2018年2月号:春の気配

写真:春の気配を感じさせるポートランド

2年に一度、海洋科学に関する世界最大級の国際会議がアメリカで開かれます(OSM)。今年は西海岸のポートランドで開催され、当ラボからも多くの研究者が参加しました。写真は、ポートランドを流れるウィラメット川沿いの風景です。ポートランドは北海道より少し緯度が高いのですが、日中の気温が5度くらいまで上がり、春の気配が少し感じられます。一方で、日本は依然として寒い日が続いています。今年の冬は平年に比べて寒くなりましたが、背景には熱帯太平洋で発生している弱いラニーニャ現象や、シベリアや北太平洋で発生した大気のブロッキング現象などが関わっています(JAMSTECコラム気象庁)。これから季節が変わりますが、日本を含む世界の春の天候が気になりますね。

SINTEX-Fの季節予測によると、今年の3月から5月は、ユーラシア大陸の多くの地域で気温が平年より高く、アメリカ北東部やブラジル、西アフリカ、アフリカ南部、インドシナ、オーストラリア北部などで気温が平年より低くなる見込みです。また、フィリピンやメキシコ、エクアドル、ブラジル北東部、中央アフリカ、アフリカ南部などで雨が平年より多く、インドネシアや東アフリカ、中国南部、アメリカ東部などでは雨が少なくなる見込みです。

原因の1つとして挙げられる熱帯域の気候変動現象ですが、太平洋では熱帯域の西部で海面水温が平年よりわずかに高くなり、中央部から東部でわずかに低くなる、弱いラニーニャ現象の状態が続きそうです。このため、フィリピン周辺の海域で対流活動が強まり、特にフィリピンでは雨が平年よりも多くなる可能性があります。

今年の3月から5月までの気温と降水量は?

図1 2018年3月から5月までに予測される地上気温の平年差(ºC)。 予測開始日は2月1日。

今年の3月から5月までに予測される世界の気温です。SINTEX-Fの予測によると、ユーラシア大陸の多くの地域(西欧を除く)で気温が平年より高くなりそうです。一方で、アメリカ北部やカナダ南部、ブラジル北部やペルー、エクアドル、さらには、インドシナやオーストラリア北部、西アフリカやアフリカ南部などで、気温が平年より低くなる見込みです(図1)。

図2 2018年3月から5月までに予測される降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は2月1日。

次に、今年の3月から5月までに予測される世界の降水量を見てみましょう。SINTEX-Fの予測によると、フィリピンや中央アフリカ、アフリカ南部、メキシコ、ブラジル北東部、エクアドルなどでは、雨が平年より多くなりそうです(図2)。一方で、インドネシアや東アフリカ、中国南部、アメリカ東部、ブラジル北部などでは、雨が平年より少ない見込みです。

また、日本の春は、気温が平年より高く、雨がわずかに少なくなりそうです。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の予測情報に注意してください。

図3 2018年3月から5月までに予測される海面水温の平年差(ºC)。予測開始日は2月1日。

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海面水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな海面水温の変動が世界の気候に影響をもたらします。

SINTEX-Fの予測によると、今年の3月から5月まで太平洋の熱帯域は、西部で海面水温が平年よりわずかに高く、中央部から東部でわずかに低くなる、弱いラニーニャ現象の状態が続く見込みです(図3)。一方、インド洋の熱帯域は、海面水温が平年並みの状態が続く見込みです。

図4 2018年2月以降に予測される、エルニーニョ指数とインド洋ダイポール指数(ºC)。予測開始日は2月1日。青線が観測値、灰線が9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤線が9つのグレーの予測値の平均値。

これらの海面水温は今後どのように変動していくのでしょうか?そこで、海面水温の変動が最もよく現れる海域で平均した海面水温の平年差を見てみます。エルニーニョ指数を見ると(図4上段)、今年の3月までわずかにマイナス0.5度を下回り、5月まで弱いラニーニャ現象の状態が続きます。その後、夏には平年並みの状態になりそうです。弱いラニーニャ現象の状態は、他の研究機関の予測結果でも見られます(IRI ENSO Forecast)。一方、熱帯インド洋の気候変動現象であるインド洋ダイポール現象の指数を見ると(図4下段)、平年並みの状態がしばらく続き、夏以降に正のインド洋ダイポール現象が発達する見込みです。ただし、予測値(9つの灰色線)のばらつきが大きいので、今後の予測情報に注意してください。

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象だけでなく、インド洋に発生するインド洋ダイポール現象なども大きく影響を及ぼすことが分かっています。今年の3月から5月は、インド洋は平年並みの状態が続きますが、太平洋の熱帯域では弱いラニーニャ現象の状態が続き、特にフィリピンで雨が多くなる可能性があります。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意してみていきましょう。