最近の海洋熱波・寒波(2023/6) 前例の無い高水温

最近の水温の状況

最近の日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。

図1は、先月5月25日と今月6月22日の海面の水温の平年との差を見たものです[1]。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。

北日本の周辺で平年より高い水温になっています。

特に暖水渦の影響を受けて親潮が弱まっている東北沖・北海道南東や黒潮続流の北偏の影響を受けている海域では、海面も海面下も平年よりかなり高い水温になっています(「夏への見通し」(親潮ウォッチ2023/6)参照)。

日本海でも海面も海面下も平年より水温が高くなっています。

気象庁は、日本近海の3~5月の平均海面水温の平年差は+0.6℃となり、統計を開始した1982年以降で、2021年と並んで高い方から第3位タイの記録となったと発表しています(「春の日本の平均気温と日本近海の平均海面水温の記録的な高温について~統計開始以降最も高い平均気温~」) 。特に、日本海及び本州東方は過去最高の水温となっており、前例のない高水温になっています。

黒潮大蛇行の冷水渦で平年よりかなり冷たい水が存在します(図1, 2) 。また、黒潮大蛇行の影響で黒潮が関東・東海沖近くを流れ、沿岸で平年より温度が高くなっています(図1,2) [2]

東シナ海の海面水温も平年より高めになっており、これから梅雨後期の豪雨への影響が心配されます(「豪雨の鍵を握る東シナ海」参照)。

今後の日本周辺の水温については、「季節ウォッチ」も参考にしてください。

 

Fig1

図1: 海面の温度の平年との差(℃)。[上段]2023年5月25日。 [下段] 2023年6月22日。

Fig2

図2: 図1に同じ、ただし水深100m。

海洋熱波・海洋寒波

海洋熱波とは、数日から数年にわたり極端に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は過去100年間で大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。

図3は、海洋熱波でよく用いられている基準[3]を使って日本周辺の海面での海洋熱波・寒波の発生状況を見たものです。同じく、図4は水深100mでの海洋熱波・寒波の発生状況です。

数字が1以上になっている所が統計的に10%以下しか発生しない高い温度である海洋熱波が発生している所です。数字が大きいほど強い海洋熱波であることをしめしています。図1,2(b)が平年よりどれだけ水温が高いのかを温度差でしめしているのに対し、図3,4はその中でもまれな温度変化をしめしています。

日本海及び本州東方は記録的な高水温となっており、海面では「強い」から「厳しい」カテゴリーの海洋熱波が見られます。

水深100m(図4)では、海面と同様の領域が海洋熱波になっているのに加えて、日本黒潮大蛇行の冷水渦では極端な海洋寒波になっています。

Fig3

図3: 2023年6月22日における日本周辺水深1mの海洋熱波と海洋寒波の発生状況。

 

Fig4

図4: 図3に同じ、ただし水深100m。

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2020年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。
  2. [2]黒潮大蛇行で夏の関東蒸し暑く」(杉本周作、新学術研究領域・気候系のHOTSPOT2研究成果紹介)
  3. [3]JCOPE2Mの1993~2020年のデータを使い、統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合に海洋熱波としています。平年との差が海洋熱波の基準(90%タイルと気候平均の差)の2倍以上である場合は2,3倍以上である場合は3とカテゴリー化しています。逆に統計的に10%以下(10パーセンタイル)の低温が5日以上続いた場合には海洋寒波としています。