黒潮大蛇行の歴史

過去にいつ黒潮大蛇行が発生していたかをまとめました。

1960年代から現在

ある程度まとまった黒潮の観測があるのは1960年代以降になります。図1の細黒線は、東海沖における黒潮流路の最南下緯度の、1960年代以降の時間変化です(気象庁によって推定された月毎の値)。値が小さいほど、黒潮が南まで蛇行していることを意味します。細黒線のグラフは変化がギザギザしていて傾向がわかりにくいので、13ヶ月毎に平均(13か月移動平均)して、なめらかな線にしたのが赤太線です。

黒潮が北緯32度(図1の点線)より南下した状態で安定していることが黒潮大蛇行の判定の目安です[1]。気象庁が大蛇行だと判定しているのが図1の緑でぬった期間になります。図1の中から開始時期が不明で1963年まで続いた大蛇行期間を除くと、表1のように6つの期間が黒潮大蛇行と判定されています。6つめの2017年8月から始まった黒潮大蛇行は、現在も継続中です。

Fig1

図1: 気象庁の推定による黒潮の最南下緯度の1960年代以降の時間変化。黒細線は月毎の値。赤太線はその13か月移動平均。緑でぬった期間が気象庁が判定した黒潮大蛇行。データは気象庁のサイトで入手した。

 

開始 終了 期間
1975年8月 1980年3月 4年8か月
1981年11月 1984年5月 2年7か月
1986年12月 1988年7月 1年8か月
1989年12月 1990年12月 1年1か月
2004年7月 2005年8月 1年2か月
2017年8月 ?

表1: 気象庁が判定した1965年以降の黒潮大蛇行のリスト。開始日、終了日、期間。

 

黒潮大蛇行の時には紀伊半島で離岸しており、紀伊半島の串本・浦神の潮位差が小さくなります(「潮岬への黒潮接岸判定法は?: 串本・浦神の潮位差」参照)。したがって、紀伊半島の串本・浦神の潮位差が安定して小さくなることからも黒潮大蛇行が判定できます。図2は、串本・浦神の潮位差の時間変化です(黒細線が月毎の値、赤太線がその13か月移動平均)。黒潮大蛇行の期間(緑でぬった期間)には串本・浦神の潮位差が小さくなっていることがわかります。

Fig2

図2: 串本と浦神の潮位差(串本の潮位から浦神の潮位を引いたもの)の時間変化。単位はセンチメートル。黒細線は月毎の値。赤太線はその13か月移動平均。緑でぬった期間が気象庁が判定した黒潮大蛇行。データは気象庁のサイトで入手した。

 

1960年代以前

1960年代以前の黒潮については、はっきりした観測がありません。しかし、限られた観測や、串本・浦神の潮位、漁師の体験談などから、黒潮大蛇行期間が推測されています。ここでは、岡田の1978年の論文[2]の第1表をもとに、1960年代以前の黒潮大蛇行の期間を表2にまとめました。

黒船で有名なペリー艦隊は、来航した1854年に黒潮を観測しており、岡田(1978)[2]はペリー艦隊の観測資料をもとに、その時も黒潮大蛇行だったと推測しています[3](開始や終了の時期はわかりません)。

1854年以前にも黒潮大蛇行は発生していたはずですが、よくわかっていません[4]。北西太平洋の深海底の堆積物から最終氷期から現代にいたる黒潮大蛇行の変遷史を復元する研究[5]が、高知大学を中心にして進められています[6]

開始 終了 期間
?1854年(ペリー艦隊による観測) ? ?
1870年 1875年 6年
1890年 1891年 2年
1906年4月 1912年9月頃 6年5か月
1917年2月 1922年3月頃 5年1か月
1934年3月1日頃 1944年前半 10年
1953年7月9日頃 1955年12月頃 2年5か月
1959年5月19日頃 1963年5月頃 4年0か月

表2: 岡田(1978)[2]の第1表をもとにした、1965年以降の黒潮大蛇行のリスト。開始日、終了日、期間。

まとめ

表1と表2の黒潮大蛇行の期間をまとめて図にしたのが図3です。表1の期間は濃い緑で図1・図2と同じです。表2の期間は表1の期間よりも確実性が低いという意味で薄い緑にしています。

図3を見ると、黒潮大蛇行が頻繁に発生する時期と、比較的間が空く時期があることがわかります。風などの変化によって黒潮の状態が変わり、黒潮大蛇行が発生しやすさが変わるためだと考えられます(APLコラム「黒潮大蛇行が12年ぶりに発生 —最新の理論で確かめてみると—」参照)。

また、表1・表2や図3を見ると、以前は黒潮が発生すると2年以上続いていたのが、最近は1年強程度で終わっています。このことから、最近は黒潮大蛇行が維持されにくくなっている可能性があります。その理由として、黒潮が速くなっていることや[7]、海洋表層の水温が上がっていること[8]が考えられます。ただし、現在発生している黒潮大蛇行はまだ終わっておらず、久しぶりに期間の長い黒潮大蛇行になる可能性もあります。

Fig3

図3: 表1と表2の黒潮大蛇行期間をまとめた図。表1の期間が濃い緑。表2の期間が薄い緑。

 

  1. [1]例えば1999年から2000年にかけても黒潮が北緯32度より南下している時期がありますが、安定して続いていないので黒潮大蛇行とは判定されていません。
  2. [2]岡田正美,1978:黒潮の大蛇行歴(1854-1977)と潮汐観測.号外海洋科学.Vol. 1,No.2,81-88.
  3. [3]岡田(1978)の論文の図は、「海流予測の展開」~黒潮の予測に挑む~(宮澤泰正, pdf)の図3で見れます。
  4. [4]ジョン万次郎が漂流した時(1841年)に黒潮大蛇行だったという説があります(BS日テレ「日米の架け橋 ジョン万次郎の真実を追え!」参照)。
  5. [5]黒潮大蛇行変遷史の解明を目指した学術研究船白鳳丸 KH-16-6 次航海を高知港から開始 〜黒潮と日本の気候変動との関連を探究〜」(2016年11月7日高知大学のプレスリリース)
  6. [6]この研究は、NHKスペシャル「黒潮 ~世界最大 渦巻く不思議の海~」で紹介されました。
  7. [7]黒潮の流速(流量)が大きくなると、黒潮大蛇行を作っている渦が押し流され、黒潮大蛇行が維持されにくくなります(「黒潮大蛇行が終わる時: 2005年の場合」参照)。
    参考論文:
    Tsujino, H., S. Nishikawa, K. Sakamoto, N. Usui, H. Nakano, and G. Yamanaka, 2013: Effects of large-scale wind on the Kuroshio path south of Japan in a 60-year historical OGCM simulation. Climate Dynamics, doi:10.1007/s00382-012-1641-4.
  8. [8]海洋表層の水温が上がり、深層との温度差(成層)が大きくなると、黒潮大蛇行になりにくくなるという研究があります。
    参考論文:
    Kurogi, M., and K. Akitomo, 2006: Effects of stratification on the stable paths of the Kuroshio and on their variation. Deep Sea Res., Part I, 53, 1564-1577, doi:10.1016/j.dsr.2006.07.003.

美山 透

海の変化は、漁業海運エネルギー天候など様々なことに影響します。海洋予測がもっと身近なものになるように、頭をしぼって書いています。