と考えられるタービダイトが、4−5万年の堆積期間分、連続的に採取されたのは今回が初めてです。また、陸上の津波堆積物では数万年前になると海面の高さが変動する影響で記録が残らないため、今回のような長期間の記録の採取は非常に貴重です。
今後、採取した地層の詳細な年代を測定し、タービダイトの堆積間隔を検討していく予定です。南海トラフ地震は通常100-150年周期と言われていますが、それに比べて遠州灘の地震周期が、どのような間隔であるのか、過去の多くの繰り返し事例を持って明かされることが期待できます。