2020年の親潮をアニメーションで振り返る (親潮ウォッチ2021/1)

まとめ

    • 北海道南の暖水渦が以前より東に寄っています。
    • そのため沿岸寄りの親潮の南下①(親潮第一分枝[1])は平年並みです。今後は平年並みか平年以上に南下しそうですが、3月ごろから別の暖水渦が北上してきて親潮をふさぐ可能性があります。
    • 沖側の親潮の南下②(親潮第二分枝[1])は平年以上に南下しており、それが続きそうです。
    • この記事の後半では、アニメーションで2020年の親潮を振り返ります。
Fig1

図1: 親潮状態の説明図。

 

見通し(長期予測)

海洋予測モデルJCOPE2Mで、約2か月先までの予測を行っています。図2はJCOPE2Mによる水深100メートル[2]での12月2日の水温(色、℃)と流れ(矢印)です。赤色が黒潮の影響を受けた暖かい水温で、青色が親潮の影響を受けた冷たい水温です。親潮の影響を受けている範囲の指標として、水温5°Cに太い黒線を引いています

北海道南に暖水渦(A)が継続して存在していますが、以前より東に寄っています。そのため以前より親潮が南下しやすくなっており、沿岸付近では水温5°C線(黒太線)が平年の位置(青線)に近くなっています。

図3は図2に対応する2021年1月15日から3月16日までの予測をアニメーションにしたものです。3月ごろから別の暖水渦が北上してきて親潮をふさぐ可能性があります。

Fig2

図2: JCOPE2Mによる2021年1月15日の水深100メートルでの水温(色、℃)と流れ(矢印)。赤色が5°Cより高い黒潮の影響を受けた暖かい水温で、青色が5°Cより低い親潮の影響を受けた冷たい水温。親潮の影響を受けている範囲の指標として水温5°Cに太い黒線を引いた。細い青線は1993-2018年平均の水温5°C線で平年の親潮の影響範囲。

 


図3: 図2に対応する2021年1月15日から2021年3月26日までの予測のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

詳細(短期予測)

より高い水平分解能のモデルJCOPE-T DAで短期予測(約10日先)も行っています。毎日更新されるJCOPE-T DAの予測は、JAXAが提供を開始した可視化サイトで見ることができます。図の見方は「JAXAと共同で新しい海洋予測を開始」で解説しています。

図4は「1. 人工衛星「ひまわり」観測とJCOPE-T DAを比較するサイト」で親潮付近を見たものです。時間は2021年1月18日5時台(日本時間)の1時間平均で、左が気象衛星「ひまわり8号」による海面水温の観測、右がJCOPE-T-DAによる海面水温の推定値です。

人工衛星では雲で観測できないところまで、モデルでは水温を推定しています。渦(A)の合間をぬって細く南下する冷水(点線)がある様子が見えています。

Fig4

図4: 「人工衛星「ひまわり」観測とJCOPE-T DAの比較するサイト」で親潮付近を拡大した図。時刻は2021年1月18日5時台(日本時間)の1時間平均。左が気象衛星「ひまわり8号」による海面水温の観測。灰色でデータが無い場所は雲などで観測できなかった所。右がJCOPE-T-DAによる海面水温の推定値。

 

図5は2021年1月19日午前9時から1月29日午前9時までの予測のアニメーションです。左が海面、右が水深100mです。右の水深100mの図には、親潮の勢力の範囲の指標として、水温5℃線を黒太線線にしています。JCOPE-T DAは潮の満ち引きも計算しているので、1時間ごとの図でアニメーションにしています。

最新の予測は上記JAXAの可視化サイトでご確認ください。


図5: 2021年1月19日午前9時から1月29日午前9時までの1時間ごとの予測のアニメーション。左が海面、右が水深100m。矢印(ベクトル)が海面の流れの向きと強さ(メートル毎秒)。色が海面水温(℃)。温度の等温線も2℃ごとに白色で加えてある。水深100mの右の図には親潮の勢力の指標として水温5℃の等温線も黒太線で加えている。クリックして操作してください。全画面表示にしたり、途中で停止したりできます。

 2020年の親潮 (1) 水深100mの水温と流れ

2020年の親潮の状況を振り返るために、図6に図3に対応する昨年2020年の1月1日から12月31日までのアニメーションを作成しました。その中から1月15日、4月15日、7月15日、10月15日の図を抜き出したのが図7です。

2019年に親潮域に現れた暖水渦(2020/2/5「2019年の親潮をアニメーションで振り返る」)は、夏(図7(c)))には弱まるかにも見えましたが(2020/7/15「暖水渦の影響弱まる? 」)消えないまま一年間親潮域に残りました。

仙台管区気象台によれば、北海道から東北沿岸にかけて親潮が影響する面積(親潮面積)の3月から4月の値は、暖水渦の影響で1982 年の統計開始以降で最も小さくなっています[3]

この暖水渦が2019年台風19号による東北の大雨に関わっていたという研究を行いました[4]。後日紹介する予定です。

2010年から2016年の暖水渦についてはプレス発表を行いました(北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに ―海洋熱波とブリの漁獲量にも関連性―)。

図2と図7(a)を比べると昨年より今年の方が暖水渦(A)が東に寄っており、親潮域が冷たくなっています。


図6: 図3に対応する2019年1月1日から2020年1月29日までのJCOPE2Mによる推定値のアニメーション。

Fig7

図7: 図6から1月15日、4月15日、7月15日、10月15日を抜き出した図。

 

2020年の親潮 (2) 海面と水深100mでの水温と流れ

図8はより高解像度の図5に対応する昨年2020年の1月1日から12月31日のアニメーションです。ただし1時間ごとではなく、1日平均にしています。


図8: 図5に対応する2020年1月1日から12月31日までのJCOPE-T DAによる推定値のアニメーション(ただし1日平均)。


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黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。

  1. [1]親潮第一分枝・第二分枝については親潮はどんな流路になっているの?で解説しています
  2. [2]天気の影響を受けやすい海面よりも海流の状態を反映していると考えられます。
  3. [3]3~4月の親潮面積が最小を記録しました」(pdf, 仙台管区気象台, 2020年5月28日)
  4. [4]Iizuka, S., R. Kawamura, H. Nakamura, and T. Miyama (2021), Influence of Warm SST in the Oyashio Region on Rainfall Distribution of Typhoon Hagibis (2019), SOLA, doi:10.2151/sola.17a-004.
    私(美山)も共著者に加わっています。