2016/3/18日号「潮岬での黒潮急加速」で解説したように、黒潮が紀伊半島の先端・潮岬に接岸するかしないかは、下流の黒潮に大きな影響を与えます。黒潮が潮岬に接岸しているかを観測から判定するにはどうすれば良いでしょうか?今回は、串本・浦神の潮位差を利用する伝統的な方法を紹介します。
紀伊半島の串本と浦神には海面の高さを測る潮位計があります(場所は図1)。それぞれの潮位計の観測データから、串本の潮位から浦神の潮位を引いた値(串本・浦神の潮位差)を計算することで、接岸しているか離岸しているか判定することができます。
- 串本・浦神潮位差が大きい → 黒潮が接岸
- 串本・浦神潮位差が小さい → 黒潮が離岸
とされています。
その理由は以下のように説明できます。2015/3/20日号「黒潮が八丈島の南を流れているのをどうやって観測で確認するの?」でも解説したように、流れの強い黒潮をはさんで、本州に近い方は海面高度が低い、逆の沖側では海面高度が高いという関係があります。そのため、2016年1月28日のように黒潮が潮岬に近づくと(図1上段)、串本に高い海面高度が近づき、浦神より潮位が高くなります。したがって串本・浦神潮位差が大きくなります。一方、2016年2月16日のように黒潮が潮岬から遠ざかると(図1下段)、串本も浦神も潮位が低くなります。したがって串本・浦神潮位差が小さくなります。
気象庁から串本・浦神の潮位差のデータを入手し、時系列を見てみると(図2)、確かに黒潮が潮岬に近づいていた2016年1月28日には潮位差が大きく、潮岬から遠ざかった2016年2月16日には潮位差が小さくなっています。
図2を見ると、3月末に串本・浦神の潮位差が上昇しているので、黒潮が潮岬に近づいていると推定できます。実際、今週号予測や、2016/3/30「ちきゅう」のための海流予測(4)離岸傾向jは今どこに?で、黒潮の潮岬への接岸を確認することができます。
このように、串本・浦神の潮位差は便利な指標なので、今後の解説でも登場します。
※1 串本・浦神の潮位差は、東京大学大気海洋研究所「潮位データを用いた黒潮モニタリング」の「黒潮の流路情報」でも見ることができます。