更新日:2023/4/5

2年目の日本海と耕洋丸船員さんの雄姿

山中 晴名(三重大学)

2023年1月19日から31日に行われた「耕洋丸」(水産大学校練習船、図1)の航海観測に参加しました。この観測の目的は、ずばりJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)をはじめとした日本海での大気海洋相互作用の調査です。ラジオゾンデ(図2)とXCTD(eXpendable Conductivity, Temperature and Depth、図3)によって空と海の鉛直分布を同時に、高時間分解能で測る!というのが本観測の強みです。

この航海では、1時間毎の集中観測を3回実行しました。ターゲットはそれぞれ、①1/21に発生したJPCZ(終息期?)②1/24に発生したJPCZ(最強寒波)③1/27に日本海上に発生した胃袋型気圧配置(極前線またぎ)です。それ以外の期間は、3時間毎または6時間毎の定時観測を行いました。また、海洋構造を詳細に測るためのXCTD単独観測も実施しました。

満を持してやってきた10年に一度クラスの寒波。2週間ほど前から強い冬型になることが世界中の数値予報モデルで予報されていました。高まる期待と緊張!しかし観測チーム、耕洋丸の船員さん、そして陸上支援部隊は2年目ということもあり万全の準備とシミュレーションをすることができました。

②1/24に発生したJPCZ観測では、あと少し判断が遅ければだれかが波に攫われていてもおかしくないというほど危険な場面もありました。時が経つにつれ、どんどんとJPCZが本領を発揮してきました。荒れ狂う海!叫ぶ風!波高は6mを超え、すさまじい暴風雪のなか1時間毎の観測を実行しました(図4)。しかし、観測開始から18時間ほど経った頃には、素人や学生が船外に出ることが安全上難しい状況となり、もはや観測続行は不可能かと思われたそのとき!一等航海士からのひとこと、「我々にやらせていただけませんか。」なんと船員さんだけで放球作業を行うことで、なんとか観測を完遂させようという提案でした。激しい暴風雪のなか安全帯を装着しながら懸命な観測を行うこと36時間・・・!やっとのことで獲得したデータを西川さんがさっそく船内で解析してみると、息をのむほど美しいプロファイルが取れていました。

この観測を成功させることができたのは、ひとえに耕洋丸の船員・学生の皆様の尽力があったからです。また陸上支援部隊(川瀬さん・柳瀬さん・渡邉さん・栃本さん・春日さん)からの情報がなくては、あのような良い位置とタイミングでJPCZを待ち受けることはできなかったでしょう。

私は1年前にもHotspot2の日本海観測航海に参加させていただき、修士論文でもその中で遭遇した現象に注目しています。なぜ2回も乗船することになったかというと、日本海の不思議に取り憑かれているからです。観測してみて改めて、あるいは初めて、違和感を覚えた昨年に続き、さらなる観測データを収集することで日本海の秘密を解き明かしたい。そんな思いで乗船を志願しました。

そこで目にした光景は、日本海から湧き出すあたり一面の湯気でした。四方八方から押し寄せる湯気、まるで海全体が大きな温泉のよう(図5)。これが雪雲の種か・・・!発生条件はまだわかっていませんが、冬の日本海の秘密をまた一つ垣間見た気がしています。

もう一つ、興奮したポイントは③胃袋型気圧配置観測です。当初、本田仮説では下降気流があるはずなので海況は穏やかだろう、と予想していました。しかし強風は一向に止まず、一体なぜ?という強い違和感と不安に一同は襲われました。そんなとき、「ちょうどここは極前線付近だ。もしかしたらあたたかいSSTが風速を強めているのかもしれない・・・」と本田さんが思いつき、他のみんなも「そりゃ面白い説だ!やろう!」と息巻いて1時間毎の観測を決行しました。するとSSTの急低下と同時に、驚くほど明瞭な風速の弱化が捉えられたのです。なんと!観測しながら新たな仮説を立て、それを確かめるという現場に立ち会うという感動体験でした。

・・・まだまだ語りたいことはあるのですが、長くなるのでここで留めておきます。2023年の日本海観測は文字通りの大成功でした。その耕洋丸の船員さんのためにも一つでも多くの研究成果をあげたいと、下船後より一層かみしめています。

図1 耕洋丸

図2 ラジオゾンデ観測

図3 XCTD観測

図4 デッキに積雪(まだ平和だったとき)

図5 海面から湧き出す大量の湯気!