「ちきゅう」のための海流予測2 (7)予想どおり海面下の流速上昇

観測後に一般公開

現在室戸岬沖で航海終盤をむかえている地球深部探査船「ちきゅう」の、航海後の一般公開が予定されています。

室戸沖での国際深海科学掘削計画(IODP)第370次研究航海「室戸沖限界生命圏掘削調査(T-リミット)」を終えて、高知新港に寄港します。これにあわせて、11月12・13日に船内の一般公開を実施します。
詳細は http://www.jamstec.go.jp/j/pr/ship/#20161112

その「ちきゅう」と支援船から10月24日までの観測データが届いたので、今回はそれについて見てみましょう。

図1の赤記号は、前回の10月17日午前9時から、10月24日午前9時までの「ちきゅう」の位置です。いったん位置を移して体制を整えるのと、掘削地点(★)で掘削するのとを繰り返しながら作業を進めています。

今回の観測には支援船2隻も参加しています。支援船は、「ちきゅう」に物資を補給したり、「ちきゅう」の上流から強い海流が来ないかを警戒したりすることで、「ちきゅう」の観測を助けます。今回、和歌山県勝浦港に寄港していた第八明治丸(支援船2)は、10月18日から「ちきゅう」のやや北西に位置して警戒船の役割を果たした後、23日に勝浦に寄港しています(図1青線)。新潮丸(支援船1)は、「ちきゅう」の観測を支援したり、室戸岬沖まで往復して黒潮の動きを探ったりしています(図1緑線)。

「ちきゅう」の観測については「ちきゅう」公式Twitter「ちきゅう」船上レポートをご参照ください。

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図1: 「ちきゅう」(赤線)、支援船1(新潮丸、緑線)、支援船2(第八明治丸、青線)の航路。●がそれぞれの期間のスタート地点で、▲がそれぞれの期間の最終地点。10月17日午前9時から10月24日午前9時まで。

 

「ちきゅう」公式Twitterより


「ちきゅう」が観測した流速

図2赤線は、「ちきゅう」が観測した海面近く(15m深)の流速の時間変化です。流速が1ノット前後で変動しています。

前回まで、海面下の流速がじわじわ上昇すると予測してきました。観測(黒線、313mでの流速)を見ると、実際に流速は強くなってきており、約1ノットに達しています。予測通りの動きになっているようです。

図2: 「ちきゅう」の観測した10月12日午前9時から24日午前9時までの流速(ノット)の時系列。10月17日9時からのデータが今回の追加分。赤線は15m深の流速。黒線は313m深の流速(作業や移動の影響を受けていると考えられる時期のデータは除いた)。

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室戸岬沖での黒潮の位置

黒潮の位置を支援船のデータから確認しておきましょう。図3は、10月22日の、[左上]「ちきゅう」と支援船1と2の航路、[右上]その航路に対応する緯度位置(縦軸)と観測された海面近く(深さ15m)の流速の大きさ(ノット、横軸)、[下]1日の中での時間(横軸)と流速(ノット、縦軸)を見たものです。

この日、支援船1(緑線)は室戸岬沖を往復しています(図3左上)。その際、黒潮中心と考えられる3ノット近くの流速を横切っています(図3下)。その緯度位置を見ると、北緯33度よりもやや南です(図3右上)。黒潮の中心はこの緯度を流れ、室戸岬ではやや離岸しているようです。黒潮の中心はまだ掘削地点(★)からは遠く、「ちきゅう」とその近くにいた支援船2の流速は約1ノットです(図3下の赤線と青線)。

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図3: 10月22日の「ちきゅう」と支援船のデータ。[左上]支援船の航路。●がそれぞれの期間のスタート地点で、▲が最終地点。赤が「ちきゅう」。緑が支援船1。青が支援船2。黒★が掘削地点。[右上]対応する緯度(縦軸)と流速(ノット、横軸)。[下]流速(ノット)の時系列。


今後の見通し

掘削地点周辺の海流予測は、「ちきゅう」のための海流予測特設サイトで毎日更新し、公開しています。JCOPE-T-JCWJCOPE-T-EASという二つの予測モデルを使っています。

その中から、JCOPE-T-JCWの、10月30日12時における海面での流速分布の予測値を見ると(図4上)、黒潮は室戸岬沖でやや離岸して南に下がっていますが、依然として掘削地点の北に位置して、掘削地点()付近では強い流速にはならないと予測しています。

連載第5回で解説したように、海面よりも海面下では黒潮が南に下がっています(図4下)。その影響で、掘削地点での流速の予測時系列(図5)を見ると、JCOPE-T-JCWでもJCOPE-T-EASでも、海面下の流速(たとえば水色線の300メートル深の流速)がじわじわと上昇すると予測が続いています。それでも、流速はせいぜい1ノット強にとどまると予測しています。

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図4: JCOPE-T-JCW予測による10月30日12時(日本時間)の海面での流速(ノット; 矢印は海流の向きと強さ; 色は海流の強さ)(2016/10/26号の予測より)。(上段) 海面。(下段) 深さ300メートル。★が掘削地点。白い記号は風向きと強さ。

 

Fig5

図5: 掘削地点での流速(ノット)の予測の時間変化(2016/10/26号の予測より)。深さごとに色が分かれており、赤が海面での流速。クリックすると図が拡大。(上段) JCOPE-T-JCW。(下段) JCOPE-T-EAS


予測モデルJCOPE-Tについて(2)

前回に引き続き「ちきゅう」のための予測に使っているJCOPE-Tについて解説します。

JCOPE-Tには、JCOPE-T-JCWJCOPE-T-EASの2種類があります。図6はJCOPE-T-JCWJCOPE-T-EASの計算領域です。計算領域外の海流の影響は、JCOPE2Mからデータをもらって計算をしています。

JCOPE-T-JCWのJCWは、Japan Coastal Waters (日本沿海)の略で、日本周辺の海を予測しています。一方、JCOPE-T-EASのEASは、East-Asian marginal Seas(東アジア縁辺海)の略で、より広い領域の海を予測しています。

JCOPE-T-JCWは、JCOPE-T-EASと同じ分解能で狭い範囲しか計算していないので、一見あまりメリットが無いように見えます。しかし、日本周辺の範囲だけを計算していることから、大気の影響を計算に入れる時に、日本周辺の詳細な天気予測である気象庁のメソモデルを利用することが可能になっています。一方、JCOPE-T-EASでは、それよりは粗い気象予測であるNCEP(National Centers for Environmental Prediction:米国国立環境予報センター)のデータを全期間で使っています。また、JCOPE-T-JCWの方が計算量が少なくて済むので、「ちきゅう」のための海流予測特設サイトでは、JCOPE-T-EASよりも先に最新の予測が出てきます。

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図6: JCOPE-Tの計算領域。赤枠がJCOPE-T-JCWの計算領域。青枠がJCOPE-T-EASの計算領域。

 

 


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「ちきゅう」のための海流予測の連載記事一覧はこちら
この連載では、流れの速さの単位として船舶でよく使われるノット(2ノットは約1メートル毎秒)を使用します。
「ちきゅう」のための海流予測特別サイトはhttp://www.jamstec.go.jp/jcope/vwp/chikyu.2016.09/です。
「ちきゅう」の観測の様子に関しては「ちきゅう」公式twitter船上レポートを参照。