最近の海洋熱波・寒波(2021/3) 黒潮大蛇行と黒潮続流

最近の水温の状況

最近の日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。

図1は、今年1月19日と3月4日の海面の水温の平年との差を見たものです[1]。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく1月19日と3月4日の、水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。1月19日の状況は1月27日号で解説しています。

黒潮大蛇行が1月より成長して、黒潮大蛇行の冷水渦により平年より冷たい水温の領域が拡大しています(図1,2、A)。

黒潮大蛇行の影響で黒潮が関東・東海沖近くを流れ、沿岸で平年より温度が高くなっています(図1,2、B)。気象庁は2020年の日本沿岸の平均海面水位が過去最高を記録を記録したと発表し、その一因として黒潮(海面水位が高い)が関東から東海地方の沿岸に接近して流れることが多かった影響をあげています[2]

また、東北大学の杉本准教授らは、黒潮大蛇行による関東・東海沿岸の暖水から関東地方に多くの水蒸気が流れ込み、温室効果により蒸し暑い夏になるという研究を発表しています[3]

親潮周辺では「暖水渦は続くが影響は限定的(親潮ウォッチ2021/2)」で解説したように、暖水渦により平年より水温が高い領域は小さくなってきており、むしろ冷水が目立ちます(図1,2、C)。

黒潮続流が平年より北を流れているため、水温が平年より高くなっています(図1,2、D)。下でさらに解説します。

日本海や(図1E)や東シナ海(図1F)では海面で1月よりも3月のほうが平年より水温が高い領域が多くなっています。日本海では海面下でも水温が平年よりかなり高くなっています(図2E)。

日本南方(図1G)では平年よりも水温が低め、日本はるか南方(図1H)ではかなり高めになっています。日本はるか南方では海面より限定的ながら海面下でも水温が高い領域が見られます(図2H)。

今後の日本周辺の水温については、「季節ウォッチ」も参考にしてください。

Fig1

図1: 海面の温度の平年との差(℃)。[上段]2021年1月19日。[下段] 3月4日。

 

Fig2

図2: 水深100mの水温の平年との差(℃)。[上段]2021年1月19日。[下段] 3月4日。

海洋熱波・海洋寒波

海洋熱波とは、数日から数年にわたり急激に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は過去100年間で大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。

図3は、海洋熱波でよく用いられている基準[4]を使って日本周辺の海面での海洋熱波の発生状況を見たものです。数字が1以上になっている所が統計的に10%以下しか発生しない高い温度である海洋熱波が発生している所です。数字が大きいほど強い海洋熱波であることをしめしています。図1(b)が平年よりどれだけ水温が高いのかを温度差でしめしているのに対し、図3はその温度のまれさの度合いをしめしています。

黒潮続流、関東から東海沿岸、日本のはるか南方、日本海北部、日本海沿岸で海洋熱波が発生しています。

一方、平年より温度が低い海洋寒波も発生しています(図3で負の値)。黒潮大蛇行による冷水渦、北海道東方沖が海洋寒波になっています。

Fig3

図3: 2021年3月4日における日本周辺海面の海洋熱波と海洋寒波の発生状況。

 

黒潮続流

図1の四角点線で囲った部分は平年より非常に高く、奇妙な分布に見えるかもしれません。そこで図1のような平年からの差ではなく、2021年の3月4日の海面水温(上段)と平年の3月4日海面水温(下段)にしたのが図4です。図4には2021年3月4日の海流と平年の3月4日の海流もしめしています。

図4を見ると、千葉県沖で黒潮から続く黒潮続流が平年よりも北を流れており、そのために図1の四角点線で囲った部分が平年よりも高くなっていることがわかります。黒潮続流については黒潮の続き、黒潮続流で解説しています。黒潮続流が平年より北を流れるか南を流れるかは、漁業や気候に影響ががあり、そのメカニズムや予測は重要な研究テーマです。そのことは黒潮はどれくらい先まで予測できるのでしょう?で解説しています。

図4は、今の紀伊半島の南で黒潮が大蛇行しており、水温に影響していることもしめしています。

Fig4

図4: 海面の温度(色)の流れ(矢印)。[上段]2021年3月4日。[下段] 平年の3月4日。

 

図1の四角点線で囲った部分で2月の平年差が1993年から2021年までどのように変化したかを見ると、図5のようになります。図5を見ると、黒潮続流域が温度が高くなる年は過去にもあったことがわかります。とは言え、2021年はJCOPE2Mで推測している1993年以降では、もっとも高い水温でした。

図5を見ると、ゆっくりと黒潮続流の水温は高くなりつつあるようにも見えます(赤線: 2021年を除くと10年で約0.2℃の上昇。2021年も含めると約0.4℃の上昇)。このまま単調に温度が上がるかはわかりませんが、JAMSTECの西川研究員による地球温暖化研究によれば、黒潮続流は北上すると予測されています[5]

Fig5

図5: 図1の四角点線で囲った部分で2月の平年差の1993年から2021年までの時間変化(℃)。黒点線は0℃。赤点線は2021年を除いたトレンドライン(10年で約0.2℃の上昇)。

 

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2012年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。
  2. [2]2020年の日本沿岸の平均海面水位が過去最高を記録(気象庁, 2021/2/25)
  3. [3]黒潮大蛇行が関東地方の夏をより蒸し暑く(東北大学, 2021/3/4)
  4. [4]JCOPE2Mの1993~2012年のデータを使い、統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合に海洋熱波としています。平年との差が海洋熱波の基準(90%タイルと気候平均の差)の2倍以上である場合は2,3倍以上である場合は3とカテゴリー化しています。笹川平和財団・海洋危機ウォッチ「【研究紹介】 海洋熱波 -marine heat waves-」参照。逆に統計的に10%以下(10パーセンタイル)の低温が5日以上続いた場合には海洋寒波としています。
  5. [5]21世紀の温暖化予測モデルにおける親潮と黒潮のフロント検出(Progress in Earth and Planetary Science, 2020)